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同人誌印刷所「応援」するなら、どんな発注が嬉しい?→「作りたいと思ったものを作って」

   新型コロナウイルス感染症拡大は、個人が趣味で制作する本「同人誌」の受注を受けてきた同人誌印刷所にも深刻な影響を与えた。(「『同人誌印刷所』の窮地は、日本の『同人文化』の危機だ 業界組合・イベント主催が語る『生態系』」、2020年7月28日配信)。

   この印刷所の苦境を受けて、同人作家の間では「応援したい」といった声も上がっている。そこでJ-CASTニュースは、グッズと冊子印刷を兼業する2社に、メールで取材を行った。

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グッズと同人誌どちらが良いのか

   今回J-CASTニュースが取材を行ったのは、「同人誌印刷所おたクラブ」で知られる「合同会社いこい」(以下おたクラブ)、と「オレンジ工房.com」(以下オレンジ工房)。ともに大阪府大阪市に本社を構え、小ロットでのグッズや冊子の印刷を受注している。グッズでは、トートバッグやパスケースなどへの印刷を行う。

   インターネット上では同人印刷所の苦境を受けて、同人作家らの間から、より「応援」になるような注文の仕方はできないだろうか、という声も上がっていた。このほか、グッズ制作も受注する会社の場合どちらの方が「応援」になるのか知りたいといった声もあった。

   とはいえ、おたクラブは、この問いに、

「あくまで顧客側に立った意見となりますが、頒布の機会が少ない以上、ご自身の作りたいと思ったものを作って、創作活動を楽しんで頂ければと思います」

と回答する。また、本においても全てこのスタンスであるようだ。

   というのも、そもそも同人印刷所自体が、個人の趣味による本づくりを手伝うために存在するためである。企業単位でなく個人の発注であるから多種多様な希望があり、印刷所もその個々の希望をかなえるべく幅広いプランを用意しているといった具合だ。

   しかし、印刷物ごとに工程や値段などに違いはある。少額でも印刷所の助けになりたい同人作家らにとっては、気になるところだろう。グッズと冊子、納期や装丁についての各社の見解を尋ねた。

   オレンジ工房は、グッズと冊子ではどちらがより「応援」になるかという問いに対して、

「冊子ですが現在はイベントが無いのでグッズの需要が多いです」

と答える。同社の売り上げは、同人誌印刷8割、同人グッズ印刷2割である。

「同人誌印刷は表紙本文製本と工程がある程度一定していますが、グッズ印刷は多くの印刷機を使って製作しますので工程が複雑です」

   おたクラブは、同人誌印刷の方が、工程が複雑だと述べる。

「同人誌印刷は工数が多く、工程が複雑です。また、グッズ製造に比べて多額の投資が必要です。条件が整えば、一定の売上・利益を出すことが可能です」
「同人グッズは工数が少なく、工程が簡単です」

早割と割り増し、サイズや装丁の違いは...

   これまでイベント用に同人誌を印刷する場合、複数の納期があった。通常納期のものに加え、やや値段が上がるためイベント直前に駆けこむ最終手段として用いられる短期納期(割り増し)プランや、余裕をもってデータを早期入稿し特典や割引を受けられる長期納期(早割り)などがある。

   この割り増しと早割どちらが良いかという問いに対しては、

オレンジ工房「売上だけを見れば割り増しがよいですが〆切が遅くなれば原稿の不備なども増えて納期が間に合わないと言う問題も起きます」

   オレンジ工房では、予約フォームで「ギリギリ短期納期」プランを受注しているが、定員に達し次第、受付を停止している。おたクラブは、予測外の残業を防ぐために複数納期を設けていなかった。

   分厚い1冊の本を作るのと、2冊の薄い本を作るならばどちらが良いかという問いに対しては、こう答える。

オレンジ工房「うすい方が作業しやすいです」
おたクラブ「2冊に分冊されると、頒布時に手間だと思うので、1冊に入る限りは1冊にした方が良いと思います。企業として商売をしている以上、顧客側が損をしてでも発注内容を変えるということはあってはならないと思います」

   サイズに関しては、単価の違いは材料費の違いであるためにどちらが良いといったことはないというのが両者の見解だ。ただ、おたクラブによると、男性向けはB5が多く、女性向けはA5が多い印象を受けるとのことだった。

   また、おたクラブは特殊装丁に関してはこう語った。

「弊社は特殊装丁の少ない印刷会社です。弊社は原則どうしても受注量が多いので、特殊装丁が少ないです。理由は、工数が多い場合、どこかでロスが発生すると1からスタートになってしまうからです。特殊装丁の単価が上がる理由はそこにあるので、どちらでも大丈夫だと思います」

おたクラブ「今は出来るだけ無理せず、ご自身のことを最優先で」

   2社に、同人関係以外でも受けたい依頼はあるか、もしくは受けているか尋ねると、どちらも受注しているとのことだった。オレンジ工房は、広告代理店を通してプロ野球球団やプロバスケットのグッズ。おたクラブも企業関連の公式グッズ類を制作しており、個人と企業の間で金額や納期の対応に違いはないとしている。

   そして、おたクラブは新型コロナウイルス感染症拡大の影響をこう語る。

「恐れ多い話ですが、弊社は印刷業によくある『受け』ではない『攻め』の独自の営業スタイルですので、他社様に比べての売上の減少率は少ない状況です。前年比70%程度の売上で済んでいます。先月が底で、前年比の50%程度でした。また、世相とマッチした印刷機・加工機を取り揃えておりますので、今の不況には強いです。印刷を主業として6年である程度の対策が出来ているのも、機械やシステムの構成を、より良いものにする姿勢がある為です。感染拡大前は本当にありがたいことに、受注が多く、あまりにも忙しかったので、現在社内インフラを整えるちょうどいい機会として、 従業員に印刷の仕組みの教育を行ったり、今行っている仕事の段取りの見直しをしたり、と、感染拡大前より皆で知恵を絞っている状況です」

   そして、サークルや一般の人たちに向けて

「最近、本当に印刷所側を心配していただいておりますが、もっと状況がまずいのはイベンター側の方々だと認識しています。コロナ禍が開けたら、皆様で、大変だったねとグチの一つでもいいながら、どんどん参加をしてあげてほしいと思います。情勢が情勢なので、収入が安定しなかったり、健康面もご不安かと思います。今は出来るだけ無理せず、ご自身のことを最優先でお考え下さいね」

と、コメントした。

   オレンジ工房は、同人誌印刷の売り上げが6割減となったが、それでも多くの注文を受けていると述べ、こうコメントした。

「弊社は小ロット低価格を売りにしていますので、この自粛の中皆さん大変だと思いますが製作意欲を絶やさないために、冊子は1冊からグッズも1個から販売しています。いつぐらいに復活できるか分かりませんが、その日までがんばって行きますのでよろしくお願いします」