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PB黒字化はいつになる? 先送り試算に読売まで「甘さが露呈した」

   国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化が2027年度になるとの見通し(試算)を、内閣府がまとめたのは2019年7月末。経済成長が想定を下回ったため、2026年度と見込んだ1月発表の前回試算から1年後ズレし、政府目標の2025年度からは2年遅れることになる。

   しかも、試算は国内総生産(GDP)成長率を高めに見積もっており、黒字化は実際にはさらに遅れるのが確実だ。

  • 参院選では、さらなる消費増税を否定した安倍首相だが…
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小泉政権時代には「2020年」目標だったが

   現在、国と地方の借金残高はGDPの2倍の1100兆円と、先進国で最悪の水準に達し、毎年、増え続けている。PBの黒字化とは、単年度の収支で、社会保障や公共事業などの政策経費を借金せずに税収などで賄えること。赤字の拡大に歯止めをかけると理解すればいい。元々、小泉純一郎政権の時代から2020年度の黒字化を公約してきたが、安倍晋三政権になって消費税増税を2度にわたって延期したことなどから、2018年、黒字化達成の時期を2025年度に5年先送りした。これがさらに伸びるというのが今回の試算だ。

   試算は、税収に直結する経済成長率をどう見込むかで大きく変わってくる。今回は、2020年代前半にGDP成長率を、実質2%、名目3%の「成長実現」ケースと、実質1%、名目1%台半ばの「ベースライン」ケースの2種類を提示。「成長実現」では、2025年度は2.3兆円の赤字、2026年度も0.3兆円の赤字、2027年度にやっと1.6兆円の黒字になるとした。1月の前回試算は2025年度1.1兆円の赤字で、2026年度に黒字化するとしていたが、試算を出した時点で2019年度のGDP成長率を実質1.3%、名目2.4%と見ていたが、中国経済の減速などで実質0.9%、名目1.7%に落ちる見込みだとして、税収見通しも下方修正した。

   これが「ベースライン」になると、2025年度の赤字は7.2兆円に膨らみ、2026年度以降も赤字が続き、対象期間の2028年度までに黒字化はできないことになる。

歳出改革は進むか?

   政府は、「成長実現」を前提に財政再建の見通しを語るのが常だが、そもそも、「成長実現」の想定が楽観的過ぎるとの批判は多い。第2次安倍政権発足後に実質2%を超える成長率を達成したのは2013年度だけ。むしろ、「ベースライン」が現在の経済状況が続くという想定で、2%に届かない年が続けば、目標達成時期の先送りを繰り返すことになる。

   安倍首相は参院選中に、「10年間ぐらいの間は(消費税10%から)上げる必要はない」と発言。選挙後も「引き続きしっかりこの政策を進めていけば2025年にはPB黒字化も可能と言われている」と述べている。再増税しなくても目標を達成できるというわけだが、そのためには歳出の思い切った改革が必要になるはずだ。

   だが、今回の試算に合わせて決めた2020年度予算編成の概算要求基準(7月31日閣議了解)は、歳出の上限額を7年連続で定めず、(1)高齢化の進行に伴う社会保障費の伸び(自然増)を5300億円程度とする、(2)公共事業などの「裁量的経費」の要求額を今年度当初予算より1割削る一方、削減額の3倍まで成長戦略に関係する施策の予算要求を認め、その総額4.4兆円を特別枠とする、(3)消費増税に関係する経済対策や、増収分で実施する事業は、通常の予算とは別枠として予算編成過程で検討する――など、歳出に思い切って切り込む雰囲気はない。8月末に締め切る各省庁の概算要求の総額は6年連続で100兆円を超える見通しで、仕上がりの当初予算案も、2019年度に続き100兆円の大台を超えるのが確実視されている。米中貿易摩擦の激化などで成長がさらに鈍れば、税収が落ち込み、赤字が拡大することになりまねない。

さらなる消費増税も「論議は避けて通れない」

   こうした問題をはらむ試算について、大手紙の論調も厳しい。8月8日までに朝日、毎日、読売、日経が財政試算、概算要求基準を社説で取り上げたが、甘い見通しをこぞって批判。特に、安倍政権支持の論調が目立つ読売(8月1日)は「成長頼みの甘さが露呈した」と、タイトルから厳しさを前面に出し、「財政立て直しに経済成長は不可欠だが、実力以上の成長率を前提とするのは禁物だ」として、社会保障改革などの必要を論じ、消費税率10%から上げる必要がないとした安倍首相発言にも、「赤字予想が拡大する中で楽観論は戒めるべきだ。10%後の税率引き上げについても論議は避けて通れない」と、さらなる消費増税まで踏み込んで安倍政権の姿勢を珍しく厳しく糺しているのが目を引く。

   他紙も、「安倍晋三首相は経済成長に伴う税収増の効果を強調しているが、歳出改革なしでは財政健全化は難しい。甘い成長予測を前提にせず歳出を抑える努力が必要だ』(日経1日)、「安倍政権は痛みを伴う歳出抑制を先送りし、成長頼みの財政運営を続けてきた。現実を直視すべきだ」(毎日5日)、「財政健全化の目標を達成する道筋も、示さねばならない。......『10年間くらいは消費税を上げる必要がない』というなら、増税せずにどう達成するのか、具体策を語らなければ無責任だ」(朝日7月26日)など、厳しい指摘が並んでいる。