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見えにくい「ロービジョン」を知って... 自身の病状を「恋愛漫画」に込めた理由

   漫画家のばにー浦沢さんは、ロービジョンを抱える女性が主人公の恋愛漫画「見えない私の恋は不自由。」を、電子書籍サイト「めちゃコミック」で連載している。

   「ロービジョン」とは、見える範囲が狭い視野障害や、見えるものが明瞭でない視覚障害といった、広義な見えにくい症状を指す。しかし一部の読者からは、このような症状は存在しないのではないかといったコメントが寄せられた。これを受けてばにーさんは、こうコメントした。

「本作の主人公の病気は現実に有りわたし自身の病状と同一のものです。わたし自身視覚障害2級のロービジョンです」

   ばにーさんは、読者からのレビューに作者が口をはさむのはよくないことだとしながらも、ロービジョン当事者として少しでも多くの人々にロービジョンを知ってほしいという思いで漫画を描いていると述べた。この一連のツイートは大きな反響を生み出し、「ロービジョン」についての注目も高まっている。

   J-CASTニュースは、ばにーさんと、担当出版社の編集部に、ロービジョンや漫画について取材を行った。

  • (C)ばにー浦沢/めちゃコミックオリジナル
    (C)ばにー浦沢/めちゃコミックオリジナル
  • (C)ばにー浦沢/めちゃコミックオリジナル

作者の体験をもとに描かれた「リアルなロービジョン」

   公益社団法人日本眼科医会の「ロービジョンケアサイト」によれば、「ロービジョン」とは、成長・発達あるいは日常生活・社会生活に何らかの支障をきたす視機能または視覚とされている。

   「見えない私の恋は不自由。」の主人公は、25歳を過ぎた頃から遺伝性の強度近視が原因でロービジョンとなった女性。作中では、全盲ではないが視覚障害や視野障害などの「見えにくい症状」によって、日常や仕事上で起こる苦悩が描かれている。こうしたロービジョンの描写には、読者から「見えづらい苦労がリアル」、「これがリアルなロービジョン」といった共感の声も多数寄せられている。

   このような病状は作者自身が抱えているものだった。ばにーさんの視力は、矯正視力で右が0.7前後、左が0.01。見ることが出来る範囲(視野)は狭く、左は中心部分(中心視野)が欠けているためほとんど使っていないという。

「私は社会人になるまではただの『ド近眼の健常者』でした。コンタクトでの矯正が利いていたからです(眼鏡では-20D(ディオプトリー)という度数でも0.1までしか出ませんでしたが)。ただし、普通のド近眼ではなくて遺伝性の強度近視です。
この強度近視のうち数%の人が合併症を起こすそうです。私はその数%の一人で、幾つかの合併症を発症しています。(眼底の状態が生まれつき悪く、且つ近視が強くて眼球が前後に楕円状に伸びているため網膜が薄く引き伸ばされている状態が長く続いた結果、視力の矯正が利かなくなり視野が欠けていく、簡単に言うとそういうことになります。) 強度近視の合併症は色々ありますが、私の場合は『網脈絡膜萎縮』と『視神経萎縮』です」(ばにーさん)

   現在は強度近視に根本的な治療法はないとして、合併症が起こらないように、点眼による眼圧監理と月1回の経過観察を続けている。万が一合併症が起きたら、手術で対応することになる。ばにーさんはこのような自身の体験を、作品の主人公のバックグラウンドに反映している。

「昨年、別の合併症のため硝子体手術を受けましたが、失明予防のためのものなので術後視力や視野の回復はありません。作中で主人公が言及する手術はこの硝子体手術を想定しています」(ばにーさん)

「街中で見かけてもロービジョンの方だとは全く気付かれないのでは」

「『白杖を持っている人は目が見えない人』と教わり認識している方は多いと思います。が、それは正確ではありません。正しくは、『白杖を持っている人は目が見えない人と見えてはいても見えにくい人』ということになります。(※J-CAST注 聴覚障害などの視覚障害以外も用いる場合はある)」

   ばにーさんは、視覚障害は何も見えない「全盲」だけでなく、目が見えてはいるけれども見えにくい「ロービジョン」を抱える人々もいると知ってもらいたいと考えている。こうした思いから、たとえ趣味でもロービジョン漫画を描きたいと思い続けていたところ、「めちゃコミック」での連載の話をもらい、「見えない私の恋は不自由。」が誕生したという。担当する秋水社の編集部は、この打ち合わせで「ロービジョン」について、こう感じたという。

「この作品を立ち上げるにあたってばにー先生と直接お会いし打ち合わせをしましたが、『見えない私の恋は不自由。』の主人公と同じ病気を持っているとは思えないほど健常者と変わりない様子でいらっしゃいました。先生自身、白杖は常に携帯しているものの日中は使っておられませんし、私たちから見る限りでは資料を見たりスマホの操作も大きな問題はないように感じてしまうので、外見のみで判断することは難しいでしょう。街中で見かけてもロービジョンの方だと気付かれにくいのでは、と思います。」(秋水社編集部))

   そして、作品の見どころについてはこう語った。

「障害を持つことになった女性の恋愛といったところをテーマにしていますが、外的な要因で環境が変わるなど、障害だけに限らず様々な形で突然日常が変わることはあるかと思います。そういう意味では、『好き』という感情はあるのにそれだけでは乗り越えられない気持ちや、今周りにいる人とどういった関係を築いていくのか、主人公の感じることはみなさまにも共感していただけるストーリーになっていると思います。 また、視覚障害をどのように絵で見せるか、主人公の実際の視界のせまさ・見え方など漫画だからこそできる表現にもこだわって描かれているので、そちらもぜひ見ていただきたいところです」(秋水社編集部)

「実体験に基づいたものを軽すぎず大袈裟にもならないように...」

   ばにーさんは、「見えない私の恋は不自由。」でロービジョンに関する描写を行う上では、体験に基づいたものを軽すぎず大袈裟にもならないように気を付けているという。

「この作品の主人公はロービジョンという視覚障害者ですので、その独特の感覚と不自由さをなるべくリアルに、且つなるべく健常者の方でも日常的に感じている(かもしれない)不自由さや窮屈さに置き換えて想像ができるような、身近なそれとして感じてもらえるように表現することに努めています。
幸か不幸か私は長年の健常者としての感覚と、現在障害者としての感覚両方を持ち合わせていますので、どちらが悪いとか正しいとかではなくできるだけフラットな目線で障害者である主人公とその周りの健常者を描くようにしたいと思っています。
また私的には、この作品で最も訴えたいのはロービジョンという世間的に認知度の低い視覚障害者の存在とそのリアルな生活を少しでも多くの方に知っていただくことなので、そこはなるべく実体験に基づいたものを軽すぎず大袈裟にもならないように織り込むようにしています」(ばにーさん)

   そして最後に、視覚障害者にも気負わずに接してほしいと述べた。

「ロービジョンは病気や病名ではありません。見えにくい、という状態やその状態にある人の事です。難しい病気のことは分からなくても、見えにくい状態は(例えば普段眼鏡やコンタクトをしている人や、たまたま眼帯が必要になった時などに)想像できると思います。そしてそういう状態の人達も、白杖を持って社会に出ていることを知って気負わずに視覚障害者に接してください。全然特殊な人達ではありませんので(笑)。
ついでに、ロービジョンがよく分からないという方は良かったら拙作を読んでみてください!疑問や質問があれば、いつでもわたしがお答えしますので(笑)」(ばにーさん)