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世界中で進む「デジタル通貨」独自開発 リブラ対抗、経済活性化...各国の思惑は

   世界各国で独自のデジタル通貨の開発を目指す動きが広がっている。ソーシャルメディア大手フェイスブックが擁する仮想通貨「リブラ」に対抗する手段だったり、自国経済を成長させるためだったりと、各国が秘める思いはさまざま。ただ、デジタル通貨による新たな経済圏をつくり、経済問題の解決を目標に掲げるという点で共通している。

  • 通貨が変わりつつある
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中国は「デジタル人民元」に積極的

   デジタル通貨の発行に最も積極的なのは、中国だ。

   同国の中央銀行にあたる中国人民銀行は、フェイスブックがリブラ構想を2019年6月18日に発表して以降、法定通貨・人民元を担保にした中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する計画を、急ピッチで進めている。雌雄関係にある中国政府が、国境を越えて流通するとされるリブラに対し、警戒感を強めているためだ。11月の発行も報道されたが、同行は9月末時点で具体的なスケジュールは決まってないとしている。とはいえ、リブラの発行が来年と見込まれているだけに、CBDCの実現が射程圏内であるのは確実視されている。

   複数メディアの報道によると、CBDCは、大手銀行の中国工商銀行、中国銀行、中国農業銀行のほか、アリババ、テンセント、銀聯国際など金融、IT分野の大企業が発行所となる模様。各業界の主要企業に加え、市中銀行の力を借り、個人や中小事業者といったリテール市場への浸透を促す計画だ。中国政府は、人民元の国際化を狙っており、CBDCの発行を起点に、リブラへの対抗にとどまらず、同国の広域経済圏構想「一帯一路」の推進を図るとみられる。

   リブラへの危機感が強いのは、フェイスブックが本拠とする米国も同じ。直近9~10月にかけて米フィラデルフィア連邦準備銀行のトップや、米下院議員2人が、デジタル通貨発行を肯定的にみる発言、行動を相次いでしている。

新興国でも開発進むが、日本は「足踏み」

   リブラの脅威に触発され、米中両国で高まるデジタル通貨への関心。ある意味では、デジタル通貨を切り口に、「通貨戦争」が勃発する一歩手前まで来ているとも言えるだろう。そんな経済大国の闘争状態を尻目に、新興国では、金融の安定化を図るための手段としてデジタル通貨をつくろうとする取り組みが進む。

   南米ウルグアイでは、中央銀行が2017年11月、ブロックチェーン技術を活用した法定デジタル通貨の試験運用を世界に先駆けて始めた。試験プログラムは18年4月に終え、中央銀行は、さらなる試験と発行の可能性について検討しているという。

   その他の新興国では、カリブ海に位置するバハマの財務相がことし4月、島国の特性に基づく現金移動の困難さなどを克服するため、2020年にもデジタル通貨を導入することを表明。東アフリカのルワンダも、2ヶ月前に取引の効率化や経済成長促進を狙いに独自のデジタル通貨を発行することを明らかにしている。

   世界各国の中央銀行でつくる国際決済銀行(BIS)が19年1月に公表したレポートによれば、回答した63行のうち7割がデジタル通貨に関する調査を進めており、デジタル通貨が世界規模で広がっていくのは想像に難くない。

   一方、BIS加盟国の日本は、デジタル通貨発行に後ろ向き。日本銀行の雨宮正佳副総裁は7月時点で、デジタル通貨を発行する予定はなく、調査研究も今後行うという意向にとどまっている。当然、日本も他国や、リブラのような経済的脅威に対し、何らかの措置が求められるのは必至だが、日本円が安定し現金への信用度が高い以上、デジタル通貨に価値を見出しにくい。現在行われている消費税ポイント還元ではないが、デジタル通貨の使用によるインセンティブなどがないと、実導入に難航する可能性が高そうだ。

(ライター 小村海)