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村田諒太は世界王者に返り咲けるか アルバレスのミドル級復帰で大きな壁が

   ボクシングのWBA世界スーパーミドル級タイトルマッチが2018年12月15日(日本時間16日)、米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われ、サウス・アルバレス(28)=メキシコ=が、王者ロッキー・フィールディング(31)=英国=に3回2分38秒TKO勝利を収めた。

   WBA、WBCのミドル級王者であるアルバレスは、今後、階級を本来のミドル級に戻す意向を示しており、世界返り咲きを目指す、同じくミドル級の村田諒太(32)=帝拳=の復帰ロードに大きな影響を及ぼしそうだ。

  • 村田諒太選手(2018年9月撮影)
    村田諒太選手(2018年9月撮影)
  • 村田諒太選手(2018年9月撮影)

アルバレスは試合前から、ミドル級に戻ると公言

   1階級上のスーパーミドル級でもアルバレスの強打は健在だった。身長が12センチも高い王者に対し、アルバレスはボディー攻撃を中心に試合を組み立て初回から完全にペースを握った。初回と2回にそれぞれ左ボディーでダウンを奪い、3回に右ストレートでダウンを奪うと、左ボディーでフィニッシュ。計4度のダウンを奪っての圧勝劇で1階級上のベルトを獲得した。

   アルバレスは試合前に、「勝って再び自分の階級(ミドル級)に戻る」と公言しており、来年は階級をミドル級に戻し、ミドル級王者として防衛戦を行っていく。アルバレスは現在、WBAスーパー王座とWBC正規王座の2つの王座に君臨している。WBA、WBCのミドル級には、アルバレス以外の王者がおり、WBAはレギュラー王者、WBCには暫定王者が存在する。これにIBFとWBOの王者がそれぞれおり、計5人の世界王者が存在することになる。

   現役続行にあたり村田は、ミドル級とスーパーミドル級の2つの階級を視野に入れて世界返り咲きを目指すことを明かしたが、現状、減量の不安がないため、スーパーミドル級に階級を上げる選択は現実的ではない。ボクシングは階級が1つ異なるだけで、対戦者のパンチ力が格段に強くなるといわれ、受けるダメージもより大きくなる。

   ミドル級のリミット72.57キロに対して、スーパーミドル級は76.20キロ。減量に不安がないボクサーが、約3.6キロも重い1つ上の階級でリングに上がるのはリスクが高い。しかも、村田はアマチュア時代から一貫してミドル級で戦ってきただけに、スーパーミドル級のパワーに対応できるかどうかは未知数である。

村田の前に立ちはだかる401億円ボクサー

   村田がミドル級で世界返り咲きを目指すにあたって、アルバレスの存在大きな「障害」となる。アルバレスは動画配信サービスDAZN(ダゾーン)と、今回の試合を含む11試合で3億6500万ドル(約401億5000万円)という大型契約を結んでいる。通常、米国では放映権を持つTV局主導のもと、試合のカードが決められる。アルバレスの場合、DAZNがそれに該当し、破格のファイトマネーに見合うボクサーのみが対戦相手になりうる。

   ここ最近では世界のベルトの価値が昔ほど高くないとはいえ、話題性などの側面からタイトルホルダーが対戦候補の筆頭となる。各団体の王者もまた、大金が見込めるアルバレスとの対戦を望んでおり、来年のアルバレスは、IBF、WBOの王座統一、またはWBA、WBCにそれぞれ存在する王者との対戦が続くだろう。

   王座統一戦の合間を縫って、元2団体統一王者ゲンナジー・ゴロフキン(37)=カザフスタン=との3度目の対戦もあるだろう。再戦となった今年9月の試合ではアルバレスが判定で下し、ゴロフキンに40戦目にして初の黒星をつけた。世界中のボクシングファンが3度目のメガファイトを熱望しており、アルバレスは「もし人々が望むのなら」と前向きな姿勢を見せた。

   村田の世界戦戦略の現実的な路線は、10月22日に村田から王座を奪ったWBA王者ロブ・ブラント(28)=米国=への挑戦だろう。ブラントは村田と同じプロモーター、ボブ・アラム氏と契約を結んでいることから再戦に関してなんら支障はない。ただ、ブラントは来年2月に初防衛戦を予定しており、この試合で敗れた場合は状況が大きく変わってくる。また、ブラント陣営はアルバレスとの対戦に興味を示しているとの一部報道もあり、ブラントが初防衛に成功したとしても、陣営がV2戦に村田を選択するか否かは不透明である。

金メダリストだが、世界的な知名度は高くない

   2012年ロンドン五輪で金メダルを獲得し、日本人選手として初めてアマチュアとプロの世界で頂点を極めたとはいえ、世界的には村田の知名度は決して高くはない。主要4団体のうちのひとつであるWBAのベルトを巻いたことで一度は「世界進出」への切符を手にしたが、世界的に無名だったブラントに完敗を喫したことでボクシングの本場、米国での商品価値が大きく下落した。

   現在、村田の世界ランキングはミドル級でWBA7位、WBC6位、IBF6位で、WBOはランク外となっている。世界15位以内にランクされていれば、世界王座に挑戦する権利が与えられ、村田は3団体で世界戦可能となっている。ただ、村田が目指す王座に君臨する王者が、さらに上に格付けされるアルバレスとの対戦に興味を持っており、各陣営は防衛戦よりも王座統一戦に傾いている。アルバレスが次々と塗り替えていく世界ミドル級の勢力図。村田の復帰への道は平坦ではない。