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岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
米朝首脳会談「決裂」が評価される理由

   2019年2月27日と28日に、ベトナムの首都ハノイで行われた米朝首脳会談が物別れに終わった。一方、米国内ではほぼ同時に、トランプ大統領の腹心だった元顧問弁護士のマイケル・コーエン氏が、反旗を翻していた。

   コーエン氏は議会公聴会で、トランプ氏を「詐欺師、嘘つき」と呼び、不正関与を証言した。これに対し、共和党議員は、コーエン氏に対して「病的な嘘つきで、虚偽と真実を見分けられないのか」と応酬を繰り返した。

   トランプ氏が逆境に立たされているように見えるなか、支持者らは今、どんな心境でいるのだろうか。

  • ハノイで首脳会談を行ったトランプ氏と金正恩氏(ホワイトハウス公式FBより)
    ハノイで首脳会談を行ったトランプ氏と金正恩氏(ホワイトハウス公式FBより)
  • ハノイで首脳会談を行ったトランプ氏と金正恩氏(ホワイトハウス公式FBより)

天敵・ペロシ下院議長も「喜ばしい」

   米国内ではどちらかというと、米朝首脳会談より公聴会への関心が高いように感じられた。

   オハイオ州に住む電気工のクレッグ(20代)は、民主党寄りのCNNなどが、米朝首脳会談はそっちのけで、公聴会の様子を盛んに報道していたとし、「重要な国防、外交問題とどっちが大事なんだ」と怒りを露わにした。

   議会下院が公聴会をあえて、米朝首脳会談とぶつかるように、27日に設定したとされている。米国内では、朝鮮労働党委員長の金正恩氏にトランプ氏が譲歩し、弱腰で合意するのではないかと懸念されていた。

   しかしトランプ氏は、「急いでやるより、正しくやる方がずっといい」と、正恩氏の要求を蹴った。

   これに対し、大手ネットワークNBCは「会談は失敗に終わった」と報道し、ワシントン・ポスト紙は「トランプ氏のカリスマ性や才能が、外交問題では役に立たなかった」と批判した。

   しかし、トランプ氏の決断を支持する声も強い。

   ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「事前の事務レベルの協議が不十分だったのではないか」と疑問を投げかけながらも、「トランプ氏が合意せずに席を立ったことを高く評価する」との報道もしている。

   トランプ氏の天敵とも言える民主党のナンシー・ペロシ下院議長は、「正恩氏と2度も会わなければ、認識に差があることがわからなかったのか」と揶揄しつつも、「大統領が協議の席を立ったことは喜ばしい。北朝鮮は非核化する以前に、制裁解除を要求していた」と述べた。

支持者で広がる「強い大統領」

   オハイオ州に住む60代のニールは、こうした反応に驚きを隠さない。

「トランプ氏が評価されて、心から嬉しいよ。民主党支持者はいつも、彼が何をしても批判するだけだったからね。トランプ氏が国内で支持を失うのを恐れて譲歩すると、正恩氏は甘く見ていたのだと思う」

   トランプ氏は大統領再選を狙っている。それまでまだ時間がある。しかも今、北朝鮮が米本土を攻撃することはないだろう。2020年の大統領選の前に、劇的な合意を取り付け、再選につなげたいと考えているのでは、との声もある。合意が取れなければ、 高い支持率を狙って戦争に踏み切るかもしれないという懸念もある。

   CNNなどの民主党寄りのマスコミや支持者は、トランプ氏が独裁者である正恩氏を「称賛」し、正恩氏を「信頼している」などと語ったことに対し、「米大統領としてあるまじきこと」と厳しく批判している。

   これに対し、前述のクレッグは、「予測不能だから、正恩氏はトランプ氏が怖い。アメとムチがトランプ氏のやり方だ。しかも、交渉相手を「信頼していない」などと言えるわけがないではないか。すべて言葉どおりに解釈できるものではない。トランプ氏はこれまで歴代のどの大統領もやれなかったことを、やろうとしているんだ」と反論する。

   「トランプ氏は妥協せず、毅然とした態度を取った」、「決裂後も大人の対応で、紳士的に振る舞った」――。

   支持者の間では、強い大統領のイメージが強まったようだ。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。