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山里亮太編集長、首都直下地震を考える 「日本に安全なところはない」

J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(左)
J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(左)

   こんにちは。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太です。

   早いものでもう12月。2018年は天災の多い1年でした。地震にも悩まされました。

   6月の大阪府北部の地震、9月の北海道胆振東部地震と、甚大な被害をもたらしました。

   いつ来てもおかしくないと言われる首都直下地震や南海トラフ地震が、もし今起こったら......? 僕たちはそんな心の準備がちゃんとできているでしょうか。

   2018年最後の企画は、「首都直下地震」です。

   東京大学地震研究所教授で政府の地震調査委員会委員長を務める平田直(なおし)さんにお話を聞きに行きました。

「関西には地震起こらない」説がでまわったワケ

山里: 9月の北海道の地震では、直後に北海道全域が停電したりと、大きな影響が出ました。そもそも北海道って、地震は結構起こるところなんですか?

東京大学地震研究所教授で政府の地震調査委員会委員長を務める平田直氏
東京大学地震研究所教授で政府の地震調査委員会委員長を務める平田直氏

平田: 起こりますね。意外ですか? そうおっしゃる方は少なくないですね。1995年の阪神・淡路大震災の際も、被災者からは「関西に地震が起こるとは思わなかった」という声がありましたが、科学的には全く根拠のない風説です。デマですね。

山里: デマ!? なんでそういうのが出回るんですか?

平田: おそらく、自分が一度も地震を経験したことがなく、親の代も、おじいさんおばあさんの代もない。3代くらい経験がないと、その地域では地震がないと思い込んでしまいます。実は関西でも、京都府などで強い揺れとなった1927年の北丹後地震など、大きな地震は起きています。

山里: じゃあ、何か科学的根拠があるわけではなくて、知り合いや親族が経験をしていないから「あー、このあたりは地震とか起きないんだな」って思い込んでしまうってことですか。

平田: そうです。2016年4月の熊本地震もそうでした。被災者の方はメディアのインタビューでも、「九州は台風が来たり大雨が降って洪水になったりするので、風水害に関してはよく知っていて備えている。でも、まさか大きな地震が来て被害出るとは思わなかった」とおっしゃるんですね。
05年に福岡県西方沖地震がありましたが、熊本の人は大きな地震を一度も経験したことがないかもしれません。お父さんお母さんの時もない、おじいさんおばあさんの時もない。ところがですね、1889年には明治熊本地震といって、6年間の間に4回も2016年の熊本地震くらいの地震が来ているんですよ。

山里: そうなんですか!?

平田: ええ。16年に大きな被害が出た熊本城も、実はたびたび震災で石垣が壊れたりしています。県の防災資料や、図書館に行って郷土資料を見れば、すぐにわかることですが、なかなかそこまで手間をかけられる人は多くありません。
実際には、自分が経験したことがないとか、お父さんお母さんの時代、30~40年地震がないと、「ここの地域には地震がない」と思いがちですね。

山里: ということは、日本に住んでいる限り、自分の住んでいる場所にいつ大きな地震が来てもおかしくない、っていう気持ちでいたほうがいいってことですね。

平田: その通りです。

山里: どこかこの地域に住んでいれば安全、とかいうのは......?

平田: 日本の中にはありません。

山里: やっぱり、そうですか......。

平田: これを見てください。そのことを示すために、阪神・淡路大震災の発生を機に作った「全国地震動予測地図」です。震災10年後の2005年に初版ができました。日本中どこで強い揺れになりやすいか、なりにくいかということを示しています。
地球上まんべんなく地震がおきているわけではなくて、日本は世界の中でもとりわけ多いんですね。
例えば、ここにある世界地図では過去に起きた地震を示していますが、ちょうど太平洋をふちどるような、いわゆる環太平洋の地震火山帯があって、日本列島には沢山の印がついています。列島の地形が埋もれてしまうほどです。ここで安心な場所を探そうと思っても、無理です。

「全国地震動予測地図2018」より (C)地震調査研究推進本部・地震調査委員会
「全国地震動予測地図2018」より (C)地震調査研究推進本部・地震調査委員会
過去に起きた地震を示す地図。日本列島にはたくさんの印が......
過去に起きた地震を示す地図。日本列島にはたくさんの印が......

「地図を見てると完全に絶望ですね」

山里: もう、地図を見てると完全に絶望しかないですね。

平田: 東日本大震災の前も、東北は地震が多く起こっていたんです。北海道も太平洋沖で沢山起きています。関西は地震がないのかというとそんなことはなくて、やはり多く起きています。九州でもそうです。これは過去に起きた地震なので、「昔起きたかもしれないけども将来は起きるとは限らない」とは言えますが、「昔起きた場所でまた地震が起きても不思議ではない」というのが地震学者の見方です。

山里: みんな自分のところには地震が来ない、って思っているところがありますよね。そう言っている自分も、なんだかんだ言って今自分が住んでいる東京にはそんなのこないんじゃないかって......。

平田: じゃぁ、ちょっとこちらの地図を。パッと見ただけで日本地図全体でも白い(地震のリスクが低い)ところがないんですね。北海道から九州、沖縄まで。
今表示されているのは、地震研究所がある東京都文京区ですが、拡大しても真っ赤な状態です。これは、30年以内に震度6弱以上の地震に見舞われる確率が26%以上だということを示しています。一段階色が薄くなった地域でも6~26%。26%とか10%とかって言われると確率が低いと思われるかもしれませんが......。

山里: 思ってしまいます!

平田: でも、日本で30年以内に交通事故にあってけがをする確率は24%です。30年以内に火災に遭う確率は1.9%です。

山里: そんなに低いんですか。

平田: それでもみなさんはちゃんと交通事故の任意保険や火災保険に入っているでしょう。30年で10%というのは、私たちが生きている間に起こりうる、ということです。

山里: たしかに。

平田: 地図が真っ赤な地域に住んでいる人は、確実にそう思わなければなりません。この地図はウェブサイトで公開されていますから、どなたでも住所をいれると自分の家がどのくらいの確率で地震に見舞われるかが分かります。ちなみに、ここ地震研のある東京都文京区を拡大していくと......。

J-SHISより。地震動予測地図。東京はご覧のとおり真っ赤。(C)国立研究開発法人防災科学技術研究所
J-SHISより。地震動予測地図。東京はご覧のとおり真っ赤。(C)国立研究開発法人防災科学技術研究所

山里: 真っ赤!!!!

平田: ええ。ここで震度6弱の地震が発生する確率は50%ということですね。

山里: えー!

平田: 昔は「こういうことをすると土地の値段が下がるからやめてくれ」という人がいましたが、それでも皆さんの税金で調査をして、公表しましたので、しっかり活用してほしいですね。

山里: 僕が所属している会社、吉本興業の東京本社なんかは、いつできたんだろうってくらいわからない小学校を借りて使っていて、耐震工事もあんまりしていなさそうなところなんですが......。(編注:耐震工事は完了しています)

平田: いや、それはね、社長さんはちゃんと考えていますよ(笑)。社長は社員の命を守るのは義務ですから。

はみだしコラム...東大の地震研、どんな研究してるの?(1)

   日本に大きな被害を及ぼす地震の多くは海底で起きています。その「現場」をいち早くキャッチできれば、津波の予測も精度が上がります。そこで取り組みを進めているのが、海底地震計の設置です。

   黒いチューブは、海底ケーブルのレプリカです。地震動と津波のセンサーが入っています。オレンジ色をしたチタン製の耐圧容器の中には、地震動センサ、時計、記録装置、そして電池が収められています。東大地震研に展示されているのは現地収録型で、本物です。

東京大学地震研究所に展示されている海底地震計のレプリカ(上のケーブル)
東京大学地震研究所に展示されている海底地震計のレプリカ(上のケーブル)
自由落下自己浮上式海底地震計(オレンジの球)<本物>
自由落下自己浮上式海底地震計(オレンジの球)<本物>

平田: ケーブル式の海底地震計を海の底に置いて、津波が発生したことをいち早く検知して、津波警報を出して、避難を促します。地震がどこで起こっているか、プレートがどこに沈み込んでいるかを正確に分かる必要がありますから。

山里: 津波警報って、かなり速くなりましたよね。やっぱり信憑性も向上しているんですか?

平田: 1983年の日本海中部地震では、地震発生から14分後に津波警報が発表されましたが、その時にはすでに津波が到達していた地域が多かったことが問題になりました。
そこで気象庁は1980年代、地震が海で起きたことをいち早く検知して津波の警報を出す仕組みを整備したんです。現在では、3分後には津波警報が出せるようになっています。でもそれでも多少間違えるんですね。計算によってどういう津波が来るかを予測しているので。

山里: そうですよね。

平田: 2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の際は、東大地震研と東北大はケーブルでつながった津波計と海底地震計を運用していましたが、それまでの津波は「10~20センチ」というレベルでした。3.11の地震はあまりにも大きく、当時送られてきた「3~4メートル」というデータの意味することがすぐには理解できないほどでした。
当時、釜石・三陸沖に設置していた2か所の津波計と3か所の海底地震計をつなぐ長さ約120㎞海底ケーブルは1本だけでしたが、それではダメだということで、今では青森沖から茨城沖くらいまで、総延長5700km、150か所に観測点を設けて海底ケーブルでつなぐネットワーク「日本海溝海底地震津波観測網」(S-net)が防災科研によって運用されています。

山里: さらに精度を上げる研究が進んでいるんですね。

平田: 「逃げてください」って言っても逃げない人がいっぱいいる。それでは困るので、少しでもリアルに伝えられないかと考えています。科学の力を使って海岸に津波が押し寄せる20分前にそのことを知らせる。それが、科学ができることですよね。

(続く)



(プロフィール)

平田直(ひらた・なおし)
1954年東京都生まれ。東京大学地震研究所教授・地震予知研究センター長、国立研究開発法人防災科学技術研究所首都圏レジリエンス研究センター長、地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長、地震防災対策強化地域判定会会長、「首都圏を中心とするレジリエンス総合力向上プロジェクト(forR)」研究総括。専攻は観測地震学。近著に『首都直下地震』(岩波新書)がある。