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野村克也氏「投手が捕手のサインに首を振ったら盗塁しろ」→その理由は? 元参謀・橋上氏が明かす采配術

   プロ野球界の名将・野村克也氏が亡くなってから2カ月以上が過ぎようとしている。

   選手、監督して日本の野球界に多大な功績を残した野村氏。J-CASTニュース編集部は、ヤクルトで選手として野村氏の指導を受け、楽天でヘッドコーチとして野村氏を支えた橋上秀樹氏(54)を取材し、実体験に基づいた「野村野球」について話を聞いた。

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「おまえ何を目指して練習しているんだ」

   ヤクルト時代、選手として7年間、野村氏の指導を仰いだ橋上氏。野村氏がヤクルトの監督就任直後にキャンプ中のバッティング練習で野村氏からかけられた言葉が今でも忘れられないという。

「おまえ何を目指して練習しているんだ」

   とっさに言葉が出なかったという橋上氏は「それまでそんなことを考えてもみなかったので、答えることが出来ませんでした。野村さんの言葉を聞いて、自分がそれまで漠然と練習していたことを痛感させられました。私の心に刺さりました。この他にも野村さんには『正しい努力をしなさい』『成果の現れる練習をしなさい』など多くのアドバイスをいただきました」と当時を振り返った。

   野村氏がヤクルトの監督に就任したばかりのころ、橋上氏が印象に残っているエピソードを教えてくれた。

「投手が捕手のサインに何度か首を振る時は...」

   攻撃の場面で、ランナーが1塁に出た際、野村監督はこう指示を出したという。

「投手が捕手のサインに首を振ったら盗塁しろ」

   野村氏の采配はズバリ的中したという。1塁ランナーは抜群のタイミングでスタートを切り、盗塁の成功率は急激に上がった。他球団からは、ヤクルトが投手のクセを完全に読んでいるとの声も上がったという。橋上氏は野村氏の指示の意図を次のように解説した。

「当時、投手のけん制はほとんど捕手が出していました。捕手がけん制のサインを出したならば普通は首を振りません。ですので投手が首を振った時点で、ほぼけん制はないということです。だからランナーはけん制を気にすることなく思い切ってスタートを切ることができる。野村さんは投手の心理も分析していて、『投手が捕手のサインに何度か首を振る時は、投球に集中している時だからランナーにはあまり集中していない』とおっしゃっていました」(橋上氏)

派閥を作ることを嫌った理由は...

   独自の視点から選手、コーチらが驚くような戦略を次々と披露した野村氏は、その一方でいち社会人として野球以外の指導にも尽力した。

「野村さんはよく『周りから評価を得られるようにしっかりと仕事をしなさい』とおっしゃっていました。社会人として恥ずかしくないような行動をしなさいと。選手は日ごろからこのような指導を受けていましたから、人間的にしっかりした選手が多かったです。日本代表チームでもヤクルトの選手がキャプテンを務めることも多く、選手としての力はもちろん、人間性が認められたからだと思っています」(橋上氏)

   また、楽天の監督時代、野村氏はコーチ陣と一定の距離を保っていたという。チーム内がギクシャクするという理由で派閥を作ることを嫌った。

「遠征に出ると試合後に2、3時間ミーティングをしてから宿泊しているホテルで食事をするわけですが、野村さんが座る場所はいつも決まっていました。5、6人掛けの丸テーブルに野村さんとマネージャー、球団代表、そして私が同席します。私はヘッドコーチでしたので同席させていただきましたが、他のコーチが同席することを嫌がりました。監督が派閥を作ると、選手に影響を及ぼすと考えていたようです」(橋上氏)