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東京都の始めた「SMS納税催告」が危ない 識者「やめたほうがいい」断言の理由

   東京都が2019年6月26日、納税していない人物を対象にショートメッセージサービス(SMS)を使った納税催告を始めたことをめぐり、識者からは懸念の声が上がっている。

   ITジャーナリストの三上洋さんは29日、ツイッターを更新し「これ絶対やっちゃいかんヤツ。詐欺に使われるし、本物のSMSなのか確認できない」などと指摘。J-CASTニュースでは三上さんに見解を聞き、課題を見つめた。

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「SMSが詐欺に悪用されている現状」

   東京都では納税期限が過ぎて督促状を送っても、支払いがなかった際、電話や訪問を通じた「催告」をしている。今回新たに、仕事などで電話に出られなかったり、不在にしたりする人物を対象に、SMSを活用した催告を実施すると25日に発表。連絡手段を広げた。

   しかし、J-CASTニュースの取材に三上さんはSMSについて、次のように指摘する。

「電子メールの場合はスパム対策があり、もともと宣伝のメールがたくさんあるために開けない人が多い。それに対して電話番号が基になっているSMSは、電子メールに比べて開封率が高い。そのためにSMSが詐欺に悪用されている現状がある」(三上さん)

   詐欺に悪用される現状があり、企業側はショートメッセージ自体を通知に使うことを控えたり、送る場合もなるべくやり方に注意したりしている。「例えば宅配各社については、ショートメッセージの通知はしませんというところがほとんど。宅配便の不在通知が来た時点で『偽物ですよ』と強く広報ができる」。

   東京都は今回、送信元として表示される電話番号などを一覧にして発表。振り込め詐欺への注意も呼び掛けているが、三上さんは

「こういう番号で送りますという情報を東京都が公にしていますけども、その情報が届くような人はきっと、ほかの督促の郵送やメッセージをちゃんと開けている。事前に『こんなことしません、これは詐欺です』という情報は、実際に受け取る人には届かない。届くのは、いま目の前にあるショートメッセージだけ。その中で判断しなさいと言われて、電話をかけちゃうっていう人が多い。ショートメッセージ見てこの番号あやしいなと思う人は引っかかりません」

と指摘。三上さんは「ショートメッセージの通知自体をやめたほうがいい」と強調する。

   東京五輪観戦チケットの抽選結果を通知するメールでは、フィッシング詐欺などをはじめとしたメールとの区別を目的に、販売サイトのURLが書かれない対策が取られていた。手紙や電話での連絡もなかった。三上さんは

「場合によってはオリンピックチケット方式でURLは書きません、電話番号は書きませんとした方がいい」

としつつも、

「すでに今回こういう発表を(東京都が)した。URL書きません、電話番号書きませんという方法は使えないとすると、ショートメッセージについてはやめたほうがいい」

と警鐘を鳴らした。

「絶対なりすましはできない」都側は自信

   東京都の徴収指導課長に2日、J-CASTニュースは取材。詐欺に使われるなどの危険性については、

「対策として専門の事業者と契約をし、都税事務所の代表番号が発信元になるようにし、身元の確かなSMSとわかるようにした。文面についても都税事務所から送ったことが明確になり、なおかつ連絡先も代表電話だけではなく、担当者直通の電話番号も入れて送るような形にしている。ほかの詐欺とは見間違えないような工夫はしているが、一方で似せてくる可能性は中にはある。そういったことの注意喚起ということでいま広報している」

と答えた。SMS活用の是非については

「悪い人たちもいるので、どうしようかというところもあるが、だからといって広く使われる手段を使わないというところまでは思ってはいない。たとえば詐欺みたいな郵便とかも同じようにあるが、郵便を使わないってわけにいかないというのと同じようなレベルでは考えてはいる」

との見方を示す。

   指導課長は

「なるべくいろんな連絡手段を取りたい。従来の手段ではなかなか連絡が取れない時、携帯電話番号がわかれば送信することできるSMSという手段をとった。(メッセージを)送信する仕組みで、都税事務所の代表番号を発信元にして送信することができるのも選んだ一つになる。そこについては絶対なりすましはできない」

と自信を見せた。

   さらに、次のように語った。

「東京都が(SMSを)やる、やらないにかかわらず詐欺は発生している。知っている人は開封しなかったり、リンクを押さなかったりする知識もある。ご存じない人はクリックしてしまう恐れはあるとは思うが、東京都がこれを始めるから危険性が高まるってことではないのかなと思っております。(SMSは)広く一般に使われているものなので」

   詐欺に関する相談については、「今のところはない」という。

   とはいえこうした見解について、三上さんはJ-CASTニュースの取材に、「詐欺は東京都のふりをして、電話をかけさせることだけが目的。この対策をしても、全く詐欺に対する効果はない。詐欺業者にとっては電話をかけさせるか、かけさせないかだけの問題」と否定的だ。「ショートメッセージを送る形自体に間違いがある」と改めて指摘した。

(J-CASTニュース編集部 田中美知生)