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半沢直樹「全話無料」の衝撃 見逃し配信の先にあるもの【ネットメディア時評】

   TBS日曜劇場「半沢直樹」が変えようとしているのは、旧態依然とした銀行だけではない。動画配信サービスの使い方もまた、そのひとつだ。

   最終回直前となる第9話の放送終了後から、TVer(ティーバー、無料)とParavi(パラビ、原則有料)での「見逃し配信」が始まった。なぜ、このタイミングで----。

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なぜ、Paraviだけじゃダメなのか

   「半沢直樹」は、池井戸潤さんの小説を元にした経済ドラマ。堺雅人さん演じる主人公が、縦社会の銀行組織から膿を出すべく、もがきながらも奔走する物語だ。第1シリーズ(2013年放送)の続編として、20年7月から第2シリーズが放送されている(新型コロナウイルスの影響で、当初予定の4月スタートから後ろ倒しされた)。

   このタイミングで、前作のParavi配信が始まったが、今作については、本編ではなく、10分前後にまとめられた「ダイジェスト&次回予告」に限られていた。東スポWeb(東京スポーツ、7月21日配信記事)は、その理由を「TBS宣伝部に聞いてみると『制作と編成の判断です』と答えるのみだった。なお『現段階で見逃し配信の予定はない』とのこと」と伝えていたが、最終話を残すのみとなった9月20日、これまでの1〜9話が27日20時59分までの期間限定ながら、TVerで無料配信された。

   ネット配信で地上波の番組を盛り立てる試みは、これまでもあった。日本テレビ傘下のHulu(フールー)では、同局ドラマのスピンオフ作品を流すほか、7月に単発放送された「リモートで殺される」のように、本編の結末をHulu限定配信とするケースもある。TBSでも「新しい王様」(19年)を、前半は地上波、後半はParavi独占配信(後に地上波でも放送)とする「続きはネットで」パターンをとる事例があった。

   サービスへの加入者増をねらうなら、「半沢直樹」配信も課金制のParaviだけで十分だ。最終回直前、いわば一番「高く売れる」タイミングなのに、あえてTVerでの無料配信も選んだところに、ポイントがあるだろう。第9話の平均世帯視聴率は24.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と報じられている。出遅れた視聴者に「復習」してもらい、リアルタイムでの視聴者を増やすことで、前シリーズの最終回42.2%(同、13年9月22日)に近づけたいとの思いがあるのではないか。

地上波テレビの「補完」から「代替」へ

   民放キー局5社の共同出資によって成り立っているTVerは、まもなく開始5周年を迎えるが、ようやく環境が整ってきた印象がある。これまで地上波放送を補完する役割だったが、代替にもなり得るような機能が、立て続けに登場している。

   4月には、一部番組が字幕に対応。9月から始まった「倍速再生」機能では、最大1.75倍速まで早送りできる(広告は通常速度)。細部をじっくり見るのではなく、全容を把握するタイプの視聴者であれば、時短になって便利だろう。すでにハードディスクレコーダーには搭載されていたが、これがネットで完結するのはうれしい。

   地上波番組のサイマル放送も、着々と本格化に向かっている。1月には各局夕方の報道番組を同時配信する実証実験を実施、10月から12月には、日本テレビ系列のプライムタイム番組をリアルタイムに届ける試験放送「日テレ系ライブ配信」を行う。民放各局が重い腰を上げたのは、NHKが今春、ネット同時配信(NHKプラス)を始めたことと無関係ではないだろう。

   小泉政権時代に「放送と通信の融合」がもてはやされた。当時、竹中平蔵総務相のもとで副大臣を務め、続く第1次安倍政権で後任となったのが、いまの菅義偉首相だ。あれから10余年、時代の流れは早いか、遅いか。

(J-CASTニュース副編集長 城戸譲)

【J-CASTネットメディア時評】
いまインターネットでは、なにが起きているのか。直近の出来事や、話題になった記事を、ネットメディアの「中の人」が論評します。

城戸譲 J-CASTニュース副編集長
1988年、東京生まれ。大学でジャーナリズムを学び、2013年ジェイ・キャスト新卒入社。Jタウンネット編集長などを経て、18年10月より現職。「ニュースをもっと身近に」をモットーに、政治経済からエンタメ、生活情報、炎上ネタまで、真面目とオモシロの両面で日々アンテナを張っている。ラジオとインターネットが大好き。(Twitter:@zurukid