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あの「チー牛」について、すき家に聞いてみた ネットでなぜか流行語化

   あなたは「チー牛」というワードを知っているだろうか。

   「チーズ牛丼」の略語であるこの言葉、ネット上では1枚のイラストとともに、なぜだか「イケてない」人物を指すネット流行語として定着しつつある。

   なぜチー牛? その拡散の経緯、そして実際にモチーフになったと思われるメニューを展開している牛丼チェーン「すき家」の受け止めを、J-CASTニュースが取材した。

  • 「チー牛」で画像検索を行うとこのようなイラストが出てくる
    「チー牛」で画像検索を行うとこのようなイラストが出てくる
  • 「チー牛」で画像検索を行うとこのようなイラストが出てくる

発端はネットで出回っているイラスト

   きっかけとなったのは、ネット上で出回っているとあるイラストだ。地味な眼鏡をかけ、セットした様子のない黒髪、ちょっと突き出気味の口元――という、いかにもちょっと冴えない様子の若い男性。そんな男性が、「すいません、三色チーズ牛丼の特盛りに温玉付きをお願いします」と注文を行っているというものだ。

   このイラストの男性やその注文の内容から、ツイッターや5ちゃんねるなどのネット掲示板では、「イケてない人」やその容姿を象徴するワードとして「チーズ牛丼」と「チー牛」が使われている。

   SNS分析ツール「Social Insight」で「チー牛」または「チーズ牛丼」を含むツイートの数を調べると、ピークを迎えた6月4日ではこの1日だけで1万2000件以上の投稿を確認できる。その注目度からか、「チー牛」は4日から11日までワード募集を行った「ガジェット通信 ネット流行語・アニメ流行語大賞2020上半期」にもノミネートされている。

   その用法や意味は、いわゆる「陰キャ」という言葉に近い。こちらは引っ込み思案で内気な人を指す言葉で、時にネット上などでは他人を「地味でイケてない人間だ」としてレッテルを貼る際にも用いられる。

本来は関係ない画像だったのが...

   「チー牛」が広まるようになったきっかけとされているのは、5ちゃんねるの掲示板「なんでも実況(ジュピター)」で18年7月19日にとあるスレッドに投稿された書き込みだ。投稿者は「ザ・陰キャって顔」の特徴を挙げ、「眼鏡」「黒髪」「子供のような髪型」「覇気のない抜けた顔」などと辛らつな言葉を並べた。この書き込みに、チーズ牛丼を注文する男性のイラストが参考画像のように添えられているのだ。

   このイラストは、その以前から存在しており、あくまで投稿者が勝手にイメージとして転載してきたものだったとみられる。にもかかわらずこの書き込みはスレッド内で「こういう顔のやつおるよな」などと反響を呼んだ。この書き込みにより、イラストの男性の外見的特徴と「チーズ牛丼」、そして「陰キャ」が結びついていく。

   書き込みは他のスレッドや掲示板にも転載されていき、やがてまとめサイトでも紹介されるようになった。あくまでイラストは「三色のチーズ牛丼」と表記しているが、すき家のメニュー・「とろ~り3種のチーズ牛丼」を指すものとしてネタにされていった。

   19年4月にはまとめサイトで「とろ~り3種のチーズ牛丼とかいう陰キャ専用牛丼」というスレッドが掲載されているように、「『陰キャ』は『チーズ牛丼』を食べる」というジョークのような風潮が醸成されていく。

   そうして「あなたはあのイラストの『陰キャ』とされる男性のような雰囲気や顔をしていそうだ」という、相手をけなすための「煽り」として「チーズ牛丼」が用いられていくようになった。

ツイッターに浸透し、「チー牛」も台頭

   イラストはネタにされ続けた。19年6月には他にイラストの男性を武士風にしたり、ヤンキー風やイケメン風に改変するコラージュ画像が作られていったことが確認できる。19年12月には「コミックマーケット97」でとある参加者が「チーズ牛丼」男のイラストの「コスプレ」を行った。特別なことはしておらず、「すいません、三色チーズ...」の吹き出しと、自身の顔を並べるというものだ。このコスプレやコラージュ画像の一部はツイッターでも話題となった。

   また、「チーズ牛丼」を使ったネタツイートなどが度々拡散され、20年の4月の中旬からは1日500件~1000件のツイートを当たり前のように見かけるようになった。

   さらに最近では、「チー牛」という略語も定着し、いっそう「人気」が加速している。いつから「チー牛」という略し方が浸透したのだろうか。「なんでも実況(ジュピター)」を、ログを保存しているサイト「ログ速」で見ていくと、17年と18年までは年に1度しかこの言葉を使ったスレッドは建てられていなかった。

   19年では10月に入ってようやく「チー牛」を使ったスレッドが1つ出現し、12月には2件。ところが、20年の1月に入ると急に月あたりで100件以上が乱立するようになる。

   また、「Social Insight」でツイッターを見ていくと、こちらでも「チー牛」という略語を使ったツイートは19年末までは1日0件~4件程度というのがほとんどだった。

   「チーズ牛丼」の広まりにつれて「チー牛」も徐々に浸透していったようで、4月の中旬からは100件以上の「チー牛」ツイートが行われるようになった。その中で5月10日は急な伸びを見せ、9日には約270件のところ、1600件ほどのツイートが行われた。この日には「これで合計点が100点超えるとチー牛確定らしい」という診断テストのような画像が4000件程度リツイートされていた。

   これが契機となったのか、翌日からは500~2000件といった幅でツイートされるようになり、ピークの6月4日には「チー牛」というワードだけで1万件に上った。この日には「友人が『おれがネットで一番チー牛だ』と言っていたので比較画像貼っておきます」というツイートが拡散され、2万件以上のリツイートを獲得している。

   まとめサイトの現状を見ると、10日には「チー牛に生まれてきたやつの人生難易度ハードすぎ」、15日には「チー牛の特徴『眉毛を整えない』...」といった辛らつなスレッドがまとめられており、「チー牛」が「陰キャ」をからかう言葉として使われていることがわかる。

「認知しております」

   こうした奇妙な経緯を経て、ネットミームとして定着しつつある「チー牛」。それにしても、とんだとばっちりなのは、「三色チーズ牛丼」ならぬ「3種のチーズ牛丼」を人気メニューとして擁する「すき家」だ。この謎の流行を、いったいどうみるのか――。

   J-CASTニュースは16日にすき家を運営する「ゼンショーホールディングス」の広報室に「ネット上で『これを食べている人は、こういう人だ』といった表現として、『チー牛』という言葉を多く見かけるが、認知しているか」と取材した。

   担当者は

「『チー牛』という言葉については、広報室としては認知しております。人気ナンバーワンのトッピング商品である『とろ~り3種のチーズ牛丼』ですが、幅広いお客様に今後とも継続してお召し上がりいただければと存じます。また、17日からちょうど『チーズ牛カルビ丼』というメニューが登場するので、ぜひお召し上がりください」

と返答した。