J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

国立感染症研究所が「検査拡大を拒んでいる」情報を否定 メディアに向けた「お願い」も

   新型コロナウイルスを高精度で検出するPCR検査に関する記事をめぐり、国立感染症研究所が「報道に携わる皆様へのお願い」を含む文書を発表した。「実態を見えなくするために、(同研究所が)検査拡大を拒んでいる」といった趣旨の記事が「散見」されるが、「事実と異なる」と否定し、理解と協力を求めている。

   発表文自体は、北海道に派遣された同研究所の職員の発言趣旨をめぐり「事実と異なる」一部の報道があったと反論する内容だが、文書末尾で上記の「お願い」にも言及した。PCR検査の実施状況をめぐっては、拡充の必要性が指摘されながら進展が遅いと連日、国会などで問題視する声があがっている。

  • 新型コロナ問題で答弁する加藤勝信厚労相(3月2日の参院予算委で、画像は参院インターネット審議中継サイトから)
    新型コロナ問題で答弁する加藤勝信厚労相(3月2日の参院予算委で、画像は参院インターネット審議中継サイトから)
  • 新型コロナ問題で答弁する加藤勝信厚労相(3月2日の参院予算委で、画像は参院インターネット審議中継サイトから)

「報道の事実誤認について」と発表文

   国立感染症研究所は2020年3月1日、脇田隆字所長名で「新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について」とする文書を同研究所サイトで公開した。

   具体的な対象記事やメディア名には言及しておらず、「職員の発言趣旨に関して事実と異なる(一部の)報道」があったとしている。発表文によるとその記事内容は、厚生労働省の指示で、感染者の確認が相次いでいる北海道へ派遣された同研究所の職員が「PCR検査について『入院を要する肺炎患者に限定すべき』と発言し、『検査をさせないようにしている』との疑念」が生じていると指摘している。

   こうした指摘に対し、同研究所は、同研究所職員が派遣先の北海道で従事しているのは「積極的疫学調査」であり、

「積極的疫学調査では、医療機関において感染の疑いがある患者さんへのPCR検査の実施の必要性について言及することは一切ありません」
「(略)医療機関を受診する患者さんへのPCR検査の実施可否について、積極的疫学調査を担っている本所の職員には、一切、権限はございません」

と強く否定。小見出しでは「一部報道による事実誤認について」との表現を使っている。

   要するに、PCR検査を行う場合でも、「積極的疫学調査」と「医療機関において感染の疑いがある患者さんへの検査」とは異なり、記事では後者に関する指摘だったが、同研究所が携わるのは、あくまで前者だという主張だ。

「積極的疫学調査」とは

   では、「積極的疫学調査」とは何か。1日発表文でも、法的な枠組みにも触れながら厚労省サイトを引用し、

「積極的疫学調査とは、感染症などの色々な病気について、発生した集団感染の全体像や病気の特徴などを調べることで、今後の感染拡大防止対策に用いることを目的として行われる調査」

と一般的な説明を紹介しているが、「医療機関において感染の疑いがある患者さんへの検査」との違いは分かりにくいかもしれない。参考になりそうなのは、同研究所の感染症疫学センターが「2月27日版」として公表している「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(暫定版)」だ。

   概略を紹介すると、(1)「患者(確定例)」、(2)「疑似症患者(感染症が疑われ、疑似症と診断された者)」、(3)「濃厚接触者」のうち、積極的疫学調査の対象は、基本的に(1)「患者(確定例)」と(3)「濃厚接触者」だとしている。

   こうした「一部の報道」に対する反論が「1日発表文」の大半を占めるが、最後の第5項目では「報道に携わる皆様へのお願い」にも言及している。「上記の件以外」でも最近の各種報道で、

「本所が『検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしている』、『実態を見えなくするために、検査拡大を拒んでいる』といった趣旨の、事実と異なる内容の記事が散見されます」

と指摘。さらに

「こうした報道は、緊急事態において、昼夜を問わず粉骨砕身で対応にあたっている本所の職員や関係者を不当に取り扱うのみならず、本所の役割について国民に誤解を与え、迅速な対応が求められる新型コロナウイルス感染症対策への悪影響を及ぼしています」

として、法律内容や同研究所の役割についての理解や、急速な感染拡大防止への協力を求めている。

   こうした「お願い」が出る背景には、PCR検査を望んでも受けさせてもらえない人が続出している実態がある。日本医師会も2月26日の会見で、「医師が検査が必要と判断したにもかかわらず、検査に結びつかなかった」といった「不適切と考えられる」事例の報告が寄せられているとして、調査を行うことを明らかにし、国にも是正を求める考えを示していた。

厚労省Q&Aにも「検査を受けたい人が受けられていないのではないですか?」

   同様の指摘は国会やメディアを通しても政府に届いており、厚労省サイトの新型コロナ関係の「Q&A(一般の方向け)、3月1日版」にも

「PCR検査の検査体制は増えていますか。検査を受けたい人が受けられていないのではないですか?」

という項目がある。主な回答内容は、「体制」については、

「検査体制能力は(略)1日4000件を超えるに至っています(2月29日現在)」
「現在も、地方にある民間検査機関、大学に、試薬などを提供し、検査能力を更に拡大しています」

としている。「検査がしたくても、保健所で断られ、やってもらえない」という指摘に対しては、

「政府として、医師の判断において感染を疑う場合には、検査を行うよう、これまでも繰り返し自治体に依頼を行ってきています」
「(略)試薬の広域的な融通を図り、必要な検査が各地域で確実に実施できるよう、国が仲介します」

と現状を説明。今後については、

「3月1週目中にPCR検査に医療保険を適用することにします。保険の適用により、医師が保健所を経由することなく、民間の検査機関に直接、検査依頼を行うことが可能となります」
「これまで試薬の開発、精度向上などに取り組んできたところであり、3月中の医療現場での利用開始を目指しています」

との展望を示している。