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軽減税率に商品券... 消費増税への「便乗バラマキ」に疑問の声も

   安倍晋三首相が消費税率引き上げを改めて表明したのは、実施まで1年を切った10月15日の臨時閣議の席上でのことだ。

   法律の規定通り実施すると改めてアナウンスするのは本来、妙な話だが、そこは首相が税率引き上げを2度にわたって延期した過去があるから。「再々延期」の観測を打ち消さないと準備が間に合わず、小売りの現場が大混乱に陥る懸念があるからという。ただ、消費税増税対策としてバラマキ的な支出のメニューも多く、財政規律の緩みへの懸念は強い。

  • 消費税率引き上げを改めて発表した安倍首相
    消費税率引き上げを改めて発表した安倍首相
  • 消費税率引き上げを改めて発表した安倍首相

早めの発表で「選挙」への影響最小限に

   このタイミングでの発表には、政治的な思惑も指摘される。2019年は春に統一地方選、夏に参院選が予定され、野党は「消費不況の状況から脱却できていない」(立憲民主党の枝野幸男代表、15日夕のラジオ番組出演後)など、反対姿勢を強めており、首相としては早めの実施表明で既成事実化し、選挙での争点化を回避しようという狙いがあると指摘される。

   とはいえ、税率引き上げには課題が多い。大前提として、引き上げ前の駆け込み需要、引き上げ後の反動減、そして消費の落ち込みを避けなければならない。そのために、安倍首相は15日の臨時閣議で、「あらゆる施策を総動員する」と宣言し、2019、2020年度予算で特別の措置を講じる方針を示した。

   具体的に消費税率アップで大きな影響を受ける小売り現場への対策がまず大事だ。政府はレジ改修の補助金制度を設けているが、加えて、税率引き上げの2%分を、中小小売業者限定で、かつキャッシュレス決済を利用した消費者に限って、ポイントとして還元する方針を打ち出した。増税対策の最大の目玉で、還元期間は半年~1年程度を想定している。

   このほか、過去の税率アップ時に倣い、住宅や自動車の購入に減税措置を取る。さらに国土強靭化などのための財政出動で景気の落ち込みを防ぐ方針も示している。

   こうした対策は円滑に実施できるのか、また効果が本当にあるのか。

誰が得するの?プレミアム商品券

   ポイント還元の対象には、増税と同時に導入される税率が8%に据え置かれる軽減税率対象の飲食料品も含める方向という。そうなれば実質的に税率6%になって、現在より税負担が軽くなるという矛盾が生じる。そもそも、首相が検討を指示した直後から「お年寄りなどはキャッシュレスを利用できない」「たくさん買い物する金持ちが得する」などの批判が噴出している。

   さらに、公明党は低所得者対策としてプレミアム商品券の発行を求めている。例えば1000円で購入し1100円分の買い物ができる商品券で、差額(この場合は100円)を公費で賄う。これにも商品券を大量に買い込む人が出るなどの問題も指摘され、商品券を購入できる人に所得制限を設けることも検討する見通しだ。とはいえ、増税による税収の増加分を使って、低所得の年金受給者に最大年6万円を給付することなども決まっており、誰が得するかわからないような商品券を疑問視する声がある。

   景気対策(落ち込みを防ぐ)の名の下に、国土強靭化など財政出動をわざわざ「消費税率引き上げ対策」として打ち出すことにも疑問は根強い。

   安倍政権は消費税率引き上げを2度延期し、今回の引き上げも増収分の一部を他の施策に回し、財政再建目標も先送りするなど、財政再建には熱心ではないと一般に受け止められており、今回の消費税増税対策には大手紙も辛口の論調が目立つ。

政権支持の読売・産経も釘を刺す

   各紙は15日の首相表明を受け16日朝刊で一斉に社説を掲げ、日経と読売はその前にも掲載。「消費税は高齢化で増え続ける社会保障費の安定財源である。......そうした観点から増税を予定通り行うのは妥当だ」(毎日16日)というように、引き上げをやめろという論はない。

   他方、財政出動には、「反動減対策の歳出は厳選せよ」とのタイトルで財政に絞って論じた日経(16日)が「野放図な歳出拡大につながっては困る。対策は効果を吟味し厳選すべきだ」「対策を財政支出に過度に頼るべきではない」「消費増税対策に名を借りたバラマキは慎むべきだ」と、警鐘乱打の趣。日ごろ、安倍政権支持の論調が目立つ読売(13日)が「統一地方選や参院選向けに、与党議員から歳出圧力が強まる可能性がある。増税対策に名を借りたバラマキに陥ってはならない」、同じく産経(16日)も社説にあたる「主張」で「経済効果の薄いばらまきは、厳に慎まなくてはならない」とくぎを刺す。

   特に評判が悪いのは国土強靭化関係で、「消費税対策として実施するのは筋違いではないか」(朝日16日)、「需要喚起のため公共事業費を積み増す案があるが、相次ぐ災害に便乗して非効率な事業が紛れ込む恐れがある」(毎日)などと指摘する。