J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

井上尚弥の次期防衛戦は... 挑戦者筆頭候補ジェイソンのボクシングスタイル

   ボクシングのWBA、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(27)=大橋=の次期防衛戦が2020年11月にも行われる見通しだ。井上を共同プロモートするトップランク社のボブ・アラムCEOが20年8月20日、オーストラリアのラジオ局ABCグランドスタンドの電話取材で明かした。正式発表には至っていないものの、WBA3位のジェイソン・モロニー(29)=オーストラリア=が挑戦者になるとみられる。

  • 井上尚弥
    井上尚弥
  • 井上尚弥

弟アンドリューは前WBAスーパーフライ級王者

   当初の予定では、井上は2020年4月25日に米ラスベガスでWBO世界バンタム級王者ジョンリル・カシメロ(フィリピン)を相手に3団体王座統一戦を行うはずだった。それが新型コロナウイルスの影響で延期された。今秋の王座統一戦実現に向けて両陣営が再交渉を行ったが、ファイトマネーなどの条件面で折り合いがつかず、カシメロは井上戦を見送り9月26日に防衛戦を行うことを発表した。

   ボクシングファン待望の3団体王座統一戦は消滅したわけではなく、来年以降に先送りという形になった。井上、カシメロが次戦でベルトを守れば、王座統一戦の話題が再び浮上するのは当然のなりゆきだろう。その井上の次期防衛戦の最右翼とされるモロニーはどのようなボクサーなのか。井上の牙城を崩すことが出来るのか。モロニーの戦績、ボクシングスタイルに迫ってみた。

   モロニーは双子のボクサーと知られ、弟のアンドリュー・モロニー(29)=オーストラリア=は、WBA世界スーパーフライ級の前王者である。ともにアマチュアで実績を積み2014年にプロに転向した。

   ジェイソンはスーパーバンタム級でプロキャリアのスタートを切っており、WBAの地域タイトルもスーパーバンタム級で獲得している。身長は165センチとスーパーバンタム級では標準サイズよりも若干小さめだ。世界戦を見据えてか2017年10月のWBA地域タイトル戦から階級をひとつ下のバンタム級に下げ、以降はバンタム級を主戦場としている。

ガードは高いがボディーが...

   ジェイソンは右のオーソドックスでプロ戦績は21勝(18KO)1敗。唯一の敗戦は2018年10月にIBF世界バンタム級王座に挑んで判定負けしたもの。王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に挑戦し、12ラウンドを戦い抜いて1-2の僅差判定で敗れた。このタイトル戦はワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)の準々決勝として行われ、勝者ロドリゲスは準決勝で井上と対戦し2回KO負けを喫した。

   井上が2回で倒した相手に判定で負けたジェイソン。だからといって必ずしも井上がジェイソンを軽くKO出来るとは限らない。これがボクシングの難しいところでもある。ジェイソンの実力のひとつの指標となるロドリゲス戦を振り返りながらジェイソンのボクシングスタイルを分析したい。

   初の世界戦ということもあり序盤はジェイソンに堅さが見られた。左右のガードを高く上げ、アマチュア仕込みのフットワークを駆使しながら教科書通りにジャブを突く。軽く体を左右に振り、ワンツーからの左フックは滑らかだが18KOの数字ほどの迫力は感じられなかった。ここで気になったのがボディーの防御だ。ガードが高い分、ボディーが空いてしまう。もし、ここに井上のボディーが入ったら...。想像するだけで恐ろしい。

   この世界戦でジェイソンが証明したのは「タフネス」と「距離感」だ。ジェイソンのフットワークは12ラウンドを通じて衰えることなく絶えずリング上で旋回した。終盤の接近戦では王者に力負けしなかった。そして距離感も良かった。フットワークを使うことで常に自身の距離に身を置き、ロドリゲスの連打には真っすぐに下がらず追撃を許さない。負けたとはいえ採点は割れ、ジャッジのひとりが115-113でジェイソンを支持。残り2人は115-113でロドリゲス。まさに接戦だった。

18年5月には元世界王者・河野氏に6回TKO勝利

   井上絡みでいえば、元WBA世界スーパーフライ級王者・河野公平氏の存在が浮かんでくる。井上は2016年12月にWBO世界スーパーフライ級の4度目の防衛戦で河野氏の挑戦を受け6回TKOで退けている。一方のジェイソンは18年5月に地元オーストラリアで河野氏と対戦。この試合では河野氏が左目の上をカットし大量出血したため6回終了TKOでジェイソンが勝利した。

   ジェイソンは世界戦の敗戦後は4連勝し、主要4団体のバンタム級世界ランキングでは上位をキープしている。井上が王座を保持するWBAは3位、IBFでは4位にランクイン。WBOは1位にランクされ、WBCでは5位につける。このようにランキング的には申し分のない挑戦者であることが分かる。ただタイトルホルダーのカシメロと比較すると若干の見劣りは否めないだろう。

   ジェイソンのボクシングスタイルはカシメロのような荒々しさはなく、全体的にまとまっている。その分、井上にとって怖さはないだろう。スピード、パワー、攻撃、防御のいずれをとっても井上に死角は見当たらない。2019年11月以来リングから遠ざかっており、実戦感覚をいかに取り戻すのが課題となるが、今のところこれが唯一の課題だろう。アラム氏が希望するように11月に試合が実現すれば、井上にとって約1年ぶりのリングとなる。