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職務質問で精神的苦痛 地裁判決「適法」、原告「不当だ」→法律家の見解は

   不審でないのに警察官から職務質問を受けて精神的苦痛を負ったとして、エンジニア男性が計165万円の国家賠償を東京都に求める訴えを東京地裁に起こしていたが、地裁は、男性の請求を棄却する判決を言い渡した。

   これに対し、男性は、「この一審判決は不当だ」とブログで主張し、ネット掲示板などで議論になっている。

  • 職務質問はどうあるべきか(写真はイメージ)
    職務質問はどうあるべきか(写真はイメージ)
  • 職務質問はどうあるべきか(写真はイメージ)

警察「リュックを背負った原告は、パトカーを見て顔を伏せた」

   訴えを起こしていたのは、都内のIT企業に勤める江添亮さん(32)。自らのブログで2019年3月13日に公開した判決文によると、江添さんは17年7月3日14時10分ごろ、東京・築地の歩道を歩いて出勤途中に自販機で飲料を買うと、警視庁の警察官から「ちょっといいですか」と声をかけられた。

   裁判で警視庁側は、江添さんが、パトカーを見ると顔を伏せて足早に通り過ぎたことを不審に思い、職務質問のためパトカーを下りて追跡したと説明した(判決では、江添さんがパトカーと遭遇後に自販機へ向かったなどの点に照らして、不審なところはなかったと、被告側の説明を認めなかった)。

   江添さんは、警察官から所持品検査でリュックの中身を見せることなどを求められ、「拒否します」と返答した。警察官は、警察手帳を見せるなどして10分ほど話し合ったが、江添さんが歩き出そうとしたため、前をふさいだ。すると、江添さんは、すぐ横の牛丼チェーン店に入ろうとした。警察官に制止されたものの、店員に110番通報をするように頼んだ。

   店員は応じず、江添さんは、警察官に囲まれて走り出したが、数メートルのところで制止され、すぐ横の駐車場に移動させられた。警察官は、リュックの中身を見せるよう説得を続け、リュックの上から触ることを提案すると、江添さんも受け入れた。江添さんは、運転免許証も警察官に見せた。

   警察官は、リュックに刃物が入っていないなどと判断し、検査を終えたが、すでに1時間20分も経っていた。

原告「110番通報の要請が不審事由にあたるはずがない」

   3月13日の判決では、江添さんに不審なところはなかったとして、職務質問を規定した警察官職務執行法第2条1項の要件を満たさないとした。しかし、江添さんの服装からどんな目的で歩いていたか判然とせず、リュックに刃物などが十分入ることなどを理由として、公共の安全維持を定めた警察法第2条1項に基づき適法だとした。

   東京地裁は、さらに江添さんが牛丼店に入ろうとした点についても独自に言及した。この行動で、江添さんには店に立てこもる恐れが考えられ、店員に110番通報を要請したのも混乱や動揺をうかがわせる不可解な言動だったとして、警職法の要件を満たすと指摘した。

   この判決に対し、江添さんは、ブログで疑問を呈しており、特に、牛丼店に入ろうとした点への判決内容に異議を唱えた。「そんなバカな。110番通報の要請が不審事由にあたるはずがない」「そもそも東京都(警察)が110番通報の要請をしたことをもって不審事由であると主張するのは立場上とてもおかしなことになるのではないか」などと訴えている。

   ネット掲示板やブログのコメント欄などでは、職務質問のあり方について、様々な意見が書き込まれている。

   警察の職質に疑問を呈する向きとして、「疑われる事は嫌な気持ちになります」「威圧感があって本当に気分が悪い」「はさみ入ってる時に職務質問受けたらどうしよう。。」といった声が出た。

   一方で、「防犯のための仕事をされたと思います」「拒否したら余計疑われる」「何もないなら、さらっと見せればいい」などと、江添さんに柔軟な対応を促す意見もあった。

弁護士「職務質問を拒絶されたら、止めるのが正しい」

   事務所サイトで職務質問について解説している徳永祐一弁護士は、地裁判決が警察法では今回の職質は適法だとしたことについて、「必ずしもダメだとは言えず、そういう法解釈もありうると思います」と話す。

   しかし、服装ぐらいでは警職法の不審事由が見当たらないとして、「職務質問を拒絶されたら、止めるのが正しいと思います」と警察の対応を疑問視した。

   江添さんが牛丼店に入ろうとした点については、こう言う。

「最初からいきなり入ろうとしたなら、立てこもる恐れもありえますが、10分も話し合っているのに、不審だとするのは無理があると思います。警察のやり方に疑問があるので、きちんとやってくれる警察官を呼ぶため110番しようとしたというのは、説明も付くはずです」

   江添さんが時間も費用もかけて訴えていることについては、こう言う。

「危険物がないならリュックの中身を見せればよい、訴訟まで起こすのは得策でない、というのは間違いないでしょう。しかし、こうした社会常識とプライバシーの問題は別です。それだけ世の中に訴えたい、問題提起したいものが江添さんにはあったんだろうと思います。自ら決めたことに対して、社会常識を持ち出すのはどうなのかということです」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)

   訂正(2019年3月15日18時30分):指摘を受け、記事を一部修正いたしました。