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選任賛成率、異例の「57.96%」 物言う株主に悩まされる東芝・車谷社長のかじ取り

   不正会計や米原発子会社の巨額損失による経営危機からの再起を図る東芝が、外資系投資ファンドとの攻防を繰り広げている。

   2020年7月31日の定時株主総会は何とか乗り切ったが、車谷暢昭(のぶあき)社長兼最高経営責任者(CEO)の取締役選任賛成は過半数を辛うじて上回るにとどまった。ファンド側も一定の支持を集めたことから、今後も厳しい経営のかじ取りを強いられそうだ。

  • 難しいかじ取りが迫られる
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「薄氷を踏む」低支持率

   このファンドは、「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」と「3D オポチュニティー・マスター・ファンド」。いずれもシンガポールに本拠を置く「モノ言う株主(アクティビスト)」で、エフィッシモは旧村上ファンドの流れをくむ。東芝が債務超過を解消するため2017年に実施した増資を引き受け、再建を資金面で支えた。今回の総会では、それぞれ議決権の15.36%、4.2%を保有していたという。

   2020年1月に子会社の東芝ITサービスで循環取引(売り上げの水増し)が発覚したことから、企業統治の強化を求めるとして、今回の株主総会に、エフィッシモはファンド創立者の今井陽一郎氏ら3人の取締役選任を、3Dも2人の選任を、それぞれ提案。これに対し東芝は社外取締役10人を含む12人の選任を提案し、株主提案に反対の立場を表明していた。

   結果は会社側提案の12人全員が選任された一方、ファンド側の5人は選任されず、経営側の勝利に終わった。だが、「得票率」は経営側にとって薄氷を踏むものだった。

   経営側の主要なメンバー、および対するファンド側の5人の数字を見てみよう。(選任に賛成、反対の順、敬称略)

経営側
綱川智(会長)89.95%、8.07%
車谷暢昭(社長)57.96%、18.96%
ファンド側
アレン・チュー(投資家)31.14%、66.37%
清水雄也(ひびき・パース・アドバイザーズ最高投資責任者)31.14%、66.37%
竹内朗(弁護士)41.95%、54.76%
杉山忠昭(元花王法務担当執行役員)37.68%、59.02%
今井陽一郎(エフィッシモディレクター)43.43%、54.77%

   他の経営側の社外取締役も概ね高率の支持を受けており、車谷社長がファンド側の標的にされた格好だ。ちなみに、民間シンクタンクの調査では、東証上場主要500社のうち、2020年1~6月の株主総会で取締役選任議案への賛成率が最も低かった経営トップは、関西電力の森本孝社長の59.6%で、車谷氏への賛成率はこれを下回ったもので、市場関係者の間では「事実上の不信任」との声も聞かれた。

状況次第では経営陣が...

   今回、東芝が追い詰められた背景には、2017年の増資で海外ファンドに増資を引き受けてもらったことから、外資の株式保有比率が最高7割程度まで高まったことがある。そうしたファンドは株主利益優先を求めるから、経営側とせめぎ合いになるのは、珍しいことではない。東芝で焦点になったのが半導体大手「キオクシアホールディングス(HD)」だ。東芝の半導体部門を切り離した「東芝メモリ」が前身で、東芝は2018年6月、米投資ファンドなど日米韓連合に約2兆円で売却し、その後、議決権ベースで約4割を再出資し、持ち分法適用会社にしていた。

   2年前の2兆円のうち、7000億円を株主還元(自社株買い)したが、大株主のファンド側からは1.1兆円の還元要求もあり、その後の経営側とファンドの攻防の伏線になる。そして今回、経営側はキオクシアHD株をすべて手放し、売却益の半分以上を株主還元する方針を6月に表明していた。これが、車谷氏再任の決め手になったというのが、市場関係者らの見立てだ。

   こうした経緯から、「過半数ぎりぎりの信認は、今回対立した2ファンド以外のファンドの判断によっては、経営陣の首をとれることを示した」(市場関係者)と、厳しい先行きを懸念する声がある。

   一方、東芝をめぐる好条件を指摘する声もある。先に指摘した株主還元に加え、東証1部復帰が期待できることだ。4月に申請し、年内にも実現するとみられている。東芝の株価は、新型コロナショックが表面化する前の2019年末から2020年初は4000円近くあり、足元は3000円台半ばとはいえ、2部に降格した2017年当時と比べて1000円ほど高い。「1部復帰で株価指数に採用されれば投資資金が流入し、もう一段の上昇が期待できる」との声が聞こえる。

   さらに、エフィッシモが総会前に東芝株の一部を売り、保有率が15.36%から9.91%に下がった。東芝は、独立性の観点から社外取締役が属する企業の保有率を10%未満にすることを求めており、エフィッシモがこれに応じた形で、東芝にとっては「反対票」が減ることになる。

   もっとも、こうしたファンドとの攻防もさることながら、やはり業績を上げることが経営の王道だ。再建計画「東芝ネクストプラン」の初年度にあたる2020年3月期は、米LNG(液化天然ガス)事業の売却損などで最終赤字になったものの、構造改革の効果が出て営業利益は前期の3.7倍(1304億円)に伸びた。ただ4~6月期は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で営業損益は113億円の赤字に転落した。通期の営業利益1100億円という期初見通しは維持したが、コロナ禍の行方次第で、楽観はできず、モノ言う株主との攻防は続きそうだ。