J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

消費税ゼロ、ポイント、現金一律...「抵抗」の中、経済政策どう打ち出す? 公明党・竹内譲衆院議員インタビュー

   新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済対策では、安倍晋三首相が2020年3月28日の記者会見で「現金給付」に言及したものの、その範囲については「ターゲットをある程度置いて」と、一律の給付について否定的だ。

   そんな中で、消費税の停止やポイント還元の強化、一律の現金給付、プレミアム商品券の発行などを唱えているのが、公明党の税制調査会事務局長を務める、竹内譲衆院議員だ。その狙いについて聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 公明党の竹内譲衆院議員。一律国民1人あたり10万円の現金給付とプレミアム商品券の発行を主張している
    公明党の竹内譲衆院議員。一律国民1人あたり10万円の現金給付とプレミアム商品券の発行を主張している
  • 公明党の竹内譲衆院議員。一律国民1人あたり10万円の現金給付とプレミアム商品券の発行を主張している

「インパクトのあることも大きく掲げて、世の中に影響力を」

―― これまで公明党は、3回にわたって経済対策に関する提言を政府に対して行ってきました。3月4日に行われた第3次提言では、(1)旅館、飲食店の特別貸付枠を増額(2)中小企業に無利子・無担保融資(3)休校に応じた農産物の需給安定(4)減収となるフリーランスも補償(5)中国進出企業へ情報提供の充実、の5点が軸でした。近く打ち出される第4弾の提言(編注:インタビューは3月30日に行われ、提言は3月31日に政府に提出された)では、どういった点が強化されますか。

竹内: 総合的な経済対策になるので、ありとあらゆる分野をカバーすることになると思いますね。金融経済だけではなく、社会保障とか、教育とか、様々な分野をカバーして、相当分厚い経済対策になると思います。

―― 3月24日のツイートでは、新たな経済対策として「消費税の一時的ゼロ、もしくはそれに匹敵する10ポイント還元、あるいは全ての国民に1人当たり10万円の給付と、それと抱き合せで何にでも使える25%のプレミアム付き商品券の発行など」を検討すべき、だと提唱しています。やれることはなんでもやるということが大事、だということでしょうね。

竹内: 特にわが党は、比較的小さな声を集めるのが得意です。「なるほど」と思うことを多く拾い上げていますが、インパクトのあることも大きく掲げて、世の中に影響力を与えることも必要だと思うんです。

消費税の「一時的ゼロ」には「実務的困難さ」

―― 確かにインパクトはありますね...。優先順位はどのように考えていますか。

竹内: 実現できた場合に影響力が大きい順に並べているんですよ。まず消費税を一時的にゼロにする。これはインパクトと期待感がものすごくあります。資金繰りを助けて消費購買意欲も高めますからね。ですが、実現の段取り、実務的なものを考えたときに意外に難しいところがあります。法律を通すとかですね。

―― 税率変更には、それなりの手間がかかりそうですね。

竹内: 手続きが大変で、しかも政治的な駆け引きがある。さらに、完全にデジタル化が進んでいるわけではないので、ある日突然ぱっと減らすことができないわけですよね。色々登録をしてもらったり、軽減税率もあります。現場では実務的な面倒くささがまだ残っている。税率が下がるまで買い控えが起きる要素もあるので、もう少し世の中を整備しないといけません。消費税は社会保障目的に使っていることもあって減税には批判が強いです。ですから、消費税の「一時的ゼロ」はインパクトはありますが、実務的困難さが伴います。

―― 「減税で減った分の社会保障費はどうするんだ」という批判ですね。

竹内: それは国債で埋めればよいのですが、「もっと借金が増えるじゃないか」といった議論がまだまだありますし、MMT(現代貨幣理論、デフレから脱却してインフレになるまで赤字を気にせず財政支出を増やせるとする説)みたいにみんなが納得している訳ではありません。そういう意味も、まだ実務的には無理です。

―― 次はポイントの10%還元です。

竹内: そうすれば消費税の分が実質ゼロになる、という考えです。せっかくポイント還元をしているのだから、それに乗っかればいいと思ったんですが、肝心要の経済産業省が実務的に「勘弁してくれ」と言うんですよ。

―― すでにキャッシュレスの還元は始まっていますから、それに上乗せすれば良いのではないですか。

竹内: そうそう。ですが、要するにこれまでの経緯があって、大手スーパーなどその辺の話し合いが十分にできていないわけなんですよ。大手スーパーは「今回だけにしてくれ」と言っているわけです。

―― 事業者の規模によって還元率が違ったりしますね。そのあたりのやり取りは複雑だったと聞きました。

竹内: そうそう。それをまた蒸し返すのは「今この忙しいときにできない」と言うわけなんですね、結局。システムも負荷がかかるという話でした。そうなると、これもなかなか実務的には難しい。

現金給付だけだと「結局使わないじゃないか」という批判が...

―― 次が「全ての国民に1人当たり10万円の給付」です。

竹内: 収入が400万の家庭だったら300万くらいの支出があるでしょうから、税率10%で30万円くらいは消費税に使っていることになります。4人家族だとすれば、1人あたり8万円弱。それに多少のお釣りをつけて還元する、というのが一番皆さんの家計を楽にすると考えています。それだけだと「結局使わないじゃないか」という批判があるので、さらに25%のプレミアム付き商品券、つまり40万円で50万円分の商品券が買える制度も導入すべきです。

―― 斉藤鉄夫幹事長は3月27日の会見で、現金給付の範囲について
「本当に困っている人、という対象をいかに特定していくか。(中略)そういう方々に広く行き渡るように、しかしながら、ある意味で安定した収入があって、ある一定以上の安定した収入があって、困っていらっしゃらない方(がいること)も事実。そういう方は、今回は対象外になることもご理解いただいて、幅広くそういう方に行き渡る手法を考えているところ」
などとして一律の給付には否定的です。安倍晋三首相も3月28日の会見で
「『国民みんなに給付を行うか』ということだが、リーマンショックの時の経験を鑑みれば、効果等を考えれば、ターゲットをある程度置いて思い切った給付を行っておくべきなんだろうな、と考えている」
と述べています。給付の対象を「全員」にすべき理由をお聞かせ下さい。スピードの問題でしょうか。

竹内: そうです。経済対策はこれだけで終わりませんから、早く出すことが大事です。所得制限をしようと思うと、自治体にお願いして新たにソフトを組まないといけなくなり、その事務費がものすごくかかります。1000億円単位です。1回目は極めて簡単にバーンと出した方がみんなも喜ぶし、経済に対する影響も少なくて済み、資金繰りも助かる、というのが私の持論です。とは言っても財源の問題がありますから、政府としての気持ちはわかるけれども...というところです。

―― 一律の給付だと、高所得者にも給付されることへの問題も指摘されています。

竹内: 感染症は所得の高低にかかわらず平等にかかるので、平等な見舞金的な要素もあります。そういう意味で一気に配ったほうがいい、という考え方です。さらに、世の中にインパクトを与える、お金を回すということを考えれば、所得が少ない人だけに給付するよりも全体に渡したほうが、お金がグルグル回るようになります。

―― 一律給付の場合、来年以降の高所得者に対する税率を高くして実質的に返してもらう、という考え方もありますね。

竹内: 僕は可能だと思うんですけどね。収入が増えた人はそれなりに累進課税を見直すとか、いろいろ手はあると思いますよ。逆に、まず配っておいて、それでも困っているところにはさらに上乗せする、といった手もあるわけですよ。

―― まず一律で渡して、第2弾の給付で調整もできるということですね。

竹内: 第1弾を早く。米国では13万円、シンガポールや香港でも10万円近く配りますからね。総理も「リーマンショック時の経済対策を上回る、かつてない規模の対策」だと言っています。

地域振興券は地方自治体の手間かかりすぎ、定額給付金は額が少なすぎ...

―― 過去には2009年の定額給付金(1人12000円)、1999年の地域振興券(1人20000円)と、現金と商品券の両方を給付した経緯があります。当時の政策をどう評価しますか。

竹内: 地域振興券は面白いアイディアだったんですけどね...。初めての試みということもあり、地方自治体に大変な負荷がかかったんですよ。手間ばかりかかって、地方自治体からは「二度とこんなことやってくれるな」と。もう一つは定額給付金でしょ、この時はまあハッキリ言うと額が小さすぎました。しかも、(給付金のきっかけになったリーマンショックは)金融不安だから、不安が募っているときはますます使わない。僕は金融不安とコロナ不安は違うと思っています。今は身体的な不安だから、いずれワクチンが出れば(需要が)戻ってくることは分かっています。ですが、金融不安や経済不安は底なしで先が見えないので、ますます消費に回りにくい。

―― まず12兆円かけて現金10万円を配り、さらに12兆円かけてプレミアム商品券を発行する。2回目が商品券になるのは「現金だと貯蓄に回って消費されない」という問題が指摘されているからですか。

竹内: そうです。特に高所得者ほど使いますよ。

―― これは、何にでも使える商品券を想定していますか。「和牛券」「水産物券」といった声も聞こえてきますが...。

竹内: 想定しているのは何にでも使える商品券です。スピード感や幅広くお金を動かす、お金を回すということが大事。回すためには力がいりますから、小さな金額では回らない。大きなエネルギーを与えれば回るんです。元々は銀行員だから分かるんですよ(編注:竹内氏は三和銀行(現・三菱UFJ銀行)での勤務経験がある)。

―― 業種別の商品券だと調整が大変そうですが、そうしたものの可能性はいかがですか。

竹内: なくはないでしょうね。業界で特に困っているインバウンド関係など、個別に手当てしたらいいと思います。

―― 「旅行券」をめぐっては、「この時期に何を配っているんだ」という声もあがります。感染が収束後の対策だというメッセージを明確にしないと、世論の反発を生みそうです。

竹内: そうですね。後の段階でしょうね。

―― 公明党の「第4弾」の経済対策では、給付対象は「所得制限なし」とはなりませんでした。「第5弾」に向けて、党内で引き続き働きかけていくわけですね。

竹内: ずっと働きかけてきたんだけどね、やっぱり財務省を含めた抵抗勢力が大きくて...。強いていえば、ドイツでは小規模事業者などに3か月で最大9000ユーロ(約108万円)を補償します。これは小さい企業への資金繰り支援という意味では良い政策で、今回の公明党の提言でも追加的に入れてあります。

―― 首相会見では、イベント自粛で収入が減少した人に対する補償に関する質問も出ました。

竹内: イベントを突然キャンセルしたら、どうしても払わないといけない契約金などあるでしょうからそれをどうするかというのはなかなか難しい話ですよね。固定資産税の減免など、税制でも色々とやろうとしているところです。

赤字国債「発行するしかないでしょう」

―― 現金+商品券で24兆円かかります。よく出てくるのが財源論ですが、やはり赤字国債でしょうか。

竹内: 発行するしかないでしょう。24兆円出しても税収でプラスになってくる部分もあるし、10年債だったら2兆4000億。まだデフレを完全に脱し切れておらず、需要を与えないといけないと思いますね。僕は大丈夫だと思うんですよ。そのくらいのことは。目先の小さな財政再建にこだわらないほうがいいと思いますね。

―― プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標達成を先送りすることになりますね。

竹内: 何十年もかけてこうした財政になってきたのだから、一気に清算しようとしたら本当に破壊、破滅してしまいます。やはり税収を増やしていかないといけないと思います。そしてデフレからインフレに脱却していくという風になれば、景気が上がってくる段階だから、そこで増税すればいい。だから増税する時期は非常に難しいんですよ。

―― 東京五輪、パラリンピックの延期が発表されました。見込んでいた「五輪需要」が2020年についてはなくなってしまいますが、経済対策にその分を積み増す必要はありますか。

竹内: 可能性はあるでしょうね。しかし、ずれるだけですからね。尻上がりに(景気が)良くなってくる可能性もあります。

―― 「中止」ではないので、需要の喚起が後に延びただけ、ということでしょうか。

竹内: そういう考え方もあります。しかし、しばらく苦しいことは事実でしょうね。

―― ここ1年の状況を見て、追加の対策が必要になるかもしれませんね。

竹内: そうです。

竹内譲さん プロフィール
たけうち・ゆずる
衆院議員、公明党外交部会長、税制調査会事務局長。1958年京都市生まれ。京都大学法学部卒。三和銀行(現・三菱UFJ銀行)勤務を経て93年に衆院旧京都1区から出馬し、初当選。99年から2005年にかけて京都市議を務めた後、09年に比例近畿ブロックから衆院議員に再当選。通算で現在5期目。著書に「Japanese Politics One Politician's Perspective」(文芸社)。