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受験生に「入学確約書」要求、学芸大附属高に「圧力」指摘 学校側は反論「あくまでもお願いです」

   国立の名門校として知られる東京学芸大学附属高校(東京都世田谷区)が、2020年2月の入試から、他校の合格で辞退しないように入学手続き時に受験生に入学確約書を書かせるようになり、ネット上で批判も出て論議になっている。

   5年前にいじめ問題が発覚してから、入学辞退が毎年続出していることが確約書導入のきっかけの1つだ。入学確約書は、都立高校などでも書かせているが、都立の発表前に附属高校の手続きがあるため、受験生が都立の合格後に辞退するのが難しくなったのでは、との危惧が出ている。これに対し、学校側は、学校選択の自由侵害に当たるとの指摘を否定した。

  • 「入学確約書」要求で論議になっている東京学芸大学附属高校
    「入学確約書」要求で論議になっている東京学芸大学附属高校
  • 「入学確約書」要求で論議になっている東京学芸大学附属高校

辞退者が続出している理由

   確約書のことを問題提起したのは、教育ジャーナリストの見沼晋太朗さんだ。

   見沼さんが20年12月21日、ブログサービス「note(ノート)」に書いた記事によると、附属高校が入学を強要していると、運営する受験相談室に相談があったことから、確約書などの問題に気づいたそうだ。

   見沼さんはまた、受験生が辞退した場合、附属高校が出身の中学校に今後辞退しないようにとの内容の手紙を出していたとも指摘している。こうしたことで、受験生は、確約書を書いた後に、都立などに合格しても、辞退することが困難になるとして、学校選択の自由侵害に当たるのではと指摘した。

   見沼さんはnote記事で、

「正直、違和感を禁じえません。まっとうな教育をおこなって、信頼を取り戻すことが、教育者としての辞退増解決の手段ではないのだろうか」
と疑問を呈している。

   そもそものきっかけは、附属高校で16年11月、男子生徒がいじめを受け、手首の骨を折るなどの重傷を負った問題が発覚したことにあるとみられている。このときは、その対応が不適切だったとして、東京学芸大学が当時の校長ら5人の懲戒処分を発表していた。

   すると、翌17年2月の入試では、入学辞退者が続出して、初めての定員割れの事態を招いた。附属高校は、18年の入試で、合格者を前年より倍増させ、繰り上げ合格も導入した。

   さらに19年の入試では、他校の合格で辞退しないよう募集要項に異例の文言を出した。そして、入学手続きの締め切りを都立高校などの発表前に前倒しし、合格者を例年並みに戻した。それでも辞退に歯止めがかからず、多くの繰り上げ合格者が出た。名門校として知られる都立日比谷高校が異例の2次募集をしたのはその影響だとみられている。

教育ジャーナリスト「強制力をもって辞退を防ごうと...」

   さらに、2020年入試では、他校の合格で辞退しないよう求める募集要項に加え、前述の入学確約書が入学手続きの書類に入れられた。それでも、辞退者が相次ぎ、附属高校からは、21年入試については、出身中学に対して辞退しないよう求めるような手紙が届いたという。

   先述のnote記事を投稿した見沼さんは、20年の入試について、「学習塾の出した内部データによれば、合格者数の過半数が辞退をしている状況で、これらのゴタゴタが学校人気の低迷に拍車をかけている様子がうかがえます」とJ-CASTニュースの取材に答えた。

   確約書については、「中学生と保護者に、入学確約書の提出を求めることで、強制力をもって辞退を防ごうとします」と批判した。

   さらに、出身中学への手紙については、こう指摘する。

「この手紙によって、公立中学校では混乱が生じ、生徒の進路選択の権利を守ろうとする公立中学校、高校側の圧力に屈して要求を呑む学校と対応がわかれています。圧力に屈した公立中の中には、学芸大附属の言うとおりにするように誓約書を書かせた学校すらありました。外堀を一つずつ埋めていき、公立中学校や中学生、保護者への圧力を強めています」

   見沼さんは、大手進学塾の幹部への取材で、こんなメールを受け取ったという。

「昨年2月の上旬からの中学校での保護者面談はトラブルの連続でした。中学校によっては、後輩のことを考えて『絶対にダメ』というところもあり、また一部の中学はまったくノーコメント、一部の中学ではクラスによって『受験はやめてほしい』『受験しても良い』という見解が異なる対応が生じ、その後に修正を図るというところもあり、混乱続きでした。保護者の方も直接生徒さんが教わっている担任の方からダメ出しをされると、その後の人間関係を考えて『やめておこう』となる方も多く、受験したい本人と保護者の方の間に溝ができるケースもありました」

学校側「受験生に不利益な対応をすることは絶対にない」

   東京学芸大学附属高校の大野弘校長は21年1月14日、J-CASTニュースの取材に対し、受験生に確約書を書かせていたことを認めたうえで、こう説明した。

「一昨年の入試では、入学手続き時にはっきりしたことが分からず、高校はどういうふうに考えているのかと保護者の方などから言われてしまいました。そこで、入学意思を明確にしてもらおうと、昨年から確約書を書いてもらうことにしました。いじめ問題が出てから、統計的には辞退者が増えたのは確かです。入学手続き段階でクラス編成を考えて準備しなくてはいけないため、辞退者が出ると困ります。また、繰り上げ合格が出て、他の高校への影響も出てしまいます」

   ただ、大野校長は、受験生に入学を強制することはできないと説明する。

「法律専門家の方数人に聞きますと、法的な強制力はないと言われました。辞退しないでほしいというのは、あくまでもお願いです。受験生は、受ける高校を決めるときと入学手続きのときに2回、自由意思で決めることができますので、学校選択の自由侵害にはならないと考えています」

   21年2月の入試でも、同じ内容の募集要項を出し、入学手続き時に受験生に確約書を書いてもらう予定だとしている。

   入学辞退者の出身中学に手紙を出したことは認めたものの、大野校長は、「辞退しないで下さいという内容ではないです」と強調した。

「入学手続き後には辞退しないでほしい、という趣旨が伝わっていない保護者の方が何人かおられましたので、そのようなお願いをしている学校であることを伝えてほしいと手紙に書きました。受験生に圧力をかける内容ではないと考えています。辞退者の出身中学からの受験生に対し、不利益な対応をすることは絶対にないです」

文科省「確約書には、強制力はないのでは」

   国立の高校を所管する文科省の教員養成企画室では、確約書について取材にこう答えた。

「学芸大学としての判断だと理解しており、問題はないと考えています。他校の合格で辞退しないようにとの募集要項には、あまり強制力があるとは思えません。要項の記述がいいか悪いかについては、文科省としては言えないです。附属高校は、公立のモデル校として相応の学級規模を作って教育研究をする必要があるので、要項などにうたったのではないかと考えています」

   同省としては、附属高校の入試で特段問題があるとは見ておらず、学校への指導などは考えていないとしている。附属高校が入学を辞退しないよう求める学校であることを各中学に伝える手紙を書いていたことについては、「事実関係を確認しないと、何とも言えないです」と話した。

(J-CASTニュース編集部 野口博之)