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「#闇バイト」へ実際に「応募」も 特殊詐欺、パパ活、愛知県警が追うSNSの「危ないやり取り」...その実態は?

   高齢者らを狙う「特殊詐欺」の実行役を詐欺グループが募集したり、「援助交際」や「パパ活」などと称して子どもが性行為の相手を募ったりする手段として多用されているのがSNSだ。全国の警察で、疑わしいツイートに警告メッセージをリプライすることで犯罪を未然に防ごうとする取り組みが広がっている。この手法を先行して実施している愛知県警の協力を得て、SNS上で横行する「危ないやり取り」を再現した。

   「#闇バイト」「#裏仕事」―。こうしたキーワードでツイッター内を検索すると、スマートフォンの画面上に疑わしい投稿が次々と表示された。特殊詐欺グループが、だます高齢者のもとにキャッシュカードなどを受け取りに行く「受け子」や、キャッシュカードで銀行などに行って現金を引き出す「出し子」などの実行役を募る投稿だ。

  • 愛知県警が警告メッセージを書き込む際に添付している画像(提供)
    愛知県警が警告メッセージを書き込む際に添付している画像(提供)
  • 愛知県警が警告メッセージを書き込む際に添付している画像(提供)
  • 「援助交際」の相手を募っているとみられるツイートと「警告メッセージ」(ツイッターから、一部加工)

高い逮捕リスクでも「アルバイト感覚で安易に応募」

   なぜこうした「募集」がツイッター上で投稿されるのか。「受け子」や「出し子」は、詐欺に気づいた高齢者や銀行関係者が通報したり銀行などの防犯カメラに映ったりして、逮捕されるリスクが高い。捕まった「受け子」らの代わりに新たな実行役をそろえたり、全く見知らぬ「受け子」らを使うことで捜査の手が自分たちに及ばないようにしたりするため、詐欺グループは匿名で見知らぬ相手と接触しやすいツイッターを多用しているとされる。

詐欺グループのものとみられるアカウントが「受け子」を募集するツイート(ツイッターから、一部加工)
詐欺グループのものとみられるアカウントが「受け子」を募集するツイート(ツイッターから、一部加工)

   愛知県警生活安全総務課の木村紀夫次長によると、2020年1~5月に県内で特殊詐欺犯として検挙された60人のうち、45%が「ツイッターを見て応募した」などと供述。アルバイト感覚で安易に応募する人が多いという。

   もし「応募」したらどうなるのか。愛知県警が入手した、実際の「応募者」 と詐欺グループとみられるアカウントとのSNSのやり取りを再現したものがこちらだ。応募者はまず、ツイッターのダイレクトメール(DM)で接触を試みた。

「お金に困ってます。仕事欲しいので紹介してください」(応募者)
「ご連絡ありがとうございます。それでは~というアプリをダウンロードしてアカウントを教えてください」(詐欺グループ)

   応募者からのメッセージに3分ほどで返信した詐欺グループは、ツイッターではなく、メッセージの自動消去機能がある通信アプリをダウンロードするよう促した。捜査を警戒しているためだとみられる。

「ダウンロードしました。アカウントは@・・・・・です」(応募者)
「ありがとうございます」(詐欺グループ)

秘匿性高いアプリで詐欺グループが送ってきたのは...

   やり取りの場をツイッターから通信アプリに移すと、詐欺グループは具体的な「業務」の内容を立て続けに説明し始めた。

「お客様の自宅に向かい、キャッシュカードを受け取る仕事です。(預かることは了承済みですので、お客様への説明は不要です。)お客様の自宅を出たら、指示通り動いていただき、終了となります」(詐欺グループ、原文ママ)
「給料はお客様の口座のお金の5%となります。月曜日から金曜日まで自由出勤で空いた時間でOKです」(詐欺グループ)
ある通信アプリを介した特殊詐欺グループとのやり取りの再現(愛知県警提供)
ある通信アプリを介した特殊詐欺グループとのやり取りの再現(愛知県警提供)

   「応募者」が了承するメッセージを送ると、詐欺グループは写真や免許証の画像、携帯電話の番号を教えるよう求めてきた(再現はここまで)。

   愛知県警によると、実際に逮捕した容疑者の中には、こうして得た個人情報を悪用し、「自宅も知っているし何だってできる」「逃げたり警察に話したりしたらどうなるか分かるよね」などと脅していた実例もあったという。

   こうしたやり取りを未然に防ぐため、愛知県警生活安全総務課の捜査員は、ツイッター上を検索して疑わしい投稿を見つけ次第、警告メッセージを送っている。複数ある文言例のうち、最も多用しているのがこちらだ。

「こちらは愛知県警察です。このツイートは、詐欺等の犯罪の実行犯を募集する不適切な書き込みのおそれがあります」
「受け子募集」ツイートに愛知県警がリプライした警告メッセージ(ツイッターから、一部加工)
「受け子募集」ツイートに愛知県警がリプライした警告メッセージ(ツイッターから、一部加工)

   効果はてきめんだ。愛知県警が2019年8月1日から20年7月末までに警告メッセージをリプライした2202件のうち、8割は募集ツイートが削除されたりアカウントごと削除されたりした。残り2割も、書き込み自体は残っているが、その後「凍結」状態になるなどして、使われていないという。

新型コロナ禍も影響、あふれる「パパ活始めようと思います」

   特殊詐欺より前に、こうした取り組みを始めたのが愛知県警少年課だ。未成年が金銭を受け取って代わりに性行為などに応じる「援助交際」や「パパ活」を防ぐため、18年10月から始めた。「#P活」や「#セフレ」などのキーワードでツイッター上を検索し、アカウント主の居住地か相手と会おうとする場所が愛知県内であれば、警告メッセージをリプライしている。

「援助交際」の相手を募っているとみられるツイートと「警告メッセージ」(ツイッターから、一部加工)
「援助交際」の相手を募っているとみられるツイートと「警告メッセージ」(ツイッターから、一部加工)

   新型コロナウイルスの拡大の影響もあり、20年4月から5月にかけては「援助交際」を募るツイートが増えたという。愛知県警では次のようなツイートを確認している。

「コロナの影響で学校休みになってかまってくれる人がいないから、性欲爆発しそうです」
「バイトがコロナの影響でなくなっちゃいました なので名古屋付近でパパ活始めようと思います」
「学校なくて時間あるけどお金ないから買いたいもの買えない」

   こうした投稿に対し、愛知県警は20年7月末までに2725件の警告メッセージを書き込み、投稿やアカウントはほぼ100%削除されているという。

「ツイッター社にも協力していただき、私どもが警告メッセージと警告画像を貼り付けたアカウントはほぼ削除されたり凍結されたりしていますし、アカウント主が自主的に削除した例もあります。こうした取り組みの効果もあり、開始した頃に比べて疑わしいツイートは半分ほどに減りました」(愛知県警少年課の青山義弘次長)

   かつてはSNSなどを通じて「援助交際」などをしようとしていた少女らと実際に接触し、補導する取り組みも行っていた。ただ、実際に接触するのは手間と時間がかかる一方、警告メッセージの投稿なら素早く網羅的に「犯罪」を未然に防げるため、次第にこちらにシフトしたという。

愛知県警が「パパ活」の相手を募るツイートなどへの警告メッセージに添付している画像(愛知県警提供)
愛知県警が「パパ活」の相手を募るツイートなどへの警告メッセージに添付している画像(愛知県警提供)
疑わしいツイートを見つけ出すのは、検索するキーワードなども重要だという。
「当課では、若い捜査員を中心に検索の業務をやってもらっています。やはり彼らはSNSに関する知識も最近の若い子らのトレンドにも詳しい。検索して問題ツイートを見つけ出すセンスもいいです」(青山次長)

   「パパ活」などへの警告メッセージについては、愛知県警や警視庁など13都道府県警が先行で実施していたが、効果が高いため、警察庁が20年1月に全国の警察で対策を講じるよう指示した。特殊詐欺についても全国で初めて実施した愛知県警に次いで福岡県警や大阪府警など各県警が同様の試みを始めている。