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「スクール☆ウォーズ」主題歌の麻倉未稀さん ラグビー日本代表に「仲間と、そして自分を信じて」

   歌手の麻倉未稀さんといえば、1980年代の人気ドラマ「スクール☆ウォーズ」(TBS系)の主題歌を歌った歌手である。

   日本人離れした声量、音域の広さ、豊かな感情表現...。当時、少年ラガーマンだった記者も、その圧倒的な存在感は今でも脳裏を離れない。

  • ラグビー日本代表の健闘を祈り、代表ジャージにサインする麻倉未稀さん
    ラグビー日本代表の健闘を祈り、代表ジャージにサインする麻倉未稀さん
  • ラグビー日本代表の健闘を祈り、代表ジャージにサインする麻倉未稀さん
  • 公式球にもサインしながら、ニッコリ笑顔

放送当時は「眠かった思い出」しかない...

   会って驚いたのは、そのパワフルな歌声とは真逆の穏やかな話し方だった。

   麻倉さんは1981年に歌手デビュー。タレント堀ちえみさん主演「スチュワーデス物語」(TBS系)の主題歌のほか、高校ラグビーのドラマとして人気を誇った「スクール☆ウォーズ」の主題歌「ヒーロー」でも知られる。

   「スチュワーデス物語」、「スクール☆ウォーズ」が放送されていたのは、1983年~85年。デビューして間もない時に舞いこんできた大仕事だった。「8ビート」の曲を、日本人離れした声量、低音から高音までダイナミックに歌い上げた。しかし、そんなイメージとは違い、実にゆっくりとした口調で話し始めた。

「当時は、すごく忙しかったし、年に3枚ペースでアルバムを出していたんですね。レコーディングをやって、ツアーに出かけての繰り返し...。ほとんど休みがなくて、休みが取れたかと思うと、風邪をひいて寝込んじゃって。友達と約束していても、必ず私がダウンしちゃって。みんな『もう、寝ていた方がいいんじゃない?』っていうぐらいの日々でした」

   1カ月のうち、自宅で寝られたのは1週間あるかないか...だったそうだ。

「今みたいに交通機関も遅くまでなかった時代ですし、テレビ放送や取材なんかも入っていましたし...。楽しかったのは楽しかったんですけど、当時のことは、ほとんど覚えていません。ただただ、眠かっただけ(笑)」

   また、地方を回っていた時の苦い思い出もあったそうで、

「今みたいにコンビニのATMが普及しているわけでもなく、都市銀行がオンラインでつながっているわけでもなく...。ある時、お財布の中を見たら、スッカラカンで(笑)。さすがに不安になって、銀行を探したんですけど、地方銀行しかなくって」

   挙げ句、「郵便局なら全国にある」ということで、急いで郵便局の口座を開設。何とか苦境を乗り越えたのだそうだ。

乳がんの告知受け...それでもポジティブ「忙しくなっちゃって」

   だが2017年、そんな麻倉さんを病魔が襲った。健康診断で左乳房の「がん」と宣告されたのだ。精密検査で約2センチの腫瘍が2つ見つかり、乳房の全摘出手術を受けることになったという。同健診はテレビ番組の企画で行われたが、思わぬ結果に「ショックはショックでした。でもあまりにも(腫瘍が)大きいので、全摘は全摘だな...と納得はしたんですけど」と、当時のメディアに心境を明かしている。

   帰宅後、夫の顔を見て号泣したというが「すごく大泣きしたら、何だかスッキリした」と告白。それでも現在の心境を「胸がなくなっても、歌さえあればいいんじゃないかな」と気丈に笑顔を見せながら話している。ちなみに麻倉さんの「がん」は「ステージ4」まであるうちの「ステージ2」で、術後も定期的な検査を受けている。

   当時を振り返った麻倉さんは、

「『乳がん』って、ほかの『がん』と違って、しつこいんです。いろんなタイプがあるようなんですけど、私の場合は穏やかに進行するタイプだったんですね。10年間、薬で治療して、再発しなければOKかな...っていう感じです。でも、再発のことを考えて、毎日を過ごしていたら、頭がおかしくなっちゃうでしょ? だから楽しく過ごそうって、思っています」

   しかし、大病を患ったものの、前にも増してポジティブになったそうだ。

「(がんになって)逆に、忙しくなりましたね。今までは歌うだけだったでしょ? (がんの)勉強もしなきゃいけないし、活動も増えるし。何より、今まで歌を歌っていただけだったら、お会いできない、お付き合いできない方とも出会いましたしね」

   歌手活動を続けながら「ピンクリボン(=乳がんの正しい知識を広め、乳がん検診の早期受診を推進すること等を目的として行われる世界規模の啓発キャンペーン)」にも積極的に参加するなど、多忙な毎日を送っている。

   そんなある時、お客さんに言われた言葉が印象的だそうだ。

「『病気の後のあなたの歌が全然、違う』って。すごくうれしかったんです。だから『病気するって、その人に何か大きな意味があるのね』って。(病気に)なることは嫌だけど、それはそれで意味があるのかな...って」

   「ヒーロー」の歌詞の中には「胸に眠るヒーロー揺り起こせ」など、戦う人間たちへの熱いメッセージが込められている。

   麻倉さんは、

「これまでは『ヒーロー』を歌っていても、皆さんを励ましていたような感じだったんです。でも(病気後は)自分自身を励ましているような感じなのかな...。それがお客さまにも伝わっているのなら、本当にありがたいです」

「ラグ女」麻倉、隣のオジさんから唐揚げをもらい...

   そんな麻倉さんだが、「スクール☆ウォーズ」の主題歌「ヒーロー」を歌って以来、徐々にラグビーにもハマってきたのだそうだ。同ドラマで主役を務めた俳優の山下真司さんとトークセッションなどを行うほか、試合のハーフタイムで「ヒーロー」を熱唱したこともあった。

「スタジアムへは時々しか行けないんですけれどね。でも、サッカーとは全然、違う。(観客の)皆さんの騒ぎ方も違うし。すごく静かでゆっくり。ゆっくり見ながらも、瞬間的に盛り上がっていくような感じですね。これが『紳士のスポーツ』と言われる所以(ゆえん)なんだろうな...って」

   どうしても生で試合を見たかった麻倉さんは、ある日、1人で秩父宮ラグビー場(東京都港区)を訪れたことがあるそうだ。知人の元ラガーマンに「お尻が冷えるから、敷物を持って行った方がいい」と助言され、あったかいコーヒーやお菓子を入れた大きなデイバックを背負って行ったという。

   すると、隣の席のオジさんから「用意周到だねぇ。よく見にいらしゃるんですか?」と話しかけられたそうだ。

「そのオジさまとお友達になっちゃって。唐揚げをいただいたりとか、いろいろしながら、結構、盛り上がって(笑)。(私が麻倉未稀だってことに)気づいてなかったんじゃないかな?」

   「ラグビーW杯2019日本大会」は9月20日、日本―ロシア(東京スタジアム)で開幕を迎える。「8強以上」を目標に掲げる日本代表へ、

「行けると思います。仲間と、そして自分を信じて頑張ってほしい」

   桜のジャージをまとい、「胸に眠るヒーロー」を揺り起こす日本代表に、静かな期待を込めた。

(J-CASTニュース編集部 山田大介)