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新型肺炎「フェイクニュース」に政府が動く 取締法施行のシンガポール、その運用の実態は

   中国湖北省武漢市を中心に発生している新型コロナウイルスによる肺炎の問題では、根拠不明の情報が拡散するケースもある。ネット上の書き込みについて「虚偽情報」かどうかを政府が判定し、訂正や削除を求めることができる、いわゆる「フェイクニュース」対策法が施行されたシンガポールでも、それは例外ではない。

   シンガポールで新型ウイルスによる死者が出たとするネット掲示板の書き込みについて、シンガポール政府は20年1月27日、掲示板の運営者に対して訂正を命令した。法律は19年10月に施行され、訂正命令が出るのはこれで6件目。過去の事例では、政府に対する批判に反応したケースが目立つ。

  • 政府の訂正命令を受け「ハードウェア・ゾーン」の掲示板には訂正文が掲載された
    政府の訂正命令を受け「ハードウェア・ゾーン」の掲示板には訂正文が掲載された
  • 政府の訂正命令を受け「ハードウェア・ゾーン」の掲示板には訂正文が掲載された

「1月26日23時時点では死者確認されず」

   今回問題とされたのは、地元メディア大手のシンガポール・プレス・ホールディングス(SPH)系企業が運営するウェブサイト「ハードウェア・ゾーン」の掲示板に書き込まれた内容だ。1月27日のシンガポール政府の発表では、

「2020年1月26日17時50分、ハードウェア・ゾーンへの書き込みでは、66歳の男性が新型ウイルスで重い肺炎を発症し、シンガポールで死亡したとの主張がなされた。2020年1月26日23時時点では、武漢のコロナウイルスの感染をめぐる死者は確認されていない」

などと説明している。SPH側は、書き込みはガイドライン違反だとして削除していたが、命令を受けて改めて訂正文を掲載した。

   シンガポールでは1月26日に4人目の感染を確認したばかり。シンガポール政府としては、根拠不明の情報で国民に不安が広がるのを防ぐ狙いがあるとみられる。

   法律は「オンラインの虚偽情報・情報操作防止法」。ネット上で問題視された書き込みが「虚偽」かどうかを閣僚が判断し、公益に与える影響の大きさを評価。政府として対応を行う必要があると判断された場合は、フェイスブックなどの事業者に虚偽情報の訂正や削除を命じることができる。虚偽情報を拡散しているサイトやアカウントをブロックするように命じることもできる。これに従わなければ、最大で100万シンガポールドルの罰金刑だ。さらに、「悪意を持って」虚偽情報を拡散した人には、禁錮5年か5万シンガポールドル(403万円)、またはその両方が課せられる。ボットを使って虚偽情報の拡散を加速させた人への罰はさらに重く、禁錮10年か10万シンガポールドルの罰金、またはその両方だ。

   匿名の書き込みに対して訂正を命じるのは初めて。過去に問題になったのは、野党政治家や市民団体による書き込みで、命令を受けても従わなかったケースもある。

人権団体による主張に訂正命令→反論声明も

   例えばウェブサイト「ステーツ・タイムズ・レビュー」は、同サイトが運営するフェイスブックページで、与党候補者のキリスト教への傾倒を告発した人が逮捕され「でっち上げられたフェイクニュース」による容疑をかけられている、などと主張した。シンガポール政府は19年11月28日に訂正を命令したが、サイト管理者は命令に従わないことを表明。そこで翌11月29日、今度はフェイスブックに対して訂正情報を載せるように命令し、フェイスブックはそれに従う形で訂正情報を掲載した。

   20年1月には隣国、マレーシアの人権団体「ロイヤーズ・フォー・リバティー」(LFL)によるフェイスブックの書き込みが問題になった。LFLは

「死刑執行時にロープが切れたときのために、刑務官は残酷な執行方法について訓練を受けている」

などと主張したのに対して、シンガポール政府は

「記録が残っている限りはロープが切れたことはないし、刑務官は『残酷な処刑法を実行するための特別な訓練』を受けたという事実はない」

として、LFFに加えて、ヤフーシンガポールなどLFLの主張を拡散したサイトに1月22日付で訂正を命令した。この法律では、発信者が国外にいても処罰の対象となるが、実質的に国外の人権団体からの発信を止めることは難しい。実際、LFLは同日中に反論の声明を出している。そのため、シンガポール政府は翌23日、シンガポール国内からLFLウェブサイトへのアクセスを遮断することをシンガポールの接続事業者に命令している。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)