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創業3年でナスダック上場の中国PDD 低所得者の味方か、偽物の集大成か

   2018年7月26日、中国の電子商取引(EC)サイト、拼多多(Pinduoduo)が米国ナスダック市場に上場し、株式コードはPDDとされた。上場初日の終値は40%も値上がりし、創始者の黄峥氏の資産総額は140億ドルに達し、同じく中国のECサイトである京東(JD.com)創始者の劉強東氏を超えた。拼多多の創立から上場までわずか3年で、掛け値なしの蓄財神話ともいえる。

   しかし、拼多多はこの上場の日から、巨大な論争の渦に巻き込まれた。このECサイトの商品価格の安さは目を見張るほどだが、中には多くの偽物商品が氾濫している、と指摘されているからだ。上場から一週間もたたないうちに、拼多多は中国工商行政管理部から呼び出しを受け、同時に米国の多くの法律事務所による連合訴訟通知を受け取った。

   「中国の膨大な低所得層の需要を満足させた」と讃える声がある一方、「偽物・劣悪商品の集大成であり、卑しく汚いやり方だ」と非難する声もある拼多多の株価は、7月26日に26.70ドルだったが、8月9日現在20.24ドルに下がり、もう戻れないだろうと証券業界の多くは見ている。

  • 「PDDのWEBサイト」
    「PDDのWEBサイト」
  • 「PDDのWEBサイト」

「日立」ならぬ「立日」の洗濯機

   みんなで一緒に買うと安く、卸価格で販売する。こうした意味を中国語では「拼」と言う。「多々」は、たくさんの人が集団で買い物するという意味だ。

   拼多多では商品の価格は思っているより遥かに安く、こんなに安くしてくれるEコマースは中国にはいままでなかった。

   だが、よくよく見ると、商品のブランドが違っていることがある。

   たとえば、中国のスマートフォンメーカー、「小米」(シャオミ)は誰もが知っているが、拼多多で売っている「小米新品」のスマホは通常の小米の半額という。ただし、中国には「小米新品」というスマホは、小米の製品ではないし、小米の製品と思って使おうとすると、それは大間違いだ。

   テレビもそうだ。中国のテレビメーカーに「創維」があり、日本ブランドなら「先鋒」(パイオニア)もあるが、拼多多では「創維先鋒」というテレビを売っている。それは創維とパイオニアの合弁企業で作ったものかと聞くと、そんな合弁企業はない。

   中国市民が日常よく食べる調味料の「老干媽」がある。拼多多では一字違いの「老于媽」を売っている。テレビコマーシャルなどで有名な「老干媽」ではなく、拼多多は値段の安い「老于媽」を売っている。

   「日立洗濯機」は中国でも有名だが、拼多多では「立日」洗濯機が買える。国産の有名なTCLテレビとは違う「TGL」テレビを拼多多では売っているという具合だ。

   最近では公表された調査結果では、

   「webクローラー技術によって6月27日~7月27日の間の拼多多の家電販売額トップ100の商品のうち、偽ブランド商品と思われるものが39点あり、総販売額に占める割合にして57.82%、販売量に占める割合は63.37%にのぼる」というものだった。

月商1兆6000億円 の商法

   拼多多は創業から3年に満たずに、月販売総額一千億元(約1兆6000億円)を実現するという驚くべき記録を実現し、一躍中国国内で七番目に大きいIT企業となった。

   拼多多は中・低所得の価格重視型の人々をターゲットユーザーとし、極めて高いコストパフォーマンスで最も人数の多い消費者市場をこじ開けた。このやり方は、かつてのショッピングサイトの淘宝網(タオバオ)ととても似ている。異なるのは拼多多がモバイルを主にしていることだ。

   一定の数を集めると、商品の価格を安くするというビジネスモデルは、無理してでも数を集め、しかもケイタイという新しい道具を使って、見知らぬ人のサークルに一時的に参加して、安い商品を手に入れる環境を作ってしまう。無数のサークルは自然発生的に組織され、あっという間に3億人のユーザを獲得する。

   拼多多は高密度の広告を打ち、短時間でプラットフォーム型ブランドの構築に成功した。黄峥氏がこの手段を取り入れる背後には彼の師であり、有名スマホブランドvivoやOPPOの投資者段永平氏があり、そこから学んだものである。昨今の中国の三大広告主は、vivo、OPPOそして拼多多となっている。

   大々的にコマーシャルを打ち、ビジネスモデルをウイルスのようにどんどん伝染していくなか、偽物が多ければ消費者の不満なども当然高い。

   しかし、中国ではもともと偽物にたいする取締が緩く、消費者の不満などは無視してもいいし、行政処分を受けても痛くはない、と考える企業が多い。

   電子商取引大手のアリババはまだ小さい時に、一度上海で企業を作ったが、追い出されて仕方なく杭州に移った。拼多多は、それを見て、あえて上海に本社を置き、そこから株式をナスダックに上場した。

   だが、拼多多が今後、消費者の反発を受け、さらに米国の多くの法律事務所による連合訴訟の「試練」を乗り越えて、タオバオのようにすくすくと成長していくのかどうか。答えが出るまでには、しばらく時間がかかるだろう。

(在北京ジャーナリスト 陳言)