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あいトリ、キュレーターらが吐露した「現場」の苦悩 津田氏は意義強調も...「目指していたことの反対に」

   国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の会期末が10月14日に迫る中、10月5日から6日にかけて「『情の時代』における表現の自由と芸術」と題した国際フォーラムが開かれた。

   主な論点のひとつが、企画展「表現の不自由展・その後」の中止問題だ。この中止が「検閲」だとして、10人以上の作家が展示をボイコットしたり、抗議の意思を示す意味で展示内容を変更したりした。

   一方で、作家の一部は、展示再開を目指すプロジェクト「Re Freedom Aichi」をスタート。その取り組みの一環として、閉鎖されている展示室の扉には「私が経験した/している不自由」を書き込んだカードが大量に貼られているほか、「電凸」と呼ばれる苦情電話で県職員らが疲弊したことを背景に、出展作家が直接応対するコールセンターの設置も決まった。

   こういった状況を、芸術監督の津田大介氏は、あいちトリエンナーレそのものが「パフォーミングアーツの場所に変わっていっている」などと評した。一方、キュレーター(展示企画者)らからは、生々しい苦しみの声が漏れた。

  • ディスカッションではキュレーターからの発言も相次いだ
    ディスカッションではキュレーターからの発言も相次いだ
  • ディスカッションではキュレーターからの発言も相次いだ
  • 「あいちトリエンナーレ2019」国際フォーラムで発言する芸術監督の津田大介氏
  • 企画展「表現の不自由展・その後」の展示スペース前の「私が経験した/している不自由」を書き込んだカードが大量に貼られている。展示再開を目指すプロジェクト「Re Freedom Aichi」の一環だ

キュレーター「私も、演劇の一登場人物になってしまった」

   津田氏は10月6日の冒頭プレゼンテーションで、「情の時代」というコンセプトを改めて説明し、「不自由展」をめぐる事案について、

「通常、こういう国際映画祭はオープニングがあって、会期中は内容が変わることはほとんどない。そのまま(会期の)75日間続くというのが(一般的な)状況ではあるが、このような展示内容(の変更)や参加するアーティストが声明文を出し、その声明文が貼られていって、毎回来るたびに内容が変わっていく。ある種『生きたトリエンナーレ』になっている」
「通常は固定された現代芸術が、あいちトリエンナーレを舞台としたパフォーミングアーツの場所に変わっていっている。この『情の時代』というテーマに応答して、このトリエンナーレという舞台でどのように行動するかがアーティストひとりひとりに問われている、という稀有なトリエンナーレになっている」

などと述べた。

   キュレーターからも同様の声があがった。パフォーミングアーツ担当キュレーターの相馬千秋氏は、開幕直前の記者会見では

「どれだけ芸術祭というものをパフォーマティブにできるかチャレンジしたい」

と意気込んでいたが、今となっては、「結果的には、これ以上ないというぐらい、パフォーマティブな状況がこの芸術祭に生まれている」。担当している作家の一部がボイコットしたり、「Re Freedom Aichi」に参加したりしていることから、

「気が付けば、私もその渦中で、ひたすら『情の時代』という演劇の一登場人物になってしまった」

と振り返った。

「なんか、なんでうちら内ゲバしてるんだろう?」

   プレゼン後のディスカッションでも、キュレーターからの苦悩の声が相次いだ。国際現代美術展担当の能勢陽子氏は、

「表現、アートによって分断を乗り越えるということが掲げられていたが、実際始まってみると、むしろその困難が、表現が人を分断させているという状況をあぶりだすというような状況になってしまい、本当に当初目指していたことの反対を体現するような形になったというのが、すごく苦しい状況だった」

と話し、相馬氏は、

「『不自由展』がクローズになって、私たちは抗議される側になった。これまでこんなに検閲と戦ってきたのに、『検閲する側』みたいに言われたときの辛さはすごくあった」

とも。5日のパネルディスカッションでは、「『検閲』という言葉は『パワーワード』」だという指摘もあった。この「検閲」という言葉そのものが持つ破壊力にも悩まされた。

「これが人々の感情を非常に荒立てて、検閲『した』『された』というところで感情的になって終わる。まさに今回も検閲ということが出てきて、普段は対立すべくもない、信頼関係のあるアーティストのコミュニティーだったりキュレーターどうしだったりが、『なんか、なんでうちら内ゲバしてるんだろう?』みたいなことになっていくというのは、本当にきつかった」(相馬氏)

津田氏は「プラットフォーマー」問題を主張

   一方、津田氏はパネルディスカッション終盤、「今問題になっている大きな戦場」としてSNSを挙げた。主に「不自由展」を念頭に、

「人を変えうるような強い表現のアートは、多くの場合、普段アートに触れていない人にとっては衝撃が強かったりする」

と指摘する一方で、SNSで生まれる「世論のようなもの」が、一連の齟齬の一因になっているとの見方を示した。

「SNSというのは、むしろ人々の分断や衝突を娯楽化して、お金に換えるテクノロジーということが言える。つまり、クアウテモックさん(編注:登壇者のクアウテモック・メディナ氏。第12回上海ビエンナーレ2018でチーフキュレーターを務めた)がさっき言っていたように、アートや美術家、キュレーターがアートの本質に立ち戻れば立ち戻るほど、多分、アテンション(注目)で人がつながってしまうグーグルとかツイッター、フェイスブックだけが儲かっていくという、パラドックスみたいな状況が生まれてしまうのではないか。問題は、我々のこの情報環境、ツイッターやフェイスブックで起きているような世論、論の波のようなものが、公共、パブリック、実は違うものなんだけれども、それが公共の議論であるかのように見えてしまうことによって生まれている齟齬でもあると思う」

   さらに「分断」については、

「すでに分断というのは、いたるところに線があって、それを単に見ないようにしていただけではないのか」

として、元々あったものが今回の件で可視化されたに過ぎないと指摘。「Re Freedom Aichi」を例に、

「見えたことで、それはたぶん変わると思う。見えたことで実際に行動を始めている人がすごく増えている」

と前向きだ。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)