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日銀はなぜ、FRBの緩和策を喜べないのか 「困った」本音の背景

   緩和の先頭を走る日本銀行としては「困ったことになった」というのが本音だろう。世界経済の減速懸念を背景に、主要国の中央銀行が金融引き締め路線を転換し始めたからだ。

   各国が緩和路線に本格的に転じれば、金利差縮小から円高が進みかねない。だが日銀は、既に思いっきり緩和していて、もはや効果的な手段は残されていない。「窮地に追い込まれている」とさえいえる。

  • 日銀にとっては、いばらの道?(イメージ)
    日銀にとっては、いばらの道?(イメージ)
  • 日銀にとっては、いばらの道?(イメージ)

米国も、欧州も、中国も...

   米連邦準備理事会(FRB)は2019年3月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、年内の利上げを見送り、9月末で保有資産縮小を終了する方針を決めた。欧州中央銀行(ECB)や中国人民銀行も様子見、あるいは緩和に向かっている。

   FRBは堅調な国内景気を背景に、2018年は4回の利上げを実施し、金融政策の「正常化」に執念を燃やしていた。株式市場は、米中貿易摩擦に伴う中国経済の減速や、英国の欧州連合(EU)離脱問題など懸念材料が膨らむ中、FRBの引き締め路線に動揺し、2018年末にかけて一気に弱気モードに。これを受けるかたちでFRBも路線修正し、1月末のFOMCでは利上げを一時休止する意向を表明した。今回は2.25~2.5%の政策金利を据え置いたうえで、2019年の利上げ回数を従来見通しの2回からゼロに変更。政策転換をより明確にした。年内に利下げに転じるとの予測もある。

   2017年10月に始めた保有資産の縮小も、当初の想定から大幅に前倒しして開始から2年で終えることにした。2008年のリーマンショック後に米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れる量的緩和を実施していた。

   FRBに追随し2018年末に量的緩和を停止したECBは、早くも軌道修正を迫られた。

なぜ日銀が苦しくなる?

   3月7日の理事会では、政策金利を据え置く期間をこれまでの「2019年夏まで」から「2019年末まで」に変更。ユーロ圏の成長率見通しも引き下げた。

   中国人民銀行は2018年以降、金融機関から預金の一定割合を強制的に預かる「預金準備率」の引き下げを実施してきた。金融機関の手元資金を増やし、融資の増加を促す政策だ。2019年3月15日に閉幕した全国人民代表大会では、2019年の経済成長率目標を昨年の「6.5%前後」から「6~6.5%」に引き下げており、景気刺激のため緩和的な環境は続きそうだ。

   なぜ日銀が、こうした各国の情勢に振り回されることになるのか。というのもこれまでは、FRBをはじめとする他の中銀が利上げを進めれば、相対的に高い利回りを求めてドルなどの通貨が買われ、円安が進むと想定できた。円安は輸出企業の海外の利益をかさ上げし、株価や賃金の上昇につながるとの期待もあった。

   ところが同じ方向を向いて走るとなると、既に力を出し切り、緩和レースの先頭を走る日銀と、これからギアを入れる他の中央銀行との差が縮まることが想定される。金利差は縮小し、円高圧力がかかりやすくなるのだ。

   日銀は、マイナス金利の拡大や上場投資信託(ETF)の買い入れ増大など、追加緩和の手段はあると「強弁」する。しかし、これらは金融機関の収益の悪化や、市場の価格形成機能の低下などの副作用も大きい。「FRBには利下げに転じてほしくない」が本音の日銀にとって、苦難の道が続く。