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「ポリ袋防護服」教育機関が寄付も... 誹謗中傷で地元医師会「非常に残念」

   新型コロナウイルスの影響で防護具不足が深刻な医療現場を助けようと、兵庫県宝塚市の私立、雲雀丘(ひばりがおか)学園が在校児童や生徒の協力で「ポリ袋防護服」を作り、地元の医師会に寄付したという記事に対し、ツイッター上で一部「美談にするな」「善意のゴミ」などの反応があがった。

   簡易防護服を受け取った宝塚市医師会の栗田義博会長は、J-CASTニュースの取材に対し、簡易防護服について「非常に助かる」とした上で「(学園が)誹謗中傷されるのは非常に残念だ」と語った。

  • 「ポリ袋防護服」受け取った医師会の反応は(画像はアイグレーのニュースリリースより)
    「ポリ袋防護服」受け取った医師会の反応は(画像はアイグレーのニュースリリースより)
  • 「ポリ袋防護服」受け取った医師会の反応は(画像はアイグレーのニュースリリースより)

安全面を問題視する声も

   記事は毎日新聞が20年5月6日に公式サイト上で報じたもの。雲雀丘学園が傘下の幼稚園、小学校、中学・高校の児童、生徒や保護者らにポリ袋を使った防護服の作製を呼びかけ、集まった防護服約1400着を5月1日に宝塚市の医師会などに寄贈したという内容だ。

   記事には、学園の中学・高校の家庭科担当教諭がポリ袋を使った簡易防護服の作り方を動画で公開し、児童・生徒に家庭で作業をしてもらったとある。また、寄付を受けた宝塚市医師会・栗田会長の「医療の現場では足りなくて困っていた。十分に役に立ち、ありがたい。子供たちの励ましが何よりうれしい」というコメントも掲載されている。

   しかし、記事を見た一部のツイッターユーザーからは、医療に詳しくない児童や生徒が作った防護服の安全性を問題視する声や、「美談にするな」といった声があがった。中には「『善意のゴミ』だ。しかも、批判するとワルモノ扱いされるタチ悪いやつだ。何度も言うけど、お気持ちで感染症は防げないんですよ」と学園を非難するツイートもあり、広く拡散されていた(当該ツイートは5月8日17時時点で見られなくなっている)

学園長「全く心外であり、心ない指摘」

   こうした声に対し、雲雀丘学園の岡村美孝学園長は5月8日に公式サイト内の「学園長便り」を通じて「私としては全く心外であり、心ない指摘と言わざるを得ません」とコメントした。

   安全面への指摘に対しては、動画作成にあたって防護服作製の原作者の指導と細部にわたるチェックを受けたことや、完成品を学校医でもある宝塚市医師会の副会長に見てもらったことをあげ、反論している。学校医からの評価については、4月24日の「学園長便り」の中で「医療現場での使用について問題のないこと、極めて有益な活動であるとの評価をいただいています」としている。

   J-CASTニュースは5月11日、簡易防護服の作製を発案した雲雀丘学園中山台幼稚園の長岡伸幸園長に、作製の経緯を聞くことができた。長岡園長は4月20日に新型コロナウイルスで困っている現場への支援策を学園長と議論していたところ、その日のうちに大阪府豊中市の職員が市立病院に向けて簡易防護服を作っているというニュースを知り、医療現場へ向けた簡易防護服の作製・寄付を思いついたと語る。

   その後、看護関連業のアイグレー(兵庫県尼崎市)がブログで公表していた「ポリ袋で作る15分でできる使い捨て防護服」をもとに、中高の家庭科教諭の協力で作り方動画を作成。在園・在校生や保護者へ向けて動画を公開し、防護服の作製を呼びかけた。

   長岡園長によれば、11日時点で学園に対する誹謗中傷のメールは直接届いていないというが、安全面の指摘や寄付を評価するメールは届いたとしている。また、ツイッター上の誹謗中傷に対する生徒や保護者からの不安の声も聞かれていないという。長岡園長は「我々の作ったものが、医療現場で困っている人たちの一助になれば」と語った。

「作業台はアルコール消毒」「内側に触らない」などアドバイス

   「ポリ袋防護服」の参照元となったアイグレーは、4月27日に公式サイト内のブログで、同学園から防護服作りに関する依頼があったことを明かしている。

   アイグレーが4月16日にブログで公開した「ポリ袋で作る15分でできる使い捨て防護服」は、同社の事業を監修する元米軍医が、米同時多発テロの細菌戦に備えたシミュレーションで学んだというもの。異なるサイズのゴミ袋やビニール袋を切り、ガムテープで繋ぎ合わせることで、簡易的な防護服が完成する。

   5月8日、アイグレーの見谷貴代副代表に取材すると、4月23日に学園側からブログ内容を参考に「防護服の作り方」の動画を作成し、校内向けに配信したいという依頼があったため、これを快諾。その後のやり取りで「発熱の症状がある場合は作らない」「作業台はアルコール消毒する」「手洗い、マスク着用で作業をする」「防護服の内側には触らない」「ガムテープでしっかり隙間を埋める」といった作製の際の注意点を学園側にアドバイスしたという。

   ただ、見谷副代表によれば、簡易防護服はウイルスを完全に防ぐものではなく、あくまで「家庭用」。学園側はそのことを承諾した上で、学校医を通じ「医療用で問題ない」と判断したとしている。

医師会会長は「実用性」評価

   簡易防護服を受け入れた宝塚医師会はどう思っているのだろうか。5月8日、医師会の栗田会長に取材すると「簡易防護服は本当の防護服ではなく、少なくとも陽性の方が入院している病棟に(医療従事者が着て)入っていける服ではありません」とその効果は限定されるとの認識を示した。

   その上で、慢性的な防護具不足が続く医療現場においては、

「日々の診療では、何の症状もない方に唾を飛ばされることもあるため、そういったものを防ぐ上では有効です。僕らも(普段から)100円ショップの雨合羽を着てやっていますので、非常に助かります」

   と、簡易防護服の存在は大きかったと語る。

   また、「ポリ袋のつなぎ目の部分はガムテープで固定しているため、飛沫が飛んでも服にはつかないようになっている」と実用性の高さも評価した。

   一方、寄付を行った学園側にツイッター上で非難の声があがったことについては「せっかく好意で寄付してもらっているものに対して、誹謗中傷されるのは非常に残念だと思っています」とコメントした。

   11日の医師会への取材によれば、簡易防護服は12日から市内の医療機関に配布される予定だ。実際に使用するかどうかは「医師の判断に任せる」という。

(J-CASTニュース編集部 佐藤庄之介)