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日本にも「マグニツキー法」(人権制裁法)が必要? 香港「国安法」とどう向き合うか

   香港での反体制的な言動を取り締まる「香港国家安全維持法(国安法)」の成立・施行翌日にあたる2020年7月1日、在日香港人でつくるグループが、法律による影響を訴える記者会見を国会内で開いた。

   与野党の国会議員3人も参加し、法律を批判。無所属の山尾志桜里衆院議員は、「マグニツキー法」として知られる人権制裁法に言及。「そういうツールを日本の国会も持った方が、日本政府の外交にとっても、絶対いいはず」として、日本でも同様の法律の制定を訴えた。

  • 登壇した3人の在日香港人(写真奥)はマスク姿で、そのうちひとりは、黒いパーカーのフードを深くかぶっていた。写真手前の3人は奥から中谷元衆院議員(自民)、山田宏参院議員(自民)、山尾志桜里衆院議員(無所属)
    登壇した3人の在日香港人(写真奥)はマスク姿で、そのうちひとりは、黒いパーカーのフードを深くかぶっていた。写真手前の3人は奥から中谷元衆院議員(自民)、山田宏参院議員(自民)、山尾志桜里衆院議員(無所属)
  • 登壇した3人の在日香港人(写真奥)はマスク姿で、そのうちひとりは、黒いパーカーのフードを深くかぶっていた。写真手前の3人は奥から中谷元衆院議員(自民)、山田宏参院議員(自民)、山尾志桜里衆院議員(無所属)

会見出席で「『外国勢力との結託』とみなされ、香港に帰った途端逮捕されるかもしれない」

   集会を主催した在日香港人グループは「香港の夜明け」を名乗り、メンバー3人が登壇。3人ともマスク姿で、そのうちひとりは、黒いパーカーのフードを深くかぶっていた。メンバーによると、

「今、この場にいる香港人たちは、新しい法律によると『外国勢力との結託』とみなされ、香港に帰った途端逮捕されるかもしれないことを念頭に置かなければならない」

ためだ。

   日本政府は6月30日、法案の可決・成立を受けて「遺憾の意」を示す談話を出している。「香港の夜明け」メンバーは、

「香港情勢に関心をお持ちの皆様に、香港人の一員として感謝の意を申し上げる」
「何よりも重要なのは、香港人が自分の未来を自らの手で決められるかどうか、そして、その決定を尊重する国際社会が存在するかどうか、だ」

などと訴えた。

「内政干渉」なのか

   これを受ける形で、日本の国会議員も相次いで発言。自民党の中谷元・元防衛相は、香港の自由に対する脅威が、香港の国際金融センターとしての地位に影響しかねないことを指摘し、

「我が国においても多くの国会議員の賛同を求めて会合を開いて、今回の香港の危機について行動していきたい」

などと話したのに続いて、自民党の山田宏参院議員が

「日本国内で、香港の民主化運動を支援したり、この法律に反するような行動を取れば、我々日本人ですら中国国内、香港で逮捕されるおそれがある法律だということもご説明いただいた。まさに日本国内における表現の自由や民主主義について直接的な挑戦であり、看過できない法律だ」

と法案を批判。山尾氏は

「外の者が強い非難の声をあげると、よく『内政干渉』だと言われる。私自身は、こうした人権侵害、特に国家による、自国民に対する人権侵害に対しては、内政による治癒がまったく期待できない以上、国際社会がそれに対して声をあげることは内政干渉ではないと、はっきりと言いたい」

と主張した。

カナダ、英国などで同様の法律

   「香港の夜明け」メンバーは、

「今後は日本政府を含む民主主義の国々に協力を要請し、香港の自由に危害を加えた官僚、政治家や警察などに対し本国への入国制限、資金流通制限などの措置を求めていきたい」

とも訴えている。これに対応する形で山尾氏は、EUや英国が進めている、香港人の受け入れ(救命ボート)政策や、マグニツキー法制定の必要性を指摘した。

   マグニツキー法は、ロシア当局の税金横領疑惑を告発した後に脱税容疑で逮捕され、09年に獄中死したロシア人のセルゲイ・マグニツキー弁護士にちなむ。12年に米国で成立し、人権侵害を行ったとして制裁対象に指定された人について、米国へのビザ発給停止、米国内の資産凍結、米国人との取引停止などができる。12年の時点ではロシアの当局者を制裁対象としていたが、16年に成立した法律では、制裁対象が全世界に広がった。

   最近では、サウジアラビア王室の批判を続けていたサウジ人記者ジャマル・カショギ氏が18年10月にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害された問題に関与した疑いで、サウジの外交官や王室警備隊メンバーが制裁対象に指定されている。

   同様の法律は、すでにカナダ、英国やバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などで成立し、欧州連合(EU)やオーストラリアでも検討されている。

「国会が言っているからやらざるをえない」と政府に武器を

   山尾氏は、米国ではマグニツキー法をベースに香港人権法(19年成立)やウイグル人権法(20年成立)が成立したとして、

「日本としても、まずはその土台となるグローバルな人権法をつくることで、この香港の問題について、私たちは政府のみならず、国会も調査能力があり、場合によっては行動を起こすことができるということを可視化することが大事」

と訴えた。集会終了後も記者団に対して、

「『国会が言っているからやらざるをえない』と政府に武器を与えるためにも、各国がこういうもの(マグニツキー法のような法律)を持っている。そういうツールを日本の国会も持った方が、日本政府の外交にとっても絶対いいはずなので、このマグニツキー法は作るべきだと思う」

などと法律の意義を説明。

「なので、中谷さんや山田さんについていって、『これやりましょう』ってやろうと思ってるんですけど...」

とも話し、与党議員にも働きかけながら、制定への機運を盛り上げたい考えだ。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)