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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
増税の影響は... 日銀総裁「消費減は一時的」発言を読む

   日銀は21日(2020年1月)の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の現状維持を決めた。その直後に、日銀の黒田東彦総裁は、記者会見し、去年10月の消費税率引き上げの影響について、消費の落ち込みは一時的で、消費は増加基調が維持されているとした。

   具体的には、増税後の個人消費について「日用品などの非耐久財の消費は底堅く、耐久財でも家電の販売は徐々に持ち直している。新年の売り上げなど全体をみると消費の減少は一時的なもので個人消費の増加基調は維持されている」と述べた。

  • 日銀が金融緩和策の現状維持を決めた
    日銀が金融緩和策の現状維持を決めた
  • 日銀が金融緩和策の現状維持を決めた

前回増税時を見てみると

   総務省が公表している家計調査の2人以上世帯の実質消費支出について、昨年10月で前年同月比5.1%減、11月で2.0%減だった。業界団体の12月データでは、全国食品スーパー売上高(既存店ベース)で前年同月比1.0%減、全国コンビニエンスストア売上高(既存店ベース)で前年同月比0.3%減とさえない。

   日銀が公表している消費活動指数のデータをみても、どこが持ち直しているのか、さっぱりわからない。記者会見にでている記者にとっては、突っ込みどころ満載であったが、みんな煙に巻かれているようだった。

   黒田総裁は、前回2014年の消費増税の時も落ち込みは「一時的」といっていたので、今回もその意味で「一時的」なのだろうと皮肉りたくなる。というのは、3年くらい消費低迷があっても「一時的」なのだろう。

   では、日銀として、経済をどう見ているのだろうか。それは、金融政策決定会合と同日に発表された「経済・物価情勢の展望」をみればわかる。その中で、2019~2021年度の政策委員の見通しがある。政策委員見通しの中央値で2020年の実質GDPは、昨年10月時点で0.7%だったのが、0.9%と0.2%だけ引き上げられている。これは、今国会、2020年度予算の前に、2019年度補正予算を打つからだ。

   もっとも、その補正予算は4.3兆円の予算規模(編注:経済対策に伴うもの)で、実質GDP押し上げ効果は政府試算によれば1.4%である。それにもかかわらず、日銀の見通しは0.2%増というのは、消費増税により1.2%は減少するとみていることと同じだ。

   これが、はたして黒田総裁の言うように「一時的」なのかどうか。

税収増から軽減税率、ポイント還元を差し引くと...

   2019年度補正予算規模が4.3兆円というのは興味深い。昨年10月の消費増税は2%だが、その税収増は5.6兆円だ。これから、軽減税率1兆円、ポイント還元0.3兆円を差し引くと、マクロ経済に対するマイナス効果は4.3兆円となる。2019年度補正予算4.3兆円は、ちょうどその分を吐き出し、マクロ経済へのマイナス効果を相殺しようとするものだ。これを昨年の臨時国会で行っておけば、消費増税の当面の悪影響は少なかっただろうが、打つタイミングが遅れすぎた。

   それにもかかわらず、日銀は景気の下支えのための金融緩和を行わなかった。金融政策決定会合では、2人の委員は反対したが、残り7人の賛成で現状維持だった。反対した2人のように、マイナス金利を深掘りすると、実は政府はさらに公共投資がしやすくなる。

   そもそも、今の金融政策でも10年国債金利はゼロ、10年未満ではマイナス金利になっている。本来は、国はマイナス金利ならゼロ金利になるまで国債を発行すべきだ。労せずに国債発行だけで政府収入が得られるし、無コストで公共投資が行える。日銀は、国債発行を政府に促す意味で、消費増税の悪影響を理由としてさらなる金融緩和政策にすべきだった。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「韓国、ウソの代償」(扶桑社)、「外交戦」(あさ出版)など。