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厚労省「広がれありがとうの輪」を非難する前に 批判「重々承知」で取り組む広報班の思い

   新型コロナウイルス感染症に関して厚生労働省が新たに開始した「#広がれありがとうの輪」プロジェクトに、厳しい声があがっている。SNS上で感染予防や医療従事者らへの感謝を投稿しようという施策だが、国がすべきはこうした「応援」よりも「報酬や物資や人員の拡充」ではないかという旨の指摘が相次いだ。

   厚労省は取材に、否定的な向きがあることは「重々承知しております」と話す。批判をどう受け止めているかを聞いた。

  • 厚生労働省が「#広がれありがとうの輪」プロジェクトに際してウェブサイトで公表したポスター
    厚生労働省が「#広がれありがとうの輪」プロジェクトに際してウェブサイトで公表したポスター
  • 厚生労働省が「#広がれありがとうの輪」プロジェクトに際してウェブサイトで公表したポスター

「官庁がすることではない」「『ありがとう』で何とかなると思ってますか?」

   厚労省は「#広がれありがとうの輪」プロジェクトを2020年12月4日に発表した。「新型コロナウイルス感染症の感染予防の徹底」と、「医療従事者をはじめ感染者やその周囲の方々に対する差別・偏見をなくす」ことが目的という。

   厚労省のウェブサイトによると、同企画では「感染予防の重要性」や「医療従事者をはじめ身近の人への感謝の想い」を、各組織・個人のSNSなどで、ハッシュタグ「#広がれありがとうの輪」をつけて発信してもらう。具体的には「ありがとう」「感染予防(マスク着用、手洗い、体調不良時はお休みを、感染したことを責めない、テレワーク、換気)」といった内容を、「文章、写真、動画、音声、イラスト、歌、ダンスなど」の形で発信する。「共感の輪を広め、責め合うのではなく励まし合うことで、感染症に強い社会の実現を目指します」としている。

   要はSNS上での予防の呼びかけと、医療従事者らへのエールといった内容だが、ツイッターでの評判は芳しくない。11月以降、全国的に感染の「第3波」が本格化。厚労省であれば心理面より実体的な支援をすべきではないのかという指摘が多い。

「むしろやめてほしい。望むのはあなたたち厚労省の実効性のある対策だけ」
「官庁がすることではない。そんなことは民間、一般市民に任せて、能力を活かして市民を助ける政策を立案してください」
「ありがとうの前に待遇改善と医療環境の整備をお願いします。今の状況での感謝の言葉は自発的に言われるもので、促すものではありません」
「危険手当てや給与上げないと、医師も看護師も居なくなりますよ!」
「コロナに対応している医療従事者に適正な報酬と人員の増員に対応してください。『ありがとう』で何とかなると思ってますか?」
「こういうのって民間から自然発生的に行われるからこそ受け入れられる」

   医療現場は逼迫している。医療機関で働く約17万人が加入する日本医療労働組合連合会(医労連)は11月25日、新型コロナ感染拡大の影響で、3割の病院で夏の一時金(ボーナス)が減額、さらに冬のボーナスは引き下げが4割超まで拡大したとの調査結果を発表したことが記憶に新しい。医労連は政府に対し、医療・介護労働者の賃金水準の底上げをはじめとした財政措置や、医師・看護師などマンパワーの確保に対する財政補助の拡充などを求めた。

「感染した人や身近な人同士で支え合える土壌を」

   厚労省の今回のSNS企画に対しては、「ここまで『同情するなら金をくれ』という言葉が似合うプロジェクトはないだろう」「誠意は言葉ではなく金額」といった声も。一方でハッシュタグ「#広がれありがとうの輪」を使いながら、「このプロジェクトどうこうは別として、医療従事者の皆様の日々の活躍に感謝しております」「賛否両論ありますが、この春からずっと頑張って頂いてる皆様には何回お礼言ってもいいと思います」と感謝を伝える投稿も少なからずある。

   SNS分析ツール「ソーシャルインサイト」のテキストマイニング機能を使い、12月8日からの過去1週間を対象に、特定のワードを含んだツイッター投稿の感情傾向を調べてみた。「#広がれありがとうの輪」は、「ポジティブ」4.4%、「ネガティブ」19.4%(「中立76.1%」)と、後者が前者の4倍以上多かった。

   SNS上では感染「第1波」の4月ごろから現在まで、「#医療従事者にエールを」などのハッシュタグが相次いで用いられている。「#医療従事者にエールを」で同じように感情傾向を調べてみると、「ポジティブ」19.0%、「ネガティブ」8.8%(「中立」は72.2%)と、前者が後者の2倍以上多かった。

   企画を所管する厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部広報班の担当者は12月7日、J-CASTニュースの取材に、「『感染症に強い社会』を作っていくと考えた際、厚労省からもお願いしている感染予防の『3密を避ける』『手洗い・うがいの励行』『マスクの着用』などだけではなく、励まし合える社会にならなければ難しいと考えています。社会問題化した自粛警察や感染者に対する誹謗中傷を乗り換え、支え合える社会にしようとこのプロジェクトを始めました」と説明する。

「今まで国からのメッセージは、ポスター、写真、ウェブサイトなどで一方的にお願いする啓発が主でした。それに対して今回は対話型としているように、『#広がれありがとうの輪』のハッシュタグを見てご賛同いただいた方々自身が広められるものです。国民の皆様同士の対話を通じて広まればと考えています。目的はこの言葉が広まり、ギスギスした世の中になるのでなく、感染した人や身近な人同士で支え合える土壌を作っていくことです」

   今回のプロジェクトは、「医療従事者だけでなく、身近な人にも『ありがとう』の気持ちを伝えよう」という点を重視。上記「#医療従事者にエールを」といった既出のハッシュタグとは趣旨が異なるという。

批判は「その通りと思います」

   法務省が12月4日から第72回「人権週間」として、人権尊重思想の普及高揚に努めている。今年は新型コロナに関連した差別や誹謗中傷にもスポット。同省と協議したわけではないものの、厚労省としても「同じタイミングで同様のメッセージを広げられたらと考えた」(前出・厚労省担当者)という。

   一方、ネット上で上記のとおり否定的な向きがあることは「重々承知しております。ありがとうでなく、お金、物資、人材の支援だろうというのはその通りと思います」(同)。そのうえで同プロジェクトの位置づけをこう説明した。

「もちろん厚労省として本当に厳しい状況に置かれている医療現場に対して金銭、物資、人材などの拡充はすべきであり、実際に補正予算を組んで財政支援しています。医療従事者の皆様を支えるそうしたハード面に対し、私たち広報班はソフト面で、国民の皆様に訴えかけるエモーショナルな面で、発信していきたいと思っています。

確かに感染状況が厳しくなる中で、今回の取り組みへの批判はその通りと思います。ただ、厳しい状況だからこそ、責め合うのでなく励まし合って感染症に強い社会を作っていくことが大事だとも思っています。批判は真摯に受け止めますが、賛同いただいた方々に広めていってもらうことを大切にしています」

   担当者は「厳しい声も多いですが、ご賛同いただいた方もいらっしゃいます。厚労省に電話で『拡散したい』と問い合わせてくださる方もいます」と話した。