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量子暗号は東芝を救うか 「再建」へ動き活発化

   過去の不正会計が発覚した2015年以降、財務基盤を立て直すために看板の白物家電事業や主力の半導体事業などを次々に売却していった東芝。事業の柱を失った後の成長戦略が注目されていたが、ここに来て東芝を巡る動きが活発になってきた。俯瞰すると、東芝が進もうとしている方向性が透けて見えてくる。

   その鍵となるのが、2019年11月に発表した上場子会社3社を完全子会社化する方針だ。その3社は、火力などの発電設備を手掛ける東芝プラントシステム、ビルや工場向けの発電機を扱う西芝電機、半導体製造装置を製造するニューフレアテクノロジー。この3社に対して、計約2000億円を投じて株式公開買い付け(TOB)を実施するというのが発表内容だ。この時の記者会見で、東芝の車谷暢昭・会長兼最高経営責任者(CEO)は、完全子会社化によって「グループの力を結集し、相乗効果を最大化したい」と述べている。

  • 東芝の成長戦略に注目が集まる(画像は東芝サイトより)
    東芝の成長戦略に注目が集まる(画像は東芝サイトより)
  • 東芝の成長戦略に注目が集まる(画像は東芝サイトより)

グループ3社を完全子会社化へ

   親会社と子会社がともに株式を上場している「親子上場」は、NTTとNTTドコモなど日本企業には多く存在しているが、親会社が自らの利益を優先させることで子会社の少数株主の利益が損なわれる「利益相反」の問題が指摘されている。逆の見方をすると、子会社が獲得した利益が外部に流出してしまう懸念があるということになる。解決策は、完全子会社化して少数株主がいない状態にするか、外部に売却するか。最近では、日立製作所の上場子会社である日立化成について、昭和電工が実施するTOBに日立製作所が応じる形で売却することが決まった。

   東芝が完全子会社化する方針の3社は、いずれも産業向けでオーダーメードの製品を主に取り扱っており、一般的に市況の影響を受けにくい。東芝が既に売却している白物家電や半導体のように大量生産で市況の影響を受けやすい事業とは正反対であり、規模を追わずに高い利益率を求めることこそ、新しい東芝が目指している方向性に違いない。ニューフレアテクノロジーを巡っては、東芝がTOBを発表した後に大手光学機器メーカーのHOYAが東芝より高い買い付け価格で対抗TOBを実施する意向を一時表明した。東芝によるTOBが成立したため、大手メーカー同士による異例の争奪戦は回避されたが、ニューフレアテクノロジーの潜在力の高さを証明した。

大企業再生のモデルケースとなるか

   一方、東芝が取り組んできた次世代技術にも芽が出てきた。東北大と共同で研究している「量子暗号通信」を使い、ヒトの遺伝情報(ゲノム)の全データを伝送する実証実験に成功したと2020年1月に発表した。世界中で開発が進む次世代の「量子コンピューター」が現実になると、現在の技術に基づく暗号は破られる懸念が指摘されている。その量子コンピューターでさえも解読できないとされるのが量子暗号で、その技術で東芝は世界でも先頭を走っている。東芝は今回、「実用性を確認できた」としており、インターネットを通じて大量に重要な情報をやり取りする金融や医療の分野から事業化を進め、収益の柱の一つに育て上げる考えだ。

   経営体制でも、車谷会長兼CEOが社長兼CEOに就き、綱川智・社長兼最高執行責任者(COO)が代表権の無い会長となるトップ人事を2020年4月1日付で実施すると発表。これまでも三井住友銀行出身の車谷氏が事実上の経営トップと目されていたが、名実ともにトップとなって経営再建を迅速に進める。

   ここにきて連結子会社の東芝ITサービス(川崎市)で2019年9月中間期に200億円規模の架空取引していた疑いが浮上し、相変わらずコンプライアンス面の脇の甘さを露呈しているが、いずれにせよ、破綻寸前まで追い込まれた大企業再生のモデルケースとなるか、いよいよ注目を集めそうだ。