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岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
「シアトル占拠」に市長「お祭りみたい」、大統領は「制圧せよ」

   デモ隊がシアトルを占拠――。

   ミネソタ州ミネアポリスで白人警官が黒人男性を死亡させた事件を受け、西部ワシントン州シアトルでは2020年6月10日から11日にかけて、約500人のデモ隊が市街地の一角である市庁舎周辺にバリケードを築き、「キャピトルヒル自治区(Capitol Hill Autonomous Zone)」を設置したと主張する事態となっている。

   警察署も占拠し、警察署の建物正面の文字は「警察(POLICE)」が「人々(PEOPLE)」に書き換えられ、「SEATTLE PEOPLE DEPARTMENT」とされた。報道によると、警察署が緊張を和らげるために一時的に閉鎖したところ、デモ隊がその周辺にバリケードを設けて占拠したという。

  • 「キャピトルヒル自治区」と書かれたブロック(2020年6月10日、ワシントン州シア
トルで Ochloさん撮影、Wikimedia Commonsより)
    「キャピトルヒル自治区」と書かれたブロック(2020年6月10日、ワシントン州シア トルで Ochloさん撮影、Wikimedia Commonsより)
  • 「キャピトルヒル自治区」と書かれたブロック(2020年6月10日、ワシントン州シア
トルで Ochloさん撮影、Wikimedia Commonsより)

大統領「国内テロだ」

   FOXニュースによると、自治区設置にはアンティファ(ANTIFA=左派から極左の反ファシズム運動で、トランプ大統領の支持者と対立)が関与しており、彼らもそれを隠してはいないという。

   一部の報道では、自治区のリーダーのひとりは、ラッパーのラズ・シモン氏だといわれている。ライフル銃や拳銃を持ち歩き、我々が「警察」だと主張する人たちがいる。

   警察とデモ隊の衝突もあり、シアトル市警は「強奪や強姦なども起きているが、私たちは中に入ることができない」と訴えている。警官が「自治区」に入ろうとして、デモ隊に阻止される場面もあった。

   自治区には住民が住み、商店もあるため、警察のいない状態で何かあった時に、安全を懸念する声が高まっている。

   トランプ大統領はこれを、「シアトルを乗っ取った国内テロだ」とし、民主党のジェイ・インズリー州知事とジェニー・ダーカン市長を厳しく非難し、「自分たちの町を取り戻せ。今すぐだ。やらないなら私がやる」、「これはゲームじゃない。醜い無政府主義者をストップすべきだ。今、すぐにだ」と次々にツイートした。

   これに対してダーカン市長は、「(トランプ氏は)ホワイトハウスの地下壕に引っ込んでいなさい」とツイートで応酬。フロイト氏の死をきっかけに起きた抗議デモ参加者らがホワイトハウス近くに集まった時、トランプ氏が警護隊に付き添われてホワイトハウス地下に退避したという報道を受けたものだ。

   また、トランプ氏が、前出のツイートで、ストップをスペルミスでストゥープと記したことを皮肉り、インズリー州知事もツイートで、「統治能力がゼロなのだから、ワシントン州には関わるべきじゃない。ツイートを『ストゥープ』しろ」と反論した。

民主党市長「この国は抗議することで生まれた」

   CNNニュースでは、アンカーのクリス・クオモ氏が、何が起きているのか、どう報道してよいのか、戸惑いを感じている様子だった。

   取材を受けたダーカン市長は、「たいしたことはない」という感じで、コロナに感染していたクオモ氏を気遣う余裕を見せたあとで、「街をコントロールできていないように見えるのですが」とのクオモ氏の問いに、こう答えた。

「(占拠されたエリアは)ブロックパーティ(ストリートで行われるコミュニティのお祭り)みたいな雰囲気ですよ。ここはよくブロックパーティが開かれる辺りなんです。市民の安全を脅かすようなことは起きていません」

   CNNやABCの報道では、無料で食べ物が配られたり、映画を見たり、と穏やかな様子も伝えられている。

   クオモ氏がためらった様子で、「ブロックパーティが市庁舎や警察を占拠・破壊することはないはずですが、あなたにこれをコントロールできると思いますか」と問いかけた。

   これに対し、ダーカン市長は、「はい。このところずっと続いていた警察とデモ隊の対立を和らげたかったんです。全国民がフロイド氏の殺害を目の当たりにし、それが火をつけました。この国には制度的人種差別(systemic racism)があり、それを解体しなければなりません」と答えた。

   クオモ氏が「トランプや右派は、『左派、ラディカル、アナキストはあなたの仲間だから、自由にやらせている。占拠者のなかに黒人はほとんどいないじゃないか』と言っていますが」と問いかけると、市長はこう答えた。

「この国は抗議することで生まれたのです。集会を持ち、抗議し、政府がひどい時にはそれに立ち向かう。それが憲法で守られた最も大事な権利なのです。その権利と市民の安全を守るために、市長として最善を尽くす。両立するのか。両立させなければならないのです」

   トランプ大統領が、「(シアトルの問題は)簡単に解決できる。制圧せよ。(暴動が起きて街が荒れた)ニューヨークのようにさせるわけにはいかない。命を救うために『思いやりを持って制圧』するんだ」と主張していることに対して、こう厳しく非難した。

「コロナと制度的人種差別という危機に直面している私たちには、この国をまとめ、癒してくれる大統領が必要なのです。なぜ市民が街に出て抗議しているのか、トランプ氏には理解できないのです。軍派遣は憲法違反です」

   クオモ氏は、「コロナということで言えば今、(人が押し寄せている)シアトルで起きていることも、助けにはなりませんが。シアトルの今の状況がどのくらい続くと思いますか」と問いかけたが、ダーカン市長ははっきりと答えなかった。

   ワシントン州の南に位置するオレゴン州のポートランドでも今、シアトルと同様の動きが見られ始めている。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。