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山里亮太編集長、首都直下地震を考える 首都圏直撃、そのとき僕は...?

東京大学地震研究所教授で政府の地震調査委員会委員長を務める平田直氏(左)と、J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(南海キャンディーズ)
東京大学地震研究所教授で政府の地震調査委員会委員長を務める平田直氏(左)と、J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(南海キャンディーズ)

   こんにちは。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太です。

   2018年最後の企画「首都直下地震」では、東京大学地震研究所教授で政府の地震調査委員会委員長を務める平田直(なおし)さんにお話を聞いています。

   前回の取材(山里亮太編集長、首都直下地震を考える 「日本に安全なところはない」)で、東大がある東京都文京区で30年以内に震度6弱以上の地震に見舞われる確率は「26%」で、日本で30年以内に交通事故にあってけがをする確率よりも高いと聞きました。正直、びっくりでした。数字を出されるとぐっと緊張感が増します。

   今回のテーマは「首都直下地震」です。今、東京に巨大地震が来たらどんな被害が出るのか――。そのあたりを聞いていきます。

東北の1000分の1のエネルギーでこの被害

山里: やっぱり読者の皆さんも僕も気になるのが、首都直下地震です。(「全国地震動予測地図」を見ながら)首都圏、真っ赤ですよね。今東京に地震が来たら、被害ってどれくらいなんですか。

平田: 大変なものです。内閣府の中央防災会議が公表していますが、その説明前に、これまで起きた地震のことを復習しましょう。2016年の熊本地震は大きさがマグニチュード(M)7.3で、約260名の方が亡くなっているんですね。そのうち直接亡くなった方は50名ですが、避難所などで病気が悪化した方、災害関連死と呼ばれる方が200名、全部で250~260名が亡くなっている。8000棟以上の家屋が全壊し、家が被害を受けているのが10数万あったのでピーク時で18万人が避難しました。
阪神・淡路大震災のときは6400人以上の方が亡くなり、10万棟が全壊しました。大変な被害です。ただし、地震そのもの大きさは、どちらもM7.3です。神戸などの大都市を地震が襲うと非常に大きい災害になるのです。

山里: じゃあ、もしこの規模の地震が首都圏で起こったら......?

平田: これらの震災に比較しても、首都直下で地震があると大変な被害が予想されています。内閣府の中央防災会議は、2万3000人が犠牲になって、61万棟が全壊すると推計しています。2万人というのは東日本大震災で亡くなったり、行方不明になったりした方に匹敵するくらいの被害です。
この想定の地震の大きさはM7.3、熊本で起きた程度の大きさの地震です。東日本大震災を引き起こした地震(東北地方太平洋沖地震)はM9.0です。熊本や想定されている首都直下の地震の大きさはM7.3。東北のM9.0の地震の1000分の1のエネルギーしか放出されません。それでも、首都直下地震では2万3000人とか61万棟という被害想定なんです。

山里: 1000分の1!?

平田: 東北で起きた地震の1000分の1のエネルギーで、熊本では8000棟が倒れましたが同じエネルギーの地震が首都圏で起こったら、61万棟です。

山里: つまり同じエネルギーでも、どこで起きるかによって被害に大きな差が出ると?

平田: ええ。首都圏には多くの家屋がありますが、残念なことに、耐震化されていない建物がたくさんあります。

山里: そうなんですか。

平田: 大きな地震があるたびに建築基準法は見直されてきました。1番重要なのが1981年の改正です。私たちはそれ以前の基準を「旧耐震」、それ以降のことを「新耐震」と呼んでいますが、まだ、かなり「旧耐震」の建物があります。
日本全体の建物の2割がそうです。東京都は全国平均より旧耐震が少ないのですが、それでも1割が旧耐震です。東京都の「防災都市づくり推進計画」では、旧耐震の木造住宅が密集している地域を解消しなければいけないという重点地域を28選びました。その重点地域は東京都23区の面積の1割を占め、そこには180万人、23区の人口の2割が住んでいます。これが東京都で大きな地震があったとき、多くの人命や建物が失われてしまう原因の一つです。

地震がないのは「たまたま」。「運が良かっただけ」

山里: 対策の取りようはあるんですか?

平田: あります。なぜ東京都が「推進計画」を公表しているのかというと、重点地域の住人に補助を出して耐震化の整備を進めているからです。ただし、あくまで「補助」なので、一軒を丸々建てられるような金額を渡しているわけではありません。そこで「ウチはこのままでいい」と言われてしまうと、行政としてはもう仕方がありません。

山里: そういう反応をするってことは、「30年以内に地震がある」と聞いても、「30年後かもな」って思っているのかもしれませんね。

平田: それではちょっと困りますね。明日かもしれないし、明後日かもしれない、10年、20年後かもしれない。
熊本や神戸の地震はM7.3だったんですが、M7くらいの地震は、日本のどこかで1年に1回は起きているんですよ。それがたまたま海域や、地下の深いところで起きれば人間には影響はありませんが、都市のすぐ下で起きれば大震災になる。首都圏で最後に大震災が起きたのは大正の1923年の関東大震災で、10万5000人が亡くなりました。非常に運がいいですが、その後は大きな地震がありませんでした。それは「たまたま」です。
でも明治からの統計を調べると、M7くらいの地震は日本中で1年に1回程度起きていますし、18年に大阪や北海道で起きたクラスの地震(M6レベル)は1か月に1回くらいは起きています。
たまたま大阪や神戸で起きて大きな災害になったというだけで、東京や横浜、千葉で起きない理由はどこにもありません。

地震予知は可能か?

山里: でも先生、これだけ大きな被害が出ることが分かっているのであればですね、自分が住んでいる場所に、いつ地震が来るかは分からないんですか。

平田: 「何月何日何時何分どこどこで地震が起きますよ」というのは「地震予知」といいますが、残念ながら、そういった情報は現在の地震学では出ません。これまで、東海地震だけは「2~3日から1週間以内に地震が起きる可能性がある」という「直前予知」を出す予知体制を前提にしていました。
この「直前予知」が出ると、法律に基づいて首相から警戒宣言が発令され、鉄道を止めたり、店舗や工場、学校などを休みにしたりする仕組みなのですが、17年11月になって、こういったレベルの「直前予知」は出さないことを決めました。少なくとも公の情報として地震予知はできないということです。

山里: やっぱり、いつ来るかは分からないんですね。

平田: ただし、私は「地震予知研究センター」というところで地震の予知、予測の研究をしています。例えば、こういう(「全国地震動予測地図」のような)地図は、いつ地震が起きるかは分かりませんが、「生きているうちにこの地域で必ず地震が来る」「こっちではより強い揺れになる可能性がある」ということは分かるわけです。ですから、現在の地震学を使って、将来の揺れに備えることはできます。

山里: 大きな地震が来たときに、よくネットがざわつくんです。たとえば、直前に「魚が異様な行動を取っていた」「変な形の雲が空に浮かんでいた」とか。そういうのって、実際の地震と因果関係はあるんですか?

平田: 科学的にはありません。それでも、これで地震に備えてくれるんだったらいいんです(笑)。ナマズだろうが雲だろうが、私は大いに歓迎ですが、ただこれで困るのは、「地震が来る」と言っている人は、実は「来ない」とも言っていることです。

山里: というと?

平田: 「明後日地震が来る」ということは「明日は来ない」、「1週間後に来る」というのは「それまで来ない」と言っているに等しいですよね。
場所についても同様で、「東京に来る」と言えば大阪の人は安心してしまいます。「どこでも来ます」と言ってくれれば安心なんですけど(笑)。「いつどこで来る」というのは、裏返すと安心情報を流していることになるので、困ったことです。

山里: 確かに「東京に来る」と言われれば「親戚もいるし、大阪に逃げちゃおう」ってなっちゃうんですよね......。どこにも安全な場所なんかないはずなのに。

はみだしコラム 東大の地震研、どんな研究してるの?(2)

   地震と火山活動には密接な関係がありますが、必ずしも「火山があるところに地震が起こる」わけではありません。例えば山里名誉編集長の出身地の千葉県に火山はありませんが、被害予測地図では「真っ赤」なところが目立ちます。地震と火山の関係について、もう少し詳しく聞きました。

平田: 地震のあるところと火山のあるところは、地球規模でみると大まかには同じです。でも、こういう風に地図を拡大すると、本当に火山のあるところには火山性の地震があって、普通の地震とちょっと違うんです。

山里: 今パッと見た感じ、火山が沢山ある阿蘇、鹿児島とかよりも、火山がそんなにない千葉とかのほうが真っ赤になっていますね。

平田: 火山には「火山前線」(フロント)という並びがあって、これより西側には火山があって東側にはありません。火山前線は関東では群馬県や栃木県を通っているので、それよりも東にある千葉には火山はありません。

山里: たしかに。千葉には火山はないけど、ものすごく危険だって言われているんですよね。

平田: 先ほどの予測地図で、千葉市は確率が高くなっていますが、それは横浜市やお台場と同様です。県庁や市役所が埋め立て地に建っているから揺れやすい。だから「特に千葉市が被害が多い」というわけではありません。むしろ、千葉の成田とかのほうが太平洋プレートが沈み込むことによって起こる地震が多いです。でも、千葉市役所のあるところは埋め立て地なので揺れやすい。
地盤が固いところは揺れにくいし、柔らかいところは揺れやすい。都市は平野にあるので、みんな揺れやすいのですね。さらに、外房は津波が来ます。東日本大震災の時も、津波の犠牲者を含め千葉県で22人が犠牲になり、2人が行方不明になっています。茨城県では66人が亡くなり、1人が行方不明になっています。

山里: 当時はあまり大きくは報道されなかったんですけど、千葉、茨城でも大きな被害があったんですよね。

(続く)



(プロフィール)

平田直(ひらた・なおし)
1954年東京都生まれ。東京大学地震研究所教授・地震予知研究センター長、国立研究開発法人防災科学技術研究所首都圏レジリエンス研究センター長、地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長、地震防災対策強化地域判定会会長、「首都圏を中心とするレジリエンス総合力向上プロジェクト(forR)」研究総括。専攻は観測地震学。近著に『首都直下地震』(岩波新書)がある。