J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

菅内閣の閣僚たち「政治資金20億円」集金力の内実 6割占める「パーティー」が抱える課題とは

   菅義偉内閣の閣僚21人が2018年に計約20億円の政治資金を集め、その6割が献金者の報告義務が緩い政治資金パーティーなど「事業収入」だったことが、J-CASTニュースの調べでわかった。菅内閣の閣僚は長いキャリア・実績に加えて知名度も高く、パーティーを開けば「集客力」も高い。一方でパーティーによる集金の低い「透明度」が課題となっている。

   21人のうち最多だったのは約2億2844万円を集めた麻生太郎・副総理兼財務相だ。麻生氏は全体の72%の約1億6433万円をパーティーで集めていた。諸経費を差し引いて約1億4491万円の「利益」を得ていた。パーティー券の購入者は10%に過ぎない1613万円分しか記載されていなかった。

  • 菅義偉首相と閣僚が集めた政治資金は20億円。その「透明度」が課題となっている(アフロ、2020年9月16日)
    菅義偉首相と閣僚が集めた政治資金は20億円。その「透明度」が課題となっている(アフロ、2020年9月16日)
  • 菅義偉首相と閣僚が集めた政治資金は20億円。その「透明度」が課題となっている(アフロ、2020年9月16日)
  • 麻生氏の自宅(東京都渋谷区)
  • 菅内閣の閣僚の政治団体が集めた政治資金の総額と政治資金パーティーの割合

パーティー券の匿名性は「政治とカネ」最大の課題

   菅首相の場合、18年の収入の73%にあたる約8293万円をパーティーが占めた。2つの政治団体で計11回開いたが、諸経費を差し引いて約6917万円の「利益」を上げていた。パーティー券の購入者名は全く記載されていない。

   政治資金規正法では、1回のパーティーで1個人または1法人が20万円を超えるパーティー券を購入した場合、政治家側の政治資金収支報告書に購入者の氏名と住所、金額を記載する必要がある。通常の企業・団体献金や個人献金では年5万円以上で氏名などの記載義務があるのに比べて基準が緩い。このため、献金の事実が公になることを嫌う個人・法人が、20万円以下でパーティー券を購入するケースが多いとされる。

「最近はどこの企業も、『政治家に何か頼み事をしたのでは』などと勘ぐられるのを嫌がるので、企業献金より名前が出ないパーティー券購入という形で支援してもらうことがほとんどです。たいていは1社20万円以内に収まるように買ってもらうか、20万円を超える場合は関連会社の名義にしたり、個人の名義で買ってもらったりしています」(閣僚経験がある自民党議員の秘書)

   政治資金に詳しい日本大学法学部の岩井奉信教授は問題点をこう指摘する。

「閣僚歴が長いベテラン政治家になると影響力も大きく、パーティー券による集金額も大きくなる傾向があります。ただ、政治資金パーティーは資金提供者の匿名性が高く、寄付が禁止されている赤字企業や外国企業、政治家への口利きの見返りにカネを払おうとする不心得な企業が含まれていても、検証できないという問題があります。これは『政治とカネ』に関して近年最大の課題であり、菅政権は率先して制度の改革に向き合うべきです」
菅内閣の閣僚の政治団体が集めた政治資金の総額と政治資金パーティーの割合
菅内閣の閣僚の政治団体が集めた政治資金の総額と政治資金パーティーの割合

   1回の収入が1千万円以上の「特定パーティー」は21人中16人が開いていた。うち麻生氏、茂木敏充・外相、河野太郎・行政改革担当相の3人は開催当時、閣僚を務めていた。大臣規範では「国民の疑惑を招きかねないような大規模パーティー」の自粛を求めているが、その趣旨に反するとの指摘がある。

   河野氏はこの点について問われた19年10月の記者会見で、「閣僚になる以前から続いているものを同じ程度で行うので問題ない」と述べている。

「集金力」と「集票力」で閣僚選んだ? 伸びぬ個人献金の課題も

   政治資金規正法は、かつての「ゼネコン汚職」など政治とカネをめぐる不祥事が相次いだことを受けて、特に汚職の温床とされた企業・団体献金について規制が強くなった。企業・団体献金の代わりとして、「国民1人当たり250円、コーヒー1杯分の負担で政治がよくなる」という理屈で政党交付金の制度が1995年に始まったが、企業・団体献金は廃止されず残った。そして匿名性が高い政治資金パーティーについてはその存在感・依存度が強くなっている。今回、閣僚の政治資金からもそれが明らかになった形だ。

イメージ
イメージ

   「民主主義のコストは、国民一人一人が負担するべき」という理念から、欧米の政治家のように個人献金を中心とした政治の実現を求める声も多いが、実際は個人献金の広がりは鈍い。

   菅内閣の閣僚21人について見ると、個人献金の割合は全体のわずか7%の計約1466万円に過ぎない。政治資金収入に占める個人献金の割合が比較的多いのは井上信治・万博担当相で31%、河野太郎・行革担当相が20%だった一方、15人は10%以下だった。

2020年9月2日、東京都千代田区で
2020年9月2日、東京都千代田区で

   一方、菅内閣の閣僚の政治資金からは、21人の他の国会議員に比べた「集金力」の強さも浮かび上がった。

   読売新聞など報道各社が2017年12月に報じた記事によれば、16年の国会議員の収入総額は約303億円。1人あたりに換算すると単純計算で約4251万円。一方、菅内閣の閣僚は平均で約9590万円だ。自民党関係者は、

「菅内閣の閣僚は再任、再登板など15人は閣僚経験があるなど実績面が注目されていますが、強い選挙地盤と安定した資金力も特長です。選挙に強く、資金的にも余裕があれば、それだけ閣僚の職務に専念できますし、支持率に影響するため菅首相が嫌うスキャンダルも起きにくくなるわけです」

   と明かす。実際、21人のうち参院比例区代表の橋本聖子・五輪担当相以外は全員が直近の選挙でトップ当選のうえ、17人は2位の候補者より20ポイント以上高い得票率だった。得票率78%だった小泉進次郎・環境相や73%だった岸信夫・防衛相など、「圧勝」した政治家が目立つ。

   「集金力」と「集票力」も、菅内閣の閣僚の特色ということのようだ。

菅首相と閣僚20人の政治団体の一覧

【菅義偉首相】
・横浜政経懇話会
・自民党神奈川県第2選挙区支部

【麻生太郎副総理兼財務相】
・素淮会
・自民党福岡県第8選挙区支部
・麻生太郎後援会(麻生太郎と21世紀の会)
・九州素淮会
・東海素淮会
・中国素淮会

【武田良太総務相】
・武田良太政経研究会
・自民党福岡県第11選挙区支部

【茂木敏充外相】
・茂木敏充政策研究会
・自民党栃木県第5選挙区支部
・茂木敏充後援会総連合会

【上川陽子法相】
・日本・ビジョンを拓く会
・自民党静岡県第1選挙区支部
・かみかわ陽子後援会

【萩生田光一文部科学相】
・はぎうだ光一後援会
・自民党東京都第24選挙区支部

【田村憲久厚生労働相】
・憲政会
・自民党三重県第1選挙区支部
・田村のりひさ後援会
・田村憲久君を応援する会
・たんぽぽの会
・社会保障政策懇話会

【野上浩太郎農林水産相】
・浩政会
・自民党富山県参議院選挙区第1支部
・浩友会

【梶山弘志経済産業相】
・益習会
・自民党茨城県第4選挙区支部

【赤羽一嘉国土交通相】
・赤羽かずよし後援会
・公明党衆議院小選挙区兵庫第2総支部

【小泉進次郎環境相】
・泉進会
・自民党神奈川県第11選挙区支部
・小泉進次郎同志会
・進泉会
・一進会
・三進会
・経泉会

【岸信夫防衛相】
・誠信会
・自民党山口県第2選挙区支部
・岸信夫後援会

【加藤勝信官房長官】
・勝会
・自民党岡山県第5選挙区支部
・加藤勝信岡山懇話会

【平沢勝栄復興相】
・勝永会
・自民党東京都第17選挙区支部
・葛栄会

【小此木八郎防災担当相】
・京浜政経調査会
・自民党神奈川県第3選挙区支部
・神奈川八郎会
・鶴見八郎会

【河野太郎行革担当相】
・河野太郎事務所
・自民党神奈川県第15選挙区支部

【坂本哲志地方創生担当相】
・坂本てつしを支える会
・自民党熊本県第3選挙区支部
・坂本てつし後援会

【西村康稔経済再生担当相】
・総合政策研究会
・自民党兵庫県第9選挙区支部
・西村やすとし後援会

【平井卓也デジタル担当相】
・卓然会
・自民党香川県第1選挙区支部
・平井たくや後援会

【橋本聖子五輪担当相】
・ジャパニーズドリーム
・自民党北海道参議院比例区第83支部
・橋本聖子後援会

【井上信治万博担当相】
・信政会
・自民党東京都第25選挙区支部
・井上信治後援会