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コロナ対策「巨額補正予算」のツケ 東日本大震災後は「復興特別税」導入したが...

   新型コロナウイルスの感染拡大対策で、国の財政状況が急激に悪化している。2020年度予算の第1次、第2次の補正予算が先の通常国会で成立し、当初予算と合わせた年間予算総額は過去最大の160兆円超に達する見通しだ。そのうち半分以上を借金で賄い、税収の落ち込みで借金依存度は拡大必至。当面の危機対応のための支出を優先するのは当然だが、将来に回した巨額の「ツケ」をどうするかの議論は手つかずだ。

   政府は20年4月に総事業規模117.1兆円の緊急対策を決め、これに基づく第1次補正予算額は25.7兆円(特別会計、地方歳出分も勘案した「真水」は33.9兆円)。続いて6月に決めた経済対策は総事業規模が同じく117.1兆円、対応する第2次補正予算は総額31.9兆円(真水33.2兆円)に達する。

  • 新型コロナ対策を盛り込んだ補正予算が相次ぎ成立した。
    新型コロナ対策を盛り込んだ補正予算が相次ぎ成立した。
  • 新型コロナ対策を盛り込んだ補正予算が相次ぎ成立した。

予備費10兆円めぐる議論

   1次には医療体制充実に向けた交付金や10万円の一律給付、中小企業向けの持続化給付金(最大200万円)など、2次には雇用調整助成金の日額上限引き上げ、企業向けの無利子・無担保の融資制度拡充、売り上げが減った事業者への家賃支援給付金(最大600万円、総額2兆円)などが盛り込まれた。

   2次は、使途をあらかじめ限定しない予備費が総額の3分の1の10兆円に達していることから、野党がかみつき、政府・与党は半分の5兆円について、雇用維持や生活支援に1兆円、中小企業などの事業継続に2兆円、医療提供体制の強化に2兆円を充てると説明したが、残り5兆円の具体的な使途は示していない。2020年度当初予算の予備費から「アベノマスク」に400億円も投じられたことも記憶に新しいだけに、財政民主主義(使途は国会で決める)の原則に反するとの批判を浴びている。持続化給付金について、給付金自体は必要でも、その実施体制で、電通が事実上仕切る「サービスデザイン推進協議会」が受注して電通などにほぼ丸投げで再委託していることに、世論が反発している。

   問題視される補正予算の中身は、これら以外にもある。

   やり玉に挙がった一つが「Go Toキャンペーン事業」(1次補正に1.7兆円)で、感染収束後の「経済V字回復」を狙って旅行や外食費用を補助する内容だが、「優先順位が違う」との批判に加え、3095億円もの巨額の委託費が問題視される。

空調機整備も「コロナ対策」

   このほか、細かく見ると、コロナ関連とは言い難いような項目がゴロゴロしている。例えば農林水産省の「スマート農業」(AI=人工知能やドローンを活用した先端農業)に10億円、スポーツ庁の「ハイパフォーマンススポーツセンター感染症対策」(国立スポーツ科学センターの空調機などを整備)に1.8億円などは、2019年度から同様の事業があったが、「『コロナ対策』との理由を後付けして、上乗せ予算を確保した形」(大手紙経済部デスク)。文部科学省の「国立青少年教育施設改修事業」(東京、静岡、兵庫、福岡の4施設計400室を個室にし、空調設備やWi-Fi、テレビなどを整備)に12億円計上したのは、海外からの帰国者収容のためという触れ込みだったが、帰国者が検討当時の1日1万6000人から足元は500人程度に落ちているうえ、「そもそも富士の裾野に成田から人を運んで泊めるのか」(同)と疑問視される――といった具合だ。

   補正予算は、当初予算が数カ月かけて財務省との厳しい折衝を経るのに対し、短期間でバタバタ決めるので、査定が甘くなりがち。特に、当初予算に入れると翌年度以降も継続になる道筋がつくため、補正なら1年限りと抵抗が少なく、他省庁や与党の顔を立てるために活用されることも多い。今回のように、経済危機への対応では、規模を積み上げることが重視され、中身が精査されずに通ってしまいがちなのも、毎度のことではある。

   「GDP(国内総生産)の4割に相当する世界最大規模の対策」との安倍晋三首相のPRを聞くまでもなく、今回が過去に例のない規模なのは間違いない。経済危機の代表例のリーマン・ショック(2008年秋)を受けた経済危機対策(09年5月)でさえ、事業規模が56.8兆円、補正予算が14兆円(真水15.4兆円)だった。

   コロナに苦しむ人からすれば、これまでの対策でも足りないと思うのは当然だが、アフター・コロナをにらんで経済運営、国家運営として財政赤字の拡大を放置はできない。

   今回、2度の補正予算の財源はすべて国債で賄われ、追加発行額は計57.6兆円。当初予算分と合わせた2020年度の国債発行額は90.2兆円と、当初と合わせた予算総額160.3兆円の56.3%に達する異常事態。20年度末の国債残高は964兆円になる見込みだ。さらに、過去最高となる63.5兆円を見込んでいた税収は、経済対策での納税猶予や経済の停滞により大幅に落ち込むのは確実で、50兆円割れと予測するエコノミストもおり、赤字が一段と拡大する。

   主要国と比べると、2019年の債務残高の対GDP比率は、日本が237.4%に達し、米(109.0%)、英(85.4%)、独(59.8%)などと比べて突出して高い。

中長期の財政規律

   本来の経済原理では、国債を大量に発行し、買い手の需要に比べ供給が多くなると、価格は下がり、利回りは高くなる。高い金利を付けないと買ってもらえなくなるという理屈だ。だが、現実に日本の長期金利は0%前後で安定している。それは日銀が国債を大量に買っているからだ。

   財政法で日銀は国の発行する国債を直接買うこと(直接引き受け)は禁じられている。しかし、市場ですでに発行されている国債を売買することはできる。景気が悪い時に、日銀が国債を、保有する銀行などから市場で買うことで、民間に資金を供給し、経済活動の活発化を目指す。ただ、日銀は第2次安倍政権発足後、デフレからの脱却のためとして巨額の国債を買い続け、今や発行残高の半分近くを保有するという異常な状態になっている。デフレ脱却が達成できない中でのコロナ禍の拡大で、さらに国債買い増すこととし、4月27日の金融政策決定会合で、「年約80兆円」としていた国債購入の目安を撤廃した。これにより金利上昇を抑え込んでいるが、「政府が安心して国債を追加発行できる条件整備」(エコノミスト)とされ、実質的な財政ファイナンス、つまり禁じられている直接買い入れと同じとの指摘もされている。

   補正予算の国債発行で金利が跳ね上がるようなことがあれば、経済対策の効果を打ち消しかねないので、日銀の対応も、非常時としてやむを得ないとの見方も多いが、問題は、その先の中長期の財政規律をいかに回復させるかだ。

   この点で、安倍政権はこれまで、消費税率引き上げを2度延期し、昨秋にやっと10%に引き上げたように、財政再建にあまり熱心ではないとの見方が強い。実際、増税や厳しい歳出カットなど「痛み」ではなく、経済を成長させ、税収を増やすことを財政再建の柱と位置づけ、成長戦略などを繰り返し打ち出してきた。

   安倍政権は、例年6月にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針2020)を7月半ばに、2021年度予算の概算要求のとりまとめを例年より1カ月遅い9月末に延ばし、当面、コロナ禍の動向をにらみながら、慎重に議論する構えだ。東日本大震災後の復興財源では法人税や所得税に一定割合を上乗せする「復興特別税」を導入し、所得税は今も続いている。今回、どのような手法を導入するか、議論の行方はまだ霧の中だ。