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「かぜの時は、お家で休もう!」「大切ですよ、無理しない勇気」 風邪薬の広告コピーに変化

   医薬品メーカー2社が、風邪薬の広告メッセージの"刷新"に踏み切った。

   風邪薬の広告といえば、これまでエスタックの「風邪でも、絶対に休めないあなたへ」をはじめ、症状を抑えて仕事に励もうと促す訴求が目立った。しかし、シオノギヘルスケアの「パイロンPL」シリーズ、興和の「コルゲンコーワIB錠TXα」では、「休息」の重要性を伝える内容に変更した。

   背景には、これまでの反省や社会情勢の変化があった。

  • (上)「コルゲンコーワIB錠TXα」CM/(下)「パイロンPL錠」広告
    (上)「コルゲンコーワIB錠TXα」CM/(下)「パイロンPL錠」広告
  • (上)「コルゲンコーワIB錠TXα」CM/(下)「パイロンPL錠」広告

従来の風邪薬広告、何が問題?

   「忙しいあなたにもおすすめ」「カゼをひいても、仕事を休めないあなたへ」「自分にしかできない仕事があるから」「さぁ、かぜと闘い続けてやろうじゃないか」――。風邪薬の広告では、風邪の症状を抑えて仕事を頑張ろう、との趣旨のフレーズが頻繁に登場する。

   その代表格が、風邪薬「エスタック」が2015年から展開したコピー「風邪でも、絶対に休めないあなたへ」。体調不良でも仕事を休めない、休むべきでない、といった労働環境や価値観を反映させたとみられるが、そうした慣習を強化・再生産していると消費者の反発も根強かった。

   販売元のエスエス製薬は16年にJ-CASTニュースの取材に「仕事をしている人限定のメッセージだと受け取る方もいるようですが、私たちの思いとしては誰でも外せない日はあると思います。そんな日に風邪をひいてしまった時のために 『OTC(一般向け)医薬品をお役立て頂きたい』です、というメッセージなんです」と意図を説明していた。

   しかし、テレビCMとキャンペーンの終了を理由に20年3月までにコピーは変更され、同社は「今後とも皆様の生活にお役立ちできる製品開発・販売を行うとともに、わかりやすく、安心感をお伝えしていけますよう努力してまいります」と取材に答えていた。現在は「しっかり治したい。風邪に即効」となっている。

「消費者の方への配慮が不足していました」

   一方、シオノギヘルスケアの「パイロンPL」シリーズが、ポジティブな文脈でにわかに注目を集めている。

   同社は、「かぜの時は、お家で休もう!」とのキャッチコピーが躍る鉄道の中づり広告を出稿しており、それを見た消費者が20年10月4日、「やっと当たり前のことを言ってくれる風邪薬の広告が出る時代になった」とツイートしたためだ。

   投稿はまたたく間に拡散し、「CMとか、風邪薬飲んでもスーツのままだったりして、休むイメージ無かったもんな」「これ飲んでおけば大丈夫!とか無理させる広告も多かったもんね...」 と多くの共感を集めている。

「製薬各社では、『風邪の時は症状を抑えてでも頑張る』というメッセージを今までずっと出してきており、消費者の方への配慮が不足していました。ツイッターでは『ここまでくるのにかなり時間がかかったな』とのコメントがありましたが、私たちもそのように思っております」

   シオノギヘルスケアのプロダクトマネージャーは5日、J-CASTニュースの取材に、制作の背景にはこれまでのコミュニケーションの反省があったとした。

   パイロンPLシリーズは2017年の発売当初から、「かぜに、もっと、医薬の力を」「あっ!このかぜ薬」とのコピーを使ってきた。19年12月からは、ウェブ広告、店頭の販促物で「かぜ?だったら休もうぜ!」と休息を軸にしたメッセージも併用し、20年4月からは「熱が出た時は外出を控え、他の人に風邪をうつさないようにとの意識が高まっている」との考えから「かぜの時は、お家で休もう!」に変更した。

「風邪を根本的に治すためには、しっかり休み、バランスの良い食事をとることです。弊社では『すべての人に、やさしく、正しくセルフケアを』という指針がありますので、正しい対処法をお伝えしながら、それでもだめなら風邪薬で緩和していただくのをおすすめしています」(プロダクトマネージャー)

興和「今の働き方・生活環境を踏まえ...」

   興和が10月1日から展開する風邪薬「コルゲンコーワIB錠TXα」のテレビCM「働く人に聞きました」編でも、「パイロン」シリーズと軌を一にするメッセージとなっている。

   CMでは、出演する俳優・桜咲彩花さんが「風邪っぽいのに、仕事に行ったことありますか?」と視聴者に投げかけ、「あるある」との声が差し込まれる。その上で桜咲さんが「大切ですよ、無理しない勇気。痛むのど風邪、つらい熱風邪、しっかり抑えて休みましょう」と休息の大切さを伝える。

   興和の担当者は取材に「風邪っぽい時には無理をせず、症状を抑えて休むことが、風邪の対処法として大切であることを伝えたいと思っていました」とCMの狙いを明かす。

   従来の風邪薬の広告に批判があったのは把握していたという。2012年頃に放映していた「コルゲンコーワIB錠TX」のCMでは、風邪を引いてつらそうなサラリーマンが、薬を飲んで会社のプレゼンを乗り切るという内容だった。

   担当者は「ただ今回、批判の声は別として、コルゲンのテレビCMを数年ぶりに実施するにあたって、従来とは異なる今の働き方・生活環境を踏まえ、企業としてメッセージを発したいという想いから、本テレビCMを制作いたしました」と話した。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)