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薬物報道で「白い粉映像」を避けるべき理由

   ミュージシャンで俳優としても活躍しているピエール瀧容疑者(51)がコカインを使用した疑いで逮捕され、民放各局の情報番組が多くの時間を割いて報じている。

   中には、コカインのイメージとして、白い粉が上方からサラサラと落ちてくる映像を使う番組もあった。こうした演出については、薬物問題の専門家らがまとめた「薬物報道ガイドライン」(「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」作成)では、「避けるべきこと」の項目に挙がっている。こうした報道の現状ついてどう考えているのか、同ネットワークの発起人の一人に聞いた。

  • 電気グルーヴの公式サイトでは、ツアー公演の中止などが発表された
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移送映像が繰り返し流れる

   厚生労働省の関東信越厚生局麻薬取締部は2019年3月12日夜、コカイン若干量を使用した疑いでピエール瀧容疑者を緊急逮捕した。13日未明、同部が入る建物から警視庁東京湾岸署に車で移送される際には多くの報道陣が集まった。車内で目をつぶって座っている当人の様子は、テレビのニュースや情報番組で繰り返し報じられた。

   著名人の薬物事件をめぐっては、過去にも集中的な報道があり、その過剰さが問題視されてきた。3月6日に厚労省が都内で開いた依存症の啓発イベントに出席したことで注目を集めた元プロ野球選手の清原和博氏が、16年2月に覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕された(その後有罪判決<執行猶予付き>)際にもメディアは大騒動となった。

   こうしたことをうけ2016年7月、依存症の治療や回復にあたる関係団体と専門家が「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」を結成した。そして17年1月、同ネットワークが評論家の荻上チキさんの協力も得て、「薬物報道ガイドライン」をまとめて公表した。

   ネットワークの公式サイトによると、ガイドライン作成に至る背景として、薬物報道の影響として、「若いハイリスク層」に対して薬物への関心を増す形で刺激したり、「回復を始めた人」の欲求を刺激し、再発のきっかけとなってしまったりする、などの問題意識があった。

「望ましいこと」8点、「避けるべきこと」9点を挙げる

   ガイドラインでは、「望ましいこと」として8点、「避けるべきこと」に9点を挙げている。内容はネットワーク公式サイトで確認できるが、項目の一部を紹介する。さらに、今回の報道について、13日放送の情報番組の一部の現状も確認してみた。

   ガイドラインで「避けるべきこと」の第1項目に挙がっているのは、

「『白い粉』や『注射器』といったイメージカットを用いないこと」

とある。その理由については、「虐待などによる痛みを抱えた子どもは、危険なものにひかれる。白い粉や注射器などのイメージ画像、恐ろしげな扱いで薬物への関心が増す」(同ネットワークのサイトより)などの問題点があるようだ。

   他には、

「『がっかりした』『反省してほしい』といった街録・関係者談話などを使わないこと」
「『人間やめますか』のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと」

などの項目がある。一方、「望ましいこと」としては、

「依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること」

などが指摘されている。

   13日の情報番組で、J-CASTニュース編集部が確認できた範囲では、「白い粉のイメージ映像」については、「ゴゴスマ」(TBS系のCBCテレビ)が、上部から白い粉が下部に落ちてたまる様子の映像を3~4秒流していた。背景は暗く、画面右上に「イメージ」の文字。こうした映像ではなく、「白い粉」の写真をパネルで紹介する番組が多かった。

   また、関係者コメントや街の声も各番組が紹介しており、

「ショック、ものすごいショックですよ」(「とくダネ!」フジテレビ系)
「期待を裏切られて...」(「情報ライブ ミヤネ屋」日本テレビ系の読売テレビ)

といった内容があった。

「もっと『回復』に力点を置いた報道が広がれば」

   こうした現状をどう受け止めているのか。「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」の発起人の一人にJ-CASTニュース編集部が話を聞いた。

   13日の朝に関東圏で情報番組を見たそうで、「がっかりした」というニュアンスの街の声が紹介されており、別の関係者とも「こうした『街の声』報道はやめてほしいね」と意見交換したという。また、J-CAST編集部が確認した、一部の「白い粉映像」報道についても、「やめて頂きたい」と訴えた。一方で、

「(逮捕報道後)仕事が全部NGになる、という状況をそろそろ変えていっていいかなと。(略)隠すのではなく、明らかにした方が治療につながる、という流れで今日の報道で話せれば」(「とくダネ!」コメンテーター、深澤真紀・獨協大特任教授)

といった、ガイドラインで「望ましいこと」に挙がっていた視点を指摘する意見も見受けられた点については、

「薬物報道は、以前と比べれば変わりつつある部分もある、とも感じています」

と評価した。

   さらに、「あくまで印象論だが」とことわったうえで、

「まだまだ、薬物依存や逮捕された人物に対してネガティブな報道が多い。もっと『回復』に力点を置いた報道が広がれば」

と要望していた。