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「もはや、これ、ライターの仕事じゃない」 NHKねほりんぱほりん「こたつ記事」特集に反響

   「元薬物中毒者」や「元国会議員秘書」といった特異な属性を持つ一般人を匿名でゲストに招き、タブーなきトークを繰り広げる「ねほりんぱほりん」(NHK・Eテレ)。

   2021年1月13日に放送された同番組に登場したのは、その名もズバリ、「こたつ記事ライター」だ。生々しい業界の事情を伝えた放送内容は、ツイッターでも大きな注目を集めた。

  • 「ねほりんぱほりん」公式ツイッターから
    「ねほりんぱほりん」公式ツイッターから
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「こたつ記事」特集をネットニュース記者が見る

   この日、恒例のブタのぬいぐるみに身をやつして登場したのはヒロコさん(仮名・30代)という女性だ。

   現在はフリーランスでライター業を営んでいるというヒロコさんのライターとしてのキャリアは10年以上になるが、その初期は「こたつ記事ライター」だったというところからトークは始まっていく。

   「こたつ記事」とは、直接取材をせずに、テレビやネットの情報を集めただけで作る記事の総称。その語源は読んで字のごとく、こたつに入っていても書けることに由来する。

   ちなみに、この記事を書いているJ-CASTニュース編集部記者も、これまでに多数の「こたつ記事」を量産してきており、「こたつ記事ライター」を自認して久しい。そんな記者の感想も織り交ぜつつ、番組の内容を紹介していく。

就活中は「ペンの力で悪を倒したい」と思っていたが...

   ヒロコさんはまず、自身がこたつ記事ライターを始めるきっかけからトークを開始。司法試験に挑戦するも失敗し、同時に受験していたというテレビ・出版・新聞といったマスコミ系も全滅だったというヒロコさんは、何とかしてこれらの職に少しでも近づこうと思い、手始めとして請け負い型のライターとして働き始めたのだという。

   なお、これらの職業を就職活動で目指したのは、「ペンの力で悪を倒したい」という思いが強かったからだという。

   しかし、ライターとして歩み始めたヒロコさんに充てがわれたのは、テレビで流れた芸能人のトークや、ネット上に散らばる芸能情報を集めただけで作る、混じりっ気なしの(混ぜ物だらけの?)こたつ記事。他にも、家電の品評記事をネット上に散らばるユーザーの感想をかき集め、その使用感を記事化するという業務もこなしていたという。

   これら、こたつ記事の量産作業は就職活動中の熱い思いとはかけ離れた業務だったが、それでも将来のキャリアにつながると信じ、ヒロコさんはこたつ記事を量産し続けたという。

   すると、ある日、ヒロコさんは女性用の日用品や美容グッズの情報を掲載するサイトの創設に参画することとなり、晴れて正社員でライター業務を行うことに。喜び勇んでスカウト先に入社し、いざ、ライター業を始めたのだが、その晴れやかな思いは早々に打ち砕かれたのだった。

短時間で記事を量産する「魔のシステム」

   スカウト先でヒロコさんが記事を執筆していたのはごく初期のみで、業務はすぐに、かつての自分のようなフリーランスのライターに化粧品の品評記事の執筆を依頼し、届いた原稿をチェックして矢継ぎ早にアップするという作業に変わってしまったという。

   あこがれのライター業を早々に放棄せざるを得ず、かつて自分に仕事を振っていた存在に成り代わってしまったことに疑問を感じつつも、徐々に「ペンの力で悪を倒したい」という思いは薄れ、初心が麻痺し始めていったというヒロコさん。

   何だか他人事とは思えないエピソードが飛び出したことに驚きつつも、筆者は番組を視聴し続ける。

   なお、筆者は手法こそ「こたつ記事ライター」と変わりないことは多いが、さすがに数だけを追い求めて記事を濫造することはない。電話取材をしたり、識者にコメントを依頼したりすることもよくある。一口に「こたつ記事」といっても、その形は様々ということだけは申し添えておきたい。

   番組にもどろう。新たに登場したのは、ヒロコさんの知り合いというサキさん(仮名)だ。サキさんはこれらの記事を量産する上で、業界では「魔のシステム」とよばれているというその手法を紹介。

   なんでも、その方法とは、アンケート形式で一般人から化粧品の情報を集め、それを記事のテンプレートにはめ込むことで、短時間で品評記事を量産するというもの。ヒロコさんは「もはや、これ、ライターの仕事じゃない」と思ったことを明かしたのだった。

「魔のシステム」から解放されて「ほっとした」

   すると、ヒロコさんはマシーンにならざるを得ない機械的な業務に忙殺されながら複雑な思いで仕事を続けていたある日、さらなる転機が訪れたことを明かした。

   それは、医療情報を集めた情報サイトが起こした、とある不祥事だった。

   ヒロコさんが明かしたのは、医療の知識など全くないただのライターが、ネット上で集めた情報だけで執筆した「医療情報記事」が多数掲載され、それによって健康被害が続出し、そのサイトが閉鎖に追い込まれたという出来事。

   この事件のあおりを受けてか、直接の関係は全くないものの、ほどなくしてヒロコさんのサイトも閉鎖となったという。

   その際の感想についてヒロコさんは「ほっとした」と明かしつつ、本来であれば虚偽情報などを糾弾する社会的な記事を書きたかったにもかかわらず、問題となったサイトと全く同じ手法で仕事をしていた自分の姿を見つめ直すきっかけとなったと明かしたのだった。

   その後、現在のヒロコさんはフリーランスでライターの仕事を続けつつ、現在は家族にまつわる情報を掲載するサイトを始めるべく準備を進めているといい、ようやく、直接取材し、自らの思いを盛り込んだ記事を配信するためのスタートラインに立ったことに喜びを感じていることを明かしたところで番組は終了したのだった。

   自らが書いた記事のアクセス数が上がることにいつしか無上の喜びを感じるようになった筆者ではあるものの、番組中でのヒロコさんの発言には、我に返る要素があったことは否めない。

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)