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昭和電工が「強気」の理由 日立化成の買収で受ける「恩恵」

   昨2019年は国内の化学業界で再編の気運が高まった年だった。5月には日本触媒と三洋化成工業が経営統合を発表、12月には大手化学メーカーの昭和電工が同業の日立化成を買収すると発表した。大型M&A(合併・買収)が相次ぐ欧米や中国に比べてスローペースだったが、国内でも動きが始まった。

   昭和電工による買収に関しては、日立化成は日立製作所の上場子会社であり、事業の「選択と集中」を進めている日立製作所が売却先を入札方式で募集していた。三井化学や投資ファンドなども意欲を示していたが、最終的に昭和電工が残った模様だ。

  • 昭和電工の狙いとは(画像は昭和電工の公式サイトより)
    昭和電工の狙いとは(画像は昭和電工の公式サイトより)
  • 昭和電工の狙いとは(画像は昭和電工の公式サイトより)

「小が大を呑む」と話題に

   昭和電工はTOB(株式公開買い付け)を2020年2月に始め、すべての発行済み株式の取得を目指す。日立化成の株式の約51%を持つ日立製作所もTOBに応じ、持ち分全てを約4940億円で売却する。買収総額が約9600億円にも達する大型買収だ。発表日の時価総額で算定すると、約4500億円の昭和電工に対して、日立化成は約8500億円。「小が大を呑む」と話題になった。

   買い付け価格については、業界では「高値つかみでは」といった声も聞こえるが、昭和電工には強気になれる理由がある。製造している黒鉛電極の引き合いが中国を中心に旺盛で、2016年12月期に約420億円だった連結営業利益を、17年12月期には約770億円、18年12月期には約1800億円まで押し上げる原動力となった。黒鉛電極は電気炉で鉄くずを溶かすために必要となる素材で、昭和電工が世界シェアの約3割を占める。中国では、高炉に比べて環境への負荷が軽い電炉への切り替えが進行中で、昭和電工はこの恩恵を受けることができたのだ。

   だが、その切り替えが一巡すれば需要は落ち着く。もう一つの主力製品であるハードディスク向け磁気ディスクも、記憶媒体の主流がハードディスクからフラッシュメモリーへ移行している中では将来性に限界がある。昭和電工にとって足元の高収益は一時的なものであり、次の成長戦略を考えていたタイミングで日立化成が売りに出たのだ。買収資金の借り入れが財務の負担になっても日立化成を手に入れたかった理由は、日立化成が手掛けるリチウムイオン電池向け負極材などの電子材料だ。次世代通信規格「5G」の普及に合わせて伸びる分野であり、当面の成長が期待できる。

規模としては「まだまだ」

   一方、日本触媒と三洋化成工業は2020年10月に経営統合して、持ち株会社の名称は「シンフォミクス」となる。紙おむつに使用される高吸水性樹脂などの化学製品について、両社で技術の融合や生産体制の見直しを進め、経営統合から2年後をめどに両社が持ち株会社と合併する予定だ。

   もっとも、これらの統合も、規模としてはまだまだだ。日本触媒と三洋化成工業の年間売上高を単純合算しても5000億円規模、昭和電工+日立化成でさえ1兆6000億円規模であり、世界の化学メーカーと互角に競えるとされる3兆円規模には到底及ばない。日本勢で3兆円に届いているのは三菱ケミカルホールディングス(HD、2020年3月期3.7兆円の見通し)だけだ。

   その三菱ケミカルHDは2019年11月、約56%を出資する上場子会社の田辺三菱製薬の完全子会社化を決めた。これに次ぐ規模の住友化学(同2.3兆円)、旭化成(同2.2兆円)、信越化学工業(同1.5兆円)などが、どういった手を打ってくるか、業界が注目している。