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旅雑誌「ワンダーJAPAN」出版不況でも復活 ワンダーJAPON編集長が語る「紙メディアの魅力」

   出版不況と言われる昨今、雑誌の休刊が相次いでいる。2020年4月には月刊誌「カメラマン」が休刊。さらに、5月には「東京ウォーカー」「横浜ウォーカー」「九州ウォーカー」、さらに、6月には「アサヒカメラ」が休刊するなど、雑誌の「絶滅」が止まらない。そんな中、あの雑誌が復活の狼煙を上げた。6月24日発売の「ワンダーJAPAN」改め「ワンダーJAPON」である。

   「ワンダーJAPAN」は旅の初心者からマニアまで、幅広い層から支持を集めてきた旅雑誌。「廃墟」「異空間」「パワースポット」「秘宝館」などの写真を集め2005年に1号が発売されるや人気を博すも2012年に20号を発売したところで休刊となっていたため(スペシャル版は2013年と2015年に刊行)、今回、6月24日に8年ぶりの復刊となった。なお、版元を変えるにあたってタイトルは1文字違いの「ワンダーJAPON」に変更。長い時を超えて令和の世に復活した「ワンダーJAPON」の魅力を探るべく、J-CASTニュース編集部は編集長を務める関口勇さんに話を聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 坂下朋永)

  • インタビューに答える関口勇さん
    インタビューに答える関口勇さん
  • インタビューに答える関口勇さん
  • 復刊した「ワンダーJAPON」を手にする関口勇さん
  • 復刊した「ワンダーJAPON」

引き受けてくれそうな出版社が見つかるも...

   ――今回、復刊するにあたっての意気込みをお教えください。

関口: 普通の観光スポットでは飽き足らない人向けではあるんですが、決してマニア向けというわけではなく、むしろ、「ワンダーJAPON」を読むことによってマニアックなものに関心を持っていただきたいとすら思っています。

   ――復刊にあたって版元が変わっていますが、その理由とは?

関口: 休刊以降、「ワンダーJAPAN」はライフワークでもあると思っていたので、何とか復刊のチャンスを伺っていたのですが、前の版元では復刊の企画が通らず、そうこうしているうちに自分が年を取り始めてきたということですかね。だったら、辞めてしまって、自費出版でもいいかなと思っていたら、引き受けてくれそうな出版社がいったんは見つかったんです。

   ――なるほど。しかし、「いったん」とは......?

関口: 企画を詰めている最中にその出版社が、「定価が高くなりそうだ」と難色を示して話が流れてしまったんです。しかし、その後、「廃墟写真集を出している編集者さんがいる」という話を耳にしたので、廃墟写真が多いワンダーJAPANを気に入ってくれるのではないかと思い、スタンダーズさんに企画を出したところ、採用されたんです。結構、紆余曲折を経ました。

   ――艱難辛苦(かんなんしんく)の末の出版ですね。なお、J-CASTニュース編集部は版元の「スタンダーズ」の担当編集者である内山利栄さんにも話を聞いている。

内山: もともと写真が好きで、写真系、カメラ系の本などを作っていたのもありますが、ワンダーJAPANは個人的にも読んでいたので、話がきたときに「自社で出せるならやりたい!」とは思いました。ただ、本の性質上、制作費はかなりかかってしまうのだろうな〜と思っており、当初は無理だと思っていました。そこを関口さんが本文・全ページを自分でデザインするという、驚愕の離れ業でクリアしてくれたので発売に至ることができました。関口さんのような、情熱や気合で状況を変えていく人を久々に見た気がしました(笑)。今後も続けて出せるように自分も陰ながら努力したいと思います。

「不思議」ではあるが、決して「オカルト」ではない

関口: ワンダーJAPAN、及び、ワンダーJAPONに掲載されている「廃墟」「異空間」「パワースポット」「秘宝館」ですけど、これらを子供のころから好きだったかと言うと、必ずしもそうではなかったんです。でも、確かに子供のころから「不思議なもの」は好きでしたね。ただ、不思議なものと言っても「オカルトそのものが好き」というわけではなかったんです。

   ――と、いいますと?

関口: むしろ、オカルトとされているものが「なぜ、オカルト視されるようになったか?」という形で興味を抱くことが多かったです。例えば、「○○という廃墟では幽霊が出る」っていう「都市伝説」が流布されているとするじゃないですか。でも、そんなのは後付けの情報なんですよ。そうじゃなくて、「幽霊が出る」とか言われている場所って、そこを訪れた人間に妄想をかき立てさせる力、つまり、「視覚的な何らかの要素」があると思うんですよ。私はそういうことを考えることが好きなので、そういう要素がありそうな景色をワンダーJAPANを通じてお伝えしてきたんです。

   ――なるほど。そうなると「廃墟マニア」な人たちは、やはり、「怖いもの見たさ」の感情が強いということでしょうか?

関口: それも確かにありますけど、「無常感」が好きなんじゃないですかね。「軍艦島」もそうですけど、「廃墟」である以上、かつては栄えていたわけじゃないですか。でも、今は朽ち果てている。そういう所に対して、「廃墟美」とでもいうものを感じる人が廃墟マニアになっていくのではないでしょうか。

   ――なるほど。「廃墟美」ですか......。ところで、6月24日発売のワンダーJAPONですが、掲載されている写真は日本中の色々な箇所を撮影したものですが、全部ご自身で撮影されたんですか?

関口: 自分で撮りに行ったのが7割、他の人に頼んだり募集したりしたものが3割といったところです。ちなみに、海の中の写真は「国内の廃墟には行きつくした人が、海の廃墟を撮影してきた」というものです。ワンダーJAPAN時代とコンセプトは変えていませんが、かといってマンネリにはしたくないので、ネタ選びは常に気を使っています。今回では、新しい要素として「展望台」を入れています。

   ――展望台......。何だかありきたりな感じがしますが......。

関口: そう思われるかもしません。しかし、今回は「展望台を見に行く」というアプローチをしています。普通、「展望台」とは、「景色を見るために登る」ものであり、展望台自体を見に行くことはありません。ですが、展望台はどれも「1点もの」。もちろん、「東京タワー」「東京スカイツリー」といった有名な展望台は、すでにファンはいますが、日本各地にある、「これ、登る価値あるのかな?」と思ってしまうような小規模な展望台であっても、デザインは1つ1つ違っており、実に個性的で見ごたえがあるんですよ。

   ――確かに......。「展望台を見に行く」という発想はありませんでした。

ワンダーJAPONが与える「腑に落ちる感」

   ――雑誌の休刊が相次ぐ中、「紙メディア冬の時代」とも言える状況の中で復刊となるわけですが、逆風とも言える状況の中で復刊することの意義をお教えください。

関口: 電子と紙の良さはそれぞれにあると思うのですが、紙の良さは、持った感じが良いというか、「物感」(ものかん)が出る所ですかね。タブレットだとあまり「物感」がでないかなと思います。それと、見たいページにパッと行けるとか。後は、「画面」の大きさですね。ワンダーJAPONは休刊前と変わらずA4ぐらいの大きさ(21.0×28.5センチ)なので、見開きにするとA3の大きさ。タブレットではこの大きさや迫力を、なかなか体感できないですからね。なので、そんなに大きな部数ではなくても「紙で読みたい」という声には応えていきたいです。

   ――確かに、紙ならではの魅力は大きいです。

関口: 雑誌が厳しい状況なのはもちろん分かっていますが、ワンダーJAPONはオンリーワンの存在だと思っているので、需要を食い合わないという強みはあると思います。後は、ワンダーJAPONに掲載されている写真には、「共感する楽しさ」があると思っています。掲載されている「不思議な写真」を目にして、「これって、何だか変だよね」という思いは、やはり、読者の頭に浮かぶわけで、その思いを他の読者も思っているんだろうな......と思うと、やはり、楽しいじゃないですか。これがワンダーJAPONの魅力でしょうかね。

   ――共感の広がりは、やはり重要です。

関口: あと、ワンダーJAPONは通称「イグアナクレーン」(同誌7~8ページに掲載)といった変わった形の構造物など、世の中に存在する「変なもの」について、「こういう役割で使われているんだよ」といった形で紹介するわけですが、仮に読者がワンダーJAPONを読む前にその構造物の存在を知っていて、で、その状態でワンダーJAPONを読んで正体が分かったとすると、すごく、腑に落ちると思うんです。「何であるかが分かる」という「腑に落ちる感」もまた、ワンダーJAPONの魅力だと思います。

   ――最後に、ネタがなくなる可能性ってあるんでしょうか?

関口: ないんじゃないですかね。というのは、世の中には常に新しい「変なもの」が生まれていますし、また、現存する建造物は将来的には廃墟になっていくわけですし。そう考えれば、自分が退屈しない限りは続くんじゃないでしょうか。