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限界に近づく中国の「家庭債務」  リーマンショック時の米国状態

   上海財経大学高等研究院は、2018年7月14日に『家庭債務危機及びそこから生じ得るシステム性の金融リスク』と題する研究報告を発表。その内容に多くの人々が驚愕した。

   この報告では、中国の家庭債務がすでに多くの家庭が持ちこたえられる限界に到達している、と指摘している。2017年には、中国の家庭債務の可処分所得に対する比率が107.2%に達しており、すでに米国の現在の水準を上回り、さらにリーマンショックと呼ばれる米国の2008年金融危機発生前のピーク値に近づいている。

   また、表に出ていない民間ローンなどは統計に含まれていないため、事実上、中国の多くの家庭はすでに火の車の状態だ。

  • 中国では多くの家庭が火の車だ
    中国では多くの家庭が火の車だ
  • 中国では多くの家庭が火の車だ

可処分所得を上回る借金

   家庭債務の高低を判断するにあたり、一般的に二つのデータを統計の基準としている。一つは家庭負債が国内総生産(GDP)に占める割合であり、もう一つは家庭債務が可処分所得に占める割合である。

   今回の報告によると、2017年の中国の家庭債務がGDPに占める割合は48%に達しており、この数字はすでに他の途上国を大きく上回っている。

   中国の家庭債務の水準を評価するとき、家庭債務がGDPに占める割合が先進国の76%以下であるならば安全だとは言えず、中国にふさわしい評価指標について考える必要があり、それが家庭債務と可処分所得の比率で、この比率はなんとすでに107.2%に達しているのだ!

住宅ローン金利上昇で短期借金に走る個人

   2017年以降、不動産バブルの調整政策及び銀行ローンの引き締め政策などの影響により、個人による人民元の中長期ローンの増加額は16年を大きく下回った。しかし、個人の短期債務は顕著な増加が見られた。

   2018年の中国マクロ経済情勢分析及び予測段階の年央報告によると、2018年に入って最初の5カ月間だけで個人による新たな短期債務は8600億元(約13兆7600億円)だった。その前の2015年、16年の2年分の短期ローン合計額は1兆3700億元(約21兆9200億円)に過ぎなかった。

   今、人々が不安を募らせているのはまさにこの点だ。関連する統計によると、短期ローンの増加部分は、いわゆる「消費のアップグレード」とされる。しかし、これはかなりいい加減な見解だ。仮に、「消費のアップグレード」を携帯電話やよりスマート化された家電の買い替えと単純にとらえるならば、人々の日常生活の経験からすると、どれだけの家庭がローンをしてまでこれらの物を購入するのだろうか?

   重大な懸念をもって推測されているのは、これらの短期ローンの増加が銀行の住宅ローンの引き締めに起因しているのではないか、という点だ。各家庭は住宅ローン以外の方法でローンを組んで住宅市場に入るしかない。こうしたローンは償還期限が短く、利息も高く、家庭経済の流動性に強烈なショックを与えるだけでなく、さらに社会の不安定要素にもなることだろう。

企業収益にも連鎖する不安

   今回の報告によると、家庭債務の累積が消費に働く作用は家庭部門の内部に限られているわけではない。とりわけ企業部門の連鎖反応を引き起こす。 家庭債務の過度の累積は、家庭における消費を大いに圧迫し、総需要を下げることになろう。

   総需要の低下は、必然的に企業収益にマイナスの影響を及ぼし、企業も経営を維持するためにレバレッジをかけざるを得なくなる。

   企業業績が下がれば、従業員の昇給にも影響が及び、家庭経済の流動性の改善がより難しくなり、さらに家庭の消費が冷え込み、引いては総需要も後退することになり、従って、企業の経営業績は一層悪化する。

   企業の活力が減退するならば、債務を期限までに償還できるかどうかに直接影響し、この影響がさらには銀行システムにも及び、銀行システムの安定性にも影響する。

   中国社会科学院金融重点実験室の劉煜輝部長は、7月21日にあるフォーラムで

「我々は3年ないし5年の苦しい暮らしをするだろう」

と警告している。国外ではトランプ大統領が仕掛けてきた貿易戦争があり、国内では企業も家計もたいへん苦しい状況にある。とくに限界に近づきつつある家庭債務の累積が中国経済に与える影響は極めて大きい。

(在北京ジャーナリスト 陳言)