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不知火舞が「勝手に実写化」!? 中国映画がKOFパクリで裁判沙汰に

   中国で公開された映画『三流女侠』のキャラクターデザインが日本発の格闘ゲーム『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズの登場人物にそっくりだということで、物議を醸している。

   「楽玩新大地(北京)科技有限公司(SNK CHINA)」は制作側を告訴。制作側は80万元(約1200万円)の支払い及び映画の放映を中止するまでに至っている。

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日本発ながら中国で人気のKOF

   『ザ・キング・オブ・ファイターズ』(以下:KOF)は1994年に発売された対戦型格闘ゲームシリーズ。日本のみならず欧米やアジア圏にもファンが多く、中国では『拳皇』という名称で大きな人気を誇る一作だ。

   このゲームを発売したのは日本の企業である(旧)SNK。しかし2001年に倒産し、その後版権を引き継いだ関係会社が中国企業の傘下に入った。これが現在のSNKだ(SNK CHINAはその中国子会社)。

   つまり、今回の騒動は単に「中国の映画が日本作品をパクった」という話とは、少し異なるのである。

   気になる映画の内容は以下の通りだ。

   映画『三流女侠』は、ゲームの世界から怪人が主人公・桂花の父親をさらいにやってくることから物語が始まる。「お父さんが殺されちゃう」と泣きじゃくる桂花の前に現れたのは、とある美少女ゲームキャラクター。最初は性格の不一致で喧嘩が多発するが、敵はその間にインターネットを通じて世界を支配しようと目論んでいた。桂花の父は、自らの命をかけて敵を倒そうとするが失敗し、死亡。最愛の父が死んだと知った桂花は、謎の美少女と共に特訓を重ね、父の仇、そして世界の平和を守るために戦うことを決意する。本格アクションコメディーであることが売りのようで、演出や設定はハリウッド映画『ピクセル』を思わせる部分もある。

   指摘されている類似点は多々あるが、一番はなんといっても登場人物のデザインや設定だ。主人公の前に突然現れる美少女はKOFシリーズの「不知火舞」そのものである他、「二階堂紅丸」なども名前は違えど、ゲームと同じような外見で登場する。これは個人的な見解だが、主人公のデザインはカプコンの対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズに登場する春麗を意識しているようにも見えなくもない。これ以上は更にややこしくなるので割愛するが、他にもツッコミどころは大量にあると断言しておこう。

   また、本家のイラストが登場するシーンもあり、流石にパロディの粋を超えていると言っても過言ではない。何も知らない人が見ると「KOFが実写化するのかな?」と思ってしまう可能性が高いだろう。これらを偶然の一致として片付けるには、少々無理がある。

何故パクられたのか?

   では、何故この様な全国規模で放映されるような映画が堂々とパクリ行為を行ったのだろうか。考えられる点は2つある。

   まず、KOFは以前中国のパソコンに初期装備として入っていたソフトである。この仕様についても違法性がある事は否めないが、事実として現在の20代後半より上の年代は、多くの人々が「初期から入っているフリーゲーム」としてKOFを認識している。映画『三流女侠』でも主人公のパソコンから敵やお助けキャラが出てくることから、制作側もそういった意識を持っていたことが推測される。故に、「タダで入っているから大丈夫だろう」と思ってしまった可能性は排除しきれない。

   2つ目に、中国では本作が日本発ということは知られているが、現在中国の会社が版権まで管理している事を知る者は余程のゲーム好き、即ちオタクと呼ばれる人種だけだろう。映画の制作陣は、「日本の物だからパクっても大丈夫、裁判にならない」とでも思っていたのだろうか。ところがどっこい、同じ中国資本の企業が権利を持っていたものだから、大目玉を食らってしまったということだ。

   どちらにせよ、今回の騒動は制作陣の著作権に対する意識があまりにも低かったことから起こったもの。映画自体は老若男女問わず楽しめるアクションコメディーであっただけに、残念としか言いようがない。

中国国内で著作権侵害の罰金刑

   今回、「SNK CHINA」の訴えを元に、裁判所は映画制作陣に罰金80万元(約1200万円)及び作品の公開停止という判決を下した。もっとも現地メディアによると、制作陣は上級裁判所に上訴しているという。

   このニュースが2020年6月、各メディアで報じられると、中国版ツイッター・Weiboでは「(映画の)制作会社は三流」「これは流石にひどすぎる!」「誰か注意する奴はいなかったのか?」といったゲームファンが投稿する怒りの声も多い。

   キャラクターデザインだけでなく、高級ブランドや会社名、果てはテーマパークなど様々な「パクリ」が横行し、放置されてきた中国だが、今回ばかりはついに「パクった側」が痛い目を見たようだ。この「KOF事件」を機に著作権についての考えが更に深まることを願いたい。

(フリーライター 室園亜子)