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沖縄県の「IT司令塔」が...外郭団体で異例「解任劇」 公募理事長に何が起きたのか

   沖縄県でIT(情報技術)を活用して産業振興を図るために設立された財団法人で、公募で選ばれた理事長が任期途中で解職されるという異例の事態が起きている。

   出資比率は県が約40%に対して民間企業が約60%だが、理事長の解任を提案したのは県から出向している常務理事で、暫定的に後任の理事長に就任した。民間登用の「IT司令塔」の解任劇だが、その理由ははっきりとしない。県議会では「県が財団を支配しようと思われている」「今後、天下り先をつくったのではないかという疑義が生じることも予想できる」(自民・花城大輔県議)といった指摘が出ている。

  • 解任劇が起きた財団法人では、沖縄県が4割を出資。県から出向している役員が解任動議を出した(写真は沖縄県庁)
    解任劇が起きた財団法人では、沖縄県が4割を出資。県から出向している役員が解任動議を出した(写真は沖縄県庁)
  • 解任劇が起きた財団法人では、沖縄県が4割を出資。県から出向している役員が解任動議を出した(写真は沖縄県庁)

異例の「公募」で理事長登用も...

   解職劇が起きたのは「沖縄ITイノベーション戦略センター」(ISCO、那覇市)。日本経済新聞編集委員や慶大教授、調査会社のMM総研所長などを歴任した中島洋氏を初代理事長に迎えて、2018年5月に発足した。

   県が25%以上を出資する外郭団体で理事長を公募するのは異例。募集要項では「必要とされる能力」として「最新のイノベーションの動向に精通していること」「ITに関する高い見識を持ち、国内学の大学・研究機関等とネットワークを有すること」などを掲げ、勤務条件は「勤務形態:非常勤、報酬日額:45,000円から47,000円程度(100日相当)」とされていた。任期は20年6月まであった。

   が、19年9月18日の臨時理事会で、県から出向している盛田光尚常務理事が解職提案の動議を出し、賛成多数で解職された。その後は盛田氏が暫定的に理事長を務めている。

   ISCOは10月になって中島氏に解職理由を開示。中島氏はISCOが解職理由を発表するように求めているが、ISCO側はそれを拒んでいる。数少ない公開情報のひとつが、県の嘉数登・商工労働部長による9月30日の県議会答弁だ。

「ISCO事務局に対し、任期途中での現理事長職の常勤化と報酬増額を一方的に要求したことを初めとした幾つかの事由によってISCO事務局に混乱が生じていた」

本人が公表求める「解任理由」発表すると「名誉棄損」?

   「勤務条件」をめぐる対立が原因だったとの主張だ。J-CASTニュースが入手した「解職理由」5項目では、最初の項目に「理事長が個人の利益増大のみを図って法人の利益を顧みない」とある。嘉数氏の答弁は、この点を念頭に置いているとみられるが、中島氏は

「業務量が当初想定より圧倒的に多くなったので、100日では到底無理、非常勤100日では無理だと(常勤化を)提案したのを、歪曲して『個人の報酬を増やさんがために』と誹謗中傷している」

と反論している。嘉数氏は、県やISCOが解任理由を発表しない理由を12月6日の県議会で

「具体的な解職提案理由の公表について弁護士に確認したところ、名誉棄損する可能性があるという助言を受けており、この事柄も公表しないと聞いている」

と説明している。中島氏が開示を主張しており、その一部は地元紙でも報じられているにも関わらず、開示が名誉棄損になるいう説明は分かりにくいが、ISCOは取材に

「公然性に留意するよう専門家よりアドバイスを受けております。なお、これまで弊財団からは解職提案理由をマスコミへ開示しておりません」

と回答した。

解職取り下げなければ訴訟も

   今後の情勢は流動的だ。12月6日の県議会でのやり取りによると、11月26日には、中島氏を解任した理事会を監督する立場の評議員会が開かれ、中島氏の解任取り下げを求める声も出た。盛田理事長は「県と相談する」などとして持ち帰ったという(ISCOは「評議員会でのやり取りについて、盛田理事長の発言内容とされるものは正確ではないと認識しています」としている)。

   中島氏は、解職取り下げに加えて、解職が決まった9月18日の理事会の議事録案に(1)解職理由(2)どの理事が解職提案の動議を出したか(3)どのような審議が行われたか(4)採決の際に誰が賛成・反対したか、を記載してウェブサイトに公表することを求めている。これらが満たされない場合は、盛田氏を名誉毀損の容疑で民事・刑事の双方で告訴する構えだが、ISCOは

「理事会議事録に関する中島前理事長の要望、その対応等については、現在も関係者による仲介や話し合いが進んでいる段階ですので、コメントを差し控えたいと思います」

としている。

「解職提案理由については、公開しておりません」

   中島氏は「真の解任理由」について

「県庁の公募入札に対して、ISCOの落札率が大きすぎて官製談合が行われているのではないかと疑問を抱いて調査しようとしたら事務局に抵抗され、気が付いたら解任の動きになったので、もしかすると、こうした県庁との間に生じている不正に対する疑念を持ったのがきっかけになったのかもしれない」

などといぶかるが、ISCOは「解職提案理由については、公開しておりません」と繰り返している。

   ISCOは12月4日、理事長を改めて公募することを発表している。