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山里亮太編集長、首都直下地震を考える 「地震は必ず来る。都心でのサバイバル術とは」

東京大学地震研究所教授、平田直さん(右)と、J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(南海キャンディーズ)/東大地震研究所にて
東京大学地震研究所教授、平田直さん(右)と、J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(南海キャンディーズ)/東大地震研究所にて

   こんにちは。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太です。

   2018年最後の企画「首都直下地震」では、東京大学地震研究所教授で政府の地震調査委員会委員長を務める平田直(なおし)さんにお話を聞いています。

   過去2回の取材(第1回:日本に安全なところはない)(第2回:首都圏直撃、そのとき僕は...?)では、「今の日本に安全な場所などない」と知り、しかも首都直下地震が起きたらどれくらいの被害が出るか教えてもらいました。(もうため息しか出ません......)

   3回目のテーマは「サバイバル術」です。巨大地震が来ることが分かっているなら、次はいかにして身を守り「生き残っていく」か、ですよね。

タワマンはパキッと折れたりしないの?

平田: 2011年の東日本大震災では、このあたり(東大)でも震度5強を記録しました。

山里: あの時、結構家の中めちゃくちゃでしたもんね。たしか原宿のあたり歩いていたんですけど、立っていられなかったですもん。それくらいってことですよね。

平田: そうですね。耐震基準を満たしている家だと倒れませんが、ちゃんと固定していない家具は倒れます。地震研究所のこの建物は、免震構造といって揺れを吸収する仕組みがあるので、コーヒーカップも倒れませんでした。ですが隣の建物は耐震の建物で、かなり揺れました。地震研の図書室の本は落ちてきちゃいましたね。

山里: 我が家では、棚に突っ張り棒みたいなものは付けてありますね。

平田: それはいいことです。寝室は大丈夫ですか?

山里: 特に落ちてくるものはないかなぁ。

平田: ベッドのすぐ、頭の横に本棚を置いて、寝る前に本を読みたいというのはよく考えますけども、それは危ないですね。本棚をどうしても寝室に置きたかったら、せめて足の方ですね。

山里: 最近はタワーマンションも増えています。完成してから時間も経っていないし、建築の基準としてもしっかりしているんですよね? 大きい地震が来ても大丈夫なんでしょうか? パキッと折れたりはしないんですか?

平田: 「タワーマンション自体が、大きな揺れでポキッと倒れることはない」と私の友達の建築の先生が言っていますから、私もそう信じています(笑)。ただし、ものすごく揺れます。ですから本棚や食器棚がちゃんと固定されていないと倒れてしまいます。

山里: 地震ってどれくらいの間揺れているものなんですか?

平田: 東日本大震災の際は約3分間、震源で地震波を出し続けて、高層ビルは10分間くらいは揺れましたが、これは例外で、普通は1分程度です。その1分間を生き抜くことが非常に大事ですが、その後が大変です。

山里: といいますと?

平田: 思い出してください。まず北海道の地震の時に何が起きたかというと、停電です。

山里: そうだ! そうでしたね。

平田: 震源の近くに火力発電所があり、そこが被災して電力を供給できなくなりました。その影響で他の発電所も発電を停止し、北海道全域で電気が使えなくなりました。首都圏でも非常に強く揺れれば、湾岸の火力発電所は停止する可能性があります。仮に広域停電になると、私たちの生活というのはほとんど成り立たなくなります。

【まずはこれが重要】1人1日3リットルを3日分

山里: それこそタワーマンションの人は困りますよね。だってエレベーターとか......。

平田: そうです。まずはエレベーター問題です。停電になって止まることもあるし、電気があっても、強い揺れがあると最寄りの階まで行って扉を開けて止まるようになっています。

山里: 30階に住んでいる人が階段で移動するのは、現実的じゃないですよね。

平田: そうですね。そして停電で次に困るのが、水の問題です。たとえ水道自体に被害がなくても、マンションの水はポンプで汲み置いていますから、使えなくなってしまいます。

山里: そのためには、水をたくさん日頃から買いだめしておく?

平田: そうです。それははっきりしていることです。高層マンションの人は、少なくとも3日間は水を蓄えていないとダメですね。
人は1日3リットル飲むといわれていますから、結構な量です。1.5リットル入りのペットボトルを何ダースかストックする必要がありますね。もちろん水だけでは人は生きていけませんから、非常食も必要です。今の非常食はなかなかおいしいです。
さらに水や食料に加えて、病気の人は薬の問題があります。地震の後は家具が倒れたりして薬がどこにあるか分からなくなってしまいますし、すぐに病院で調達するのも難しい。普段から手元に整理しておくことも大事です。

山里: それってすごくシンプルな方法なんだけど、意外にみんな備えていませんよね。

平田: そうですね。

山里: あとは「避難場所」。これは把握しておかないといけませんよね。

平田: 自分が住んでいたり勤務したりしている地域に自治体がウェブサイトで公開していますので、チェックしたほうがいいですね。
実は「避難所」と「避難場所」は違うんですね。例えば東京大学は火災や大きな地震が起きた際の「避難場所」に指定されていますが、校舎に入ってはいけません。文京区には「避難所」が指定されていて、毛布や非常食が備蓄されています。まずは広い「避難場所」に避難し、その後にしばらく滞在する「避難所」に移動する、という流れです。そういったことも含めて、地域の防災マップや避難防災地図で確認しておく必要があります。

地震...! その時必要な3か条

山里: 僕、実家に帰った時に実家のマンションで防災訓練をやるときに、マンションの組合長さんが参加率の低さを嘆いていました。それだけ意識が低いということなんでしょうか。

平田: そうですね。マンションや職場で防災訓練をきちんと行うことは大事ですね。職場のことを考えると、多くの事業者は必ず1年に1回消防訓練や防災訓練を行います。東大地震研では、先生も学生も全員参加で無理矢理やらせますが、多くの会社では総務の人だけが一生懸命やって、他の社員は「忙しいから」と参加しなかったり、遠目に見ていたりするだけの人も多いんじゃないですか?

J-CAST編集部: は、はい(小声)。

平田: 非常に困りますよ。強い揺れがあったときには、首都圏では同時にあちこちで火災が発生しますから、消防車の数が足りません。消防能力を超える火災が発生することは、消防庁も認めています。初期消火が重要になりますが、そのためには消火器がどこにあるか知らなければいけない。一度も使ったことない人が、揺れで大混乱している時に使うのは無理ですから。

山里: 昔は「地震が起きたら火の始末を」と言われていましたが......。

平田: 今は違うんです。消防庁は「まず身の安全の確保をしなさい」と言っています。最初の10秒~1分は身の安全を確保する。そして一旦揺れが収まって見渡した時に火が出ていたら、そこで消火をします。

山里: じゃあ揺れが収まったら、外に逃げたほうがいいんですか?

平田: 住んでいる家によりますね。立派なタワーマンションで家具も固定して備蓄もある人は、留まった方がいいです。やたらに外に出ると、いろんなものが飛んできますから。でも、築40年の木造家屋の人は、やっぱり一刻も早く逃げないと自分の家がぺしゃんこになってしまうでしょう。本来ならば耐震工事をするべきですが、様々な事情でそれができない人もいると思います。
その場合は、(1)すぐに逃げる(2)どこに逃げるかを事前にみんなで相談しておく(3)家族で連絡を取る手段も事前に確認しておく、といった、ちょっとしたことを心がけていただければ、だいぶ命が助かります。

山里: 完全に帰り道で防災グッズをAmazonで買う気がするんですけど(笑)。

はみだしコラム 東大の地震研、どんな研究してるの?(3)

   地震や火山をテーマにした映画で有名なのが『日本沈没』(1973年、2006年)です。映画では、日本各地で大地震や噴火が相次ぎ、日本列島全体が水没してしまいます。

   映画のようなことは本当に起こるのでしょうか。

山里: 極端な話、本当に日本が沈没するなんて、あり得るんですか?

平田: 日本沈没は......、しないでしょう。

山里: しないですか。

平田: 大丈夫です。少なくとも1億年ぐらいは大丈夫です。地震は起きますが、それで沈むことはないです。

東大地震研究所の展示室でも山里編集長は取材。貴重な資料がそろっています
東大地震研究所の展示室でも山里編集長は取材。貴重な資料がそろっています

山里: 僕、最近よく高知県にお邪魔するんですけど。この前行ったら、友達が勤める銀行は、南海トラフ地震を警戒して2階に作ってありました。

平田: それはいい考えだと思いますよ。ですが、上の方にあればいい、というわけではありません。防災センターは30階の一番上とかしないほうがいいです。エレベーターが止まりますから。それから、役員室も上にしないほうがいいですね。エレベーターが止まると、お年寄りは階段で移動するのが大変です。せいぜい3階くらいですね。ペントハウス(最上階部分)が一番危ないです。

山里: 「高知は危ない」って聞くから心配なんですよね。

平田: 南海トラフ地震では、高知県黒潮町には最大で高さ34メートルの津波が押し寄せると想定されています。

山里: 34メートル??

平田: 高知全体が、というわけではなく黒潮町の崖の部分の被害想定です。それでも沿岸部の人が住んでいる場所にも、高さ20メートルを超える津波が来るといわれています。
南海トラフ地震が来ると、首都圏は多分震度5強くらい。2011年の東北地方太平洋沖地震と同じくらいしか揺れないと思います。だから、普通の2~3階建ての家は大丈夫です。むしろ高層ビルが揺れるはずです。2011年には新宿のビルが10分間揺れましたから。

山里: 怖かったですね~! 街中を歩いていたんですけど、ぐわんぐわん揺れて。こんなに揺れることあるんだと思いましたよ。それでビルが倒れてくるんじゃないかと心配になりました。

平田: 東京都が2018年に公開した耐震診断の結果では、1981年建築基準法改正前の「旧耐震基準」で建てられたビルやマンションのうち、震度6強~7の地震で倒壊・崩壊する危険性が「高い」と判定された建物がいくつもあります。たとえば、紀伊國屋書店の新宿本店がある紀伊国屋ビルディング、渋谷109の入る道玄坂共同ビル、新橋駅前のニュー新橋ビルなどがそうです。これらのビルは、是非、耐震改修する必要があります。
紀伊國屋ビルは2018年12月中に、道玄坂共同ビルは2019年度に耐震改修に着工予定ですね。

山里: 古い建物は「アウト」ということになってしまいますか?

平田: ちゃんと対策すれば大丈夫です。例えば東京駅は、切ってジャッキアップして、免震装置を入れました。国立西洋美術館をはじめとする歴史的な建物にも免震改修をしているものがあります。国会議事堂は耐震診断をして、問題はないと分かっています。

(続く)



(プロフィール)

平田直(ひらた・なおし)
1954年東京都生まれ。東京大学地震研究所教授・地震予知研究センター長、国立研究開発法人防災科学技術研究所首都圏レジリエンス研究センター長、地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長、地震防災対策強化地域判定会会長、「首都圏を中心とするレジリエンス総合力向上プロジェクト(forR)」研究総括。専攻は観測地震学。近著に『首都直下地震』(岩波新書)がある。