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サザンがTSUNAMIを再び歌う日 「平成の区切り」で封印は解かれるのか

   突如として三陸海岸などを襲った2011年3月11日の大津波は、災害が相次いだ平成にあっても、ひときわ強いインパクトを残した。東日本大震災では、津波の犠牲者を含めて、死者・行方不明者は2万人近くに上っている。

   そんな中で、平成を代表するサザンオールスターズの大ヒット曲「TSUNAMI」は、曲名による受難が続いている。18年に入って、アルバムで解禁されたものの、未だライブでは歌われないままだ。

  • TSUNAMIは、曲名による受難が続く
    TSUNAMIは、曲名による受難が続く
  • TSUNAMIは、曲名による受難が続く

「リクエストがあっても、なぜか曲を流せなかった」

   「曲のリクエストがあったことをスタジオで紹介しました。しかし、自分でもなぜか分からないのですが、曲を流せませんでした」。元中学校教師の佐藤敏郎さん(55)は、宮城県女川町内のラジオ放送局、女川さいがいFM(現在はオナガワエフエム)の番組「大人のたまり場」で2015年3月3日、パーソナリティを務めたときの様子をこう話す。

   リクエストには、母親を津波で亡くした埼玉県内の40代男性から「変に気遣いされると、苦しくなることがある」とのメッセージが添えられていた。佐藤さん自身も、小学6年生だった次女を津波で失っており、「非常にこの気持ちは分かります」と紹介した。番組プロデューサーの大嶋智博さんも、曲のCDを用意していた。

   しかし、スタジオに集まった町民らの顔色や場の空気を感じて、放送で流すのをいったん見送った。TSUNAMIという言葉で、つらい記憶が蘇る人もいるかもしれない...「今日はまだかけられるときではない」と。

   シングルCDで200万枚以上のセールスを挙げたTSUNAMIは、サザンで一番好きだとする人も多い曲だ。大手の第一興商が18年11月に発表した「平成カラオケランキング」では、12位に入っている。ほかの調査では、SMAPの「世界で一つだけの花」と並ぶ平成の人気曲に挙げられており、震災がなければ、もっと上位に入っていたはずだ。

   ところが、メディアでは、震災の直後からTSUNAMIが流されることがなくなり、事実上の自粛が行われた。曲をカバーするミュージシャンもほとんどいなくなり、カラオケでも歌う人が少なくなったとの報道も出ている。

   それと同時に、サザンも、ライブで歌うことがなくなった。

震災半年、故・勝谷誠彦さんは敢えて流した

   そんな中で、名曲が流れないことを残念に思う著名人もいた。

   コラムニストの故・勝谷誠彦さんは、自らのラジオ番組で2011年9月、「今一度聴いてほしい1曲」としてTSUNAMIを流したのだ。ニッポン放送の番組サイトでは、「賛否両論あるかと思いましたが 99%が『よくかけてくれた』『改めていい曲であることがわかった』といった反響でした」と振り返っている。

   さらに、翌12年1月、今度はジャーナリストの上杉隆さんが、TOKYO FMの番組で、TSUNAMIをオンエアした。上杉さんは、曲をかけたいとじっくり聴き直した結果、「命を落とした方々からの『忘れないで』というメッセージがこもっていると思うようになった」という。

   これに対し、桑田佳祐さんは、同年3月の自らのラジオ番組「やさしい夜遊び」で、上杉さんの曲理解に感謝の意を示すとともに、こんな考えを明かした。

「被災された方や遺族の中にはファンもいた。この曲を歌うモチベーションにはつながらなかった」
「いつか悲しみの記憶が薄れ、曲を歌ってくれという声があれば、復興の象徴として歌える日が来たらいいと思っています」

   つまり、つらい記憶が残る当分の間は、ライブで歌えないということだ。

   前出の「大人のたまり場」パーソナリティの佐藤敏郎さんは、いったんは曲を流すのを見送ったが、1年後の16年3月26日に女川さいがいFMの閉局を控え、リクエストに応えてオンエアに踏み切った。CDをかけるのではなく、佐藤さんがいつものようにギターを弾き、自然な流れの中でスタジオに集まった人たちとTSUNAMIを歌い上げた。

「言葉を聞いて悲しくなるようなことはない方がいい。今を楽しめなければ、亡くなった人たちが雲の上で悲しむでしょう。1年前のときも、さらっと曲をかければよかったかなと今では思っています」

   津波で次女を失った佐藤さんは、自分に言い聞かせるようにこう語った。サザンがライブで歌うことについても、「桑田さんたちがそうしようと思ったときでいいと思っています」と話す。

   番組で曲を流したのは、たまたま女川さいがいFMでの最終回というタイミングがあったためだという。プロデューサーの大嶋さんも、「復興が進む中で、町の人達の総意という意味と、一歩踏み出すという気持ちを込めて、だったらみんなで歌ってしまおうことですね」と当時を振り返る。

地元の自治体でも、曲を流すことに理解を示したが...

   サザンの桑田佳祐さんも、レコード会社などを通じて事前に佐藤さんらのことが耳に入っていた。番組最終回当日の26日になって、桑田さんが、被災した町民を励ましに女川町を訪れた。地元の温泉施設でライブ演奏まで行い、デビュー曲「勝手にシンドバッド」など数曲を披露した。桑田さんの番組「やさしい夜遊び」でも、その様子が同時に流された。

   桑田さんが当のTSUNAMIを歌うことはなかったが、歌った中には、「波乗りジョニー」(2001年発売)もあった。「歌の意味が伝わってきて、感動しました。それが桑田さんの答えだったと思います」と佐藤さんは振り返る。プロデューサーの大嶋さんも、「『津波を乗り越えて もう一度がんばれ』とエールをもらったように感じた人が多かった」と言う。

   3月29日には、女川さいがいFMの閉局に合わせて、このタイミングだからかけられるとして、今度はTSUNAMIのCDをオンエアした。女川町の須田善明町長が生出演し、被災地としての思いを込めて、こんな曲紹介をした。

「むしろ歌い継がれていくこと、語り継がれていくこと、そこにこそ意味があるだろうと思い、それが1人1人の心に届いていくんじゃないでしょうか」

   曲を流したことについて、町民からの抗議などはなく、むしろ歓迎する声の方が多かったという。地元の自治体でも、TSUNAMIを流すことに理解を示した形だ。

「町長が曲を流したことには、インパクトがありました。『歌も被災した』と言っておられましたね」(佐藤さん)。「特に打ち合わせしたわけではなかったが、見事にその場にいた全員の想いを代弁したような曲紹介だった」(大嶋さん)。

   とはいえ、当のサザンは、その後もTSUNAMIを歌う機会がない。2018年6月25、26日に東京都渋谷区内のNHKホールでデビュー40周年を記念したライブがあり、サザンとしては、3年ぶりに本格的な活動を再開したが、ここでも披露されなかった。

   8月1日に発売されたアルバム「海のOh, Yeah!!」では、なんと1曲目にTSUNAMIが収録されている。桑田さんが自らのラジオ番組で7月に語ったところによると、ディレクターから1曲目にすることを提案され、桑田さんらも「これはいいんじゃないか」と納得したそうだ。そして、番組では、桑田さんの曲紹介で、TSUNAMIがオンエアされたのだ。

   アルバムの説明によると、TSUNAMIは、サーフィンのビデオを見ていて曲想がひらめいたといい、「見つめ合うと」「お喋り出来ない」といった歌詞は、男の純情を歌い上げたものだとしている。曲中でも、「津波のような侘しさ」と言葉が例えに使われている。つまり、津波の災害とは、直接関係のない内容であるわけだ。

   サザンは、TSUNAMIが発売された2000年以前は、前衛的な試みに挑戦してセールス上の低迷が続いたともされている。しかし、彼ららしい原点回帰のこの曲で、デビュー当時のような勢いを取り戻した。改めて国民的なバンドとしても認知されるきっかけを作った、サザンにとってはなくてはならない記念碑的作品でもあるようだ。

「また歌っている姿を見たい」「紅白で解禁して」

   確かに、震災後には、ネット掲示板などで、TSUNAMIを流すことについて否定的な声も一部で出た。「詩を作るときにある程度配慮すべきだった」「歌えないだろうな」といった意見があり、中には、「歌詞や曲名を変えて」という極論もあった。

   しかし、TSUNAMIの曲名にしたことには、「桑田は当時そこまで考えられなかっただろう」「相手は自然なんだしどうしようもない」などと擁護する向きもある。ここ数年は、TSUNAMIをライブで期待する声もネット上で次々に出ており、「桑田さんがこの曲をまた歌っている姿を見たい」「紅白で解禁して」といった待望論も出ている。

   ただ、ライブで曲が解禁されたとしても、まだ課題は残っている。

   それは、今後津波で被害者が出たらまた自粛するのか、「3.11」の前後には何らかの配慮をするべきなのかといったことだ。ライブで予定されていても、直前になって差し替えということも予想される。

   サザンは、2019年春、全国ドーム・アリーナツアーを行うことをすでに公表している。そして、18年12月に入って、年末のNHK紅白歌合戦に特別枠で出演することが発表された。35年ぶりに紅白でNHKホールのステージに立ち、最終歌唱を務めて「勝手にシンドバッド」と「希望の轍」の2曲を披露するとしている。

   こうした場で、大災害が相次いだ平成の区切りなどとしてTSUNAMIが歌われることはあるのだろうか。リーダーの桑田さんは、「復興の象徴」としてライブで解禁するタイミングをいつとし、今後はどんな考えで歌っていくのだろうか。

   サザン所属事務所のアミューズでは、マネジメント担当者が次のようにJ-CASTニュースの取材に答えた。

「『TSUNAMI』は震災以降、ライブでの演奏は行っておりません。今後のライブ内容やセットリストなどの詳細に関しては、ライブを楽しみにしてくださるファンの皆様のためにも回答を控えさせていただきます」

   なお、NHKの番組広報担当者は、紅白で3曲目のサプライズがあるかについて、「演出の詳細については、回答を控えさせていただきます」と取材に答えた。

(J-CASTニュース編集部 野口博之)