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アツギのタイツ広告炎上、識者に聞く 発信側に求められる「覚悟」と問うべき「本質」【後編】

   タイツメーカー・アツギは2020 年 11 月、ツイッター上で実施した企画「ラブタイツキャンペーン(以下ラブタイツ)」で用いた一部のイラストに性的な描写を連想させるような不適切な表現があったとして謝罪した。

   J-CASTニュースは、2回に分けてこの問題についての識者の見解を聞いた(前編はこちら)。後編では、人々の価値観が多様化していく中で広告はどうあるべきなのかを主なテーマに、企業のブランディングを手掛ける「ブランドア」代表の藤島淳さんに取材した。

  • 発信側に求められる「覚悟」と問うべき「本質」
    発信側に求められる「覚悟」と問うべき「本質」
  • 発信側に求められる「覚悟」と問うべき「本質」

広告には社会的責任がある

   ラブタイツで公開されたイラストには、「見ても良い」といったセリフと共に頬を赤らめながらスカートをたくし上げる女性のイラストなどが含まれており、SNS上では「性的に見られたくない」として不快感を露わにする声が多数寄せられた。一方でイラスト自体が問題なのではなく、広告としてこのイラストが用いられたことに疑問を覚える声も多い。

「私は萌え絵もエロ絵も好きだしイラストレーターさんお上手だなと思うけどアツギがやったら気持ち悪いのよ」
「萌え絵好きだけど...あれはタイツを鑑賞する目線で描かれた絵であって女性が履きたくなる絵とは正反対すぎた」

   趣味で楽しむエンタメとしてイラストと、企業の広告としてのイラストにはどのような違いがあるだろうか、企業のブランディングを手掛ける「ブランドア」代表であり上智大学で広告論の非常勤講師も務めている藤島淳さんはこう述べる。

「趣味で見るイラストは、見る方自身が主導権を持っており、それこそ趣味の問題なので、他人がとやかく言う必要もありません。一方、広告プロモーションは、オフィシャルに企業が見解を披露するものですし、当然、広がりを持たせるために世間を巻き込もうとします。企業の社会的な責任が発生します」

   また一方で、今回の広告に対してはわずかながら肯定的な声も寄せられていた。また性的にみられたくないという声が多いとはいえ、セクシーにみられたい人も存在する。こうした多様な価値観を持った人がいる時代に、広告はどうあるべきなのか。藤島さんは、企業が世間に訴えたい価値観を見直すように訴える。

世間に訴える基本価値は何か

「その商品は、何をもって価値となっているのか? 世間に訴える基本価値は何か?そんな根本を探る必要があります。天下のアツギのタイツの根本価値がセクシーにあるとは思えません。一人ひとりの顧客の手に渡った後の価値は、それはお客様次第となります。しかし、企業は公の存在であり、公表する価値は公序良俗に反しない必要があります」

   そして藤島さんは、社内のチェック体制を設けることを提言するとともに、情報を発信する側の「覚悟」も必要だと述べる。安易なウケ狙いの発言をするのではなく、広告で訴える価値観を明らかにし、その想いや根拠を示すべきだという。

   例えば、カネボウ化粧品が2020年7月に公開した「生きるために、化粧をする。」という動画について、藤島さんは企業の意思を感じるという。この動画は、「女性は化粧をしなければならない」というプレッシャーのようなものを感じさせるとしてSNS上を中心に批判された。しかしカネボウ化粧品は、この広告を取り下げなかった。CMと同時に公開されたプレスでは、この広告の意図について「自分の中にある『希望』を引き出す、『生きるために必要』なもの」であると説明している。

「『あなたは何のために化粧をする?』で終わっていれば良かったとの意見もあるでしょうが、『生きるために、化粧をする。』と堂々と答えを披露したことを私は評価しています。強いコピーなので賛否はあるでしょうし、否定的な意見は集まり易いので、炎上と見られてもいるのでしょう。ですが、安易に謝罪や訂正をするのではなく、胸を張って主張を続けて欲しい。次回作は、今回の否定的な意見を払拭する動画になることを期待しています」

「しっかりした想い、根拠があれば...」

   それでは今後、広告はどうあるべきなのだろうか。藤島さんは「本質をつきながら、意表をつく」ことが基本だと話す。

「配慮は、広告作成上、どうしても必要です。先に述べてきたように、企業は社会の中に存在するものであり、広告はそのオフィシャルな発言であるからです。
ただし、当たり前の発言では誰も気にしてくれません。『本質をつきながら、意表をつく』これは広告表現の基本だと言い続けています。商品の本質的な価値に迫りながら、意表をついた表現で世間の注目を集める。『意表をついた表現=セクシー、ジェンダー無視』ではありません。無限にあります。
苦労は多々となりますが、この基本に立って素敵なプロモーションを送り出して欲しいと切に願っています」

   さらに藤島さんは「広告は弱い」とし、「不買運動を起こされたら」と委縮せず、きちんと根拠を持った主張を行わなければならない時代でもあるという。例えばラブタイツにおいては、

「タイツの魅力を伝えようとすれば、どうしたって足周りの誇張の表現になります。そこには過度に性的な匂いを嗅ぐ人も出てくることでしょう。しかし、セクシーも世の中を彩る魅力の一つ。どこで線を引くかは個人差の世界であり、『アツギは人の魅力を引き立たせることもタイツの商品特徴だと考えています。魅力の一つはセクシーです』と堂々と主張すれば良いのです」

と提案する。

   そして藤島さんは多様な意見、表現があってこそ楽しい時代になるとして、発信側にきちんとした想いや根拠があることを望んだ。

「『いかがなものか』とのクレームをつけ、訴えられた側は『削除と謝罪』で対応する。
それは不毛です。不毛な循環を生むだけです。 どんな表現、プロモーションにも否定的な意見は寄せられる時代。発信側にも、きちんとした『覚悟』が求められます。しっかりした想い、根拠があれば良いではないですか?」