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「買い占め」する人に、がん経験者が「知ってほしい」こと...その医療用品で命を繋いでいる人がいる!

   新型コロナウイルス禍で「買い占め」行為が繰り返されている。ドラッグストアなどでは、うがい薬やガーゼの品切れが相次いだ。だが、誰かが不必要に買い占めた物を、医療上いつも必要としている人がいたら――? そんな現実があることを、1人のユーザーがツイッター上で訴えた。

   「健康な人が買い占めた商品を何年も必要としながら、命を繋いでいる人が居る」。3つのがんを経験し、手術と入退院を繰り返している「KAKO」(@isinnkodesu)さん(55)。2020年8月6日、身の回りで起きた買い占めへの率直な思いを、4ページの漫画でつづった投稿に反響が広がっている。

  • 投稿した漫画の1ページ目(画像提供:KAKO(@isinnkodesu)さん)
    投稿した漫画の1ページ目(画像提供:KAKO(@isinnkodesu)さん)
  • 投稿した漫画の1ページ目(画像提供:KAKO(@isinnkodesu)さん)
  • 投稿した漫画の2ページ目(画像提供:KAKO(@isinnkodesu)さん)
  • 投稿した漫画の3ページ目(画像提供:KAKO(@isinnkodesu)さん)
  • 投稿した漫画の4ページ目(画像提供:KAKO(@isinnkodesu)さん)

今まさに「うがい薬やガーゼが必要な人が居るかもしれない」

   「あれ? マスクもないけど、ガーゼも無いがぁ」。広島で暮らすKAKOさん。3~4月ごろ、ドラッグストアを訪れて驚いた。滅菌タイプなど医療用ガーゼがすっかりなくなっていた。店員に尋ねると、売り切れているマスクの代わり、または手作りマスク用に買っていく客が多いという。再入荷の見込みは「こんな時期ですから分かりません」。

   テレビのコメンテーターなどメディアでも、ガーゼを使い捨てマスクと口の間に挟んで使うことを紹介していたのを見聞きしていた。そして医療用ガーゼは一時的とはいえ、市場から消えた。

   KAKOさんは6年前から毎日、医療用ガーゼを使用している。「腸瘻(ちょうろう)」という、経管栄養のためのチューブが差し込まれた腹部の皮膚を保護するためだ。ガーゼ以外を試したこともあったが、かぶれなどが生じた。別の物で代替するのは難しい。医療的ケアのため、このガーゼが常に必要となった。

   だが、新型コロナウイルスの影響で異変が起きている。「どうせ売り切れるんじゃけ、ちょっと多めに買っとこうや」「いつか使うじゃろ。腐るもんじゃないし」。ガーゼがなくなり、この8月には、吉村洋文大阪府知事が励行を推奨した「うがい薬」もなくなった。吉村知事は「ポビドンヨード」を含むうがい薬の使用を勧めたが、これを含まないタイプまで品切れになり、転売も相次いだ。

   KAKOさんは、かつて自身がうがい薬を必要としていた時期のことを思い返した。6年前に抗がん剤治療をし、口内炎だらけになった時、「その痛みから救ってくれたのが、吐いた後の子供用『うがい薬』だった」という。

「こんな風に、今、正に、コロナじゃない医療的ケアの為に、うがい薬やガーゼが必要な人が居るかもしれないという事が、一般の日本人にはどうして分からない?」

「私も...」共感の声相次ぐ

   マスク用と腸ろう用のガーゼの重要性を比較したり、コロナ対策とがん患者の口内炎対策を天秤にかけたりといった「くだらない議論をしたい訳ではない」というKAKOさん。漫画の最後では、「買い占めに走る人は恥を知れ」という言葉とともに、こう訴えかけた。

「健康な人が知らない、考えない、感じも思いもしない様な病気の症状があり、健康な人が買い占めた商品を何年も必要としながら命を繋いでいる人が居るという事を、知って欲しいんだ」

   投稿は8日までに6万4000リツイート、9万8000いいねが付くなど反響が広がっている。「なんでも買う前に【考える】クセを付けたいですよね。本当にこんなにたくさん必要?」「自分さえよければ、という人が多すぎます」「必要ない人が『ストックしとこ!』で品薄になるのは避けたいですよね」と共感する声が数多く寄せられた。中にはKAKOさんと同様の体験をしたという声も届いていた。

「実は医療用のガーゼですが、娘は定期的にアトピーが悪化し、その手当てに10m単位で買ってます。ここ数ヶ月はあまり悪化しなかったので、冬場に買っておいた残りでなんとかなってましたが、いざ買おうとすると、まだ品薄のようです。今回のうがい薬も溜息しか出ません」
「わたしも娘の小児喘息に使用している吸入器に医療用ガーゼが必要です。毎晩使用するものなので月1で買いに行っていましたが、買えなくなり今は不潔になりますがガーゼを使い回しています...本当に必要な人、その立場にならないと今の日本にいる人は理解してくれないのかな、と思っています」
「耳が化膿し切開し消毒でガーゼが毎日必要だった時、タイミング悪くコロナでマスク用に購入され何処にも無かった...近所のご家庭の非常持出し袋の救急セットから分けて貰いました まさか傷用滅菌ガーゼまでマスクに使うとは逆に考えもしなかった...人間が怖いと思った」

「知ってほしい」こと

   KAKOさんは6年前、肺、下咽頭、食道にがんが見つかり、手術と抗がん剤治療を受けた、がんサバイバー。手術で肺は右下葉を摘出、下咽頭と食道は全摘出した。甲状腺、リンパ腺、声帯も切除し、永久気管孔をあけているため、発声に障害がある。抗がん剤治療は2クールと、その後1年間在宅で受けた。

   その間も腸閉塞などで手術と入退院を繰り返している。嚥下障害が残り、リハビリをしながら、「腸瘻という経管栄養で命を繋いでいます」。漫画に描いたとおり、この腸瘻にガーゼが必要となる。水分補給も合わせると1日18時間は点滴棒の世話になる。薬は一生飲み続けなければならない。「私は生きてるだけで、丸儲けです(笑)」。KAKOさんはダイレクトメッセージを通じたJ-CASTニュースの取材にそう答える。

   3月にはガーゼが店頭からなくなり、今回うがい薬がなくなった。誰かが過剰に購入してしまえば、それを本当に必要としている人々に行き渡らなくなる可能性がある。KAKOさんは今回、店頭で空の棚を見た時、「失望ですかね。もう慣れきってしまいました。またかと...」と諦めに似た思いを抱いた。

「元気で動ける方が、朝から店頭に並び、必要以上に買って帰ります。子供を連れた方や共働きの家庭、私の様な病人は動けませんからね」

   夫と2人の子供とともに暮らし、闘病と家族生活のブログ発信を続けている。漫画を交え、親しみやすく率直な言葉を用い、時にはコミカルな表現も。そんなKAKOさんは今回の漫画をツイッターに投稿した際、「取り急ぎ 怒りを込めて 描きました どうか 思いが伝わりますように」と書き添えていた。誰に対し、どんな「怒り」があったのだろうか。最も伝えたかったことは何だったのか。

   「よくよく考えてみるに、『怒りを込めて』と記しましたが、私は誰にも怒っていませんでした」というKAKOさん。自身の投稿をこう振り返った。

「大阪府知事にも、テレビやコメンテーターの方にも、買占め行為に走る人や転売業者にも、怒ってなどいません。彼らは彼らの仕事をしただけに過ぎないのかも知れません。ただ、漫画にも書いた『健康な方が考えもしない様な病気や症状があり、その病気をケアする為に、健康な方が買い占めた商品を、日々必要として命を繋いでいる人が居るという事を知って欲しい』ということを、具体的に感じて欲しかったんだと思います」

(J-CASTニュース編集部 青木正典)