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バイデン政権発足で日本経済どうなる? その期待と不安

   米バイデン政権が2021年1月20日(現地時間)の大統領就任式を経て、正式にスタートした。株式市場は新政権の経済政策「バイデノミクス」への期待から日米で上昇基調を保っているが、財政赤字拡大による金利上昇懸念もくすぶる。バイデン政権のマクロ経済政策はどのようなものになるのか。また、日本への影響はどうなるのか。

   バイデン氏はすでに政権の骨格人事を決めているが、財務長官に指名された前米連邦準備理事会(FRB)議長のイエレン氏が、マクロ経済政策の司令塔になる見通しだ。イエレン氏については、J-CASTニュースでも「次期財務長官は日本に冷ややか? イエレン氏の『高圧経済』論とは」(20年12月18日)で紹介した通り、財政出動に積極的な拡張的な経済運営になるのは確実だ。

  • 日本経済への影響は?
    日本経済への影響は?
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NYダウ平均、就任式当日に史上最高値

   すでにバイデン氏は就任前の1月14日、総額1兆9000億ドル(約200兆円)規模の新型コロナウイルス対策・経済対策案を発表している。現金給付を1人最大1400ドル(約14万5000円)支給するほか、失業給付の特例加算を増額(週300ドルを400ドルに)し、期間も3月までを9月まで延長、中小企業支援に500憶ドル、ワクチン配布など直接的なコロナ対策に4000億ドル、財政が悪化する地方政府への支援3500億ドルなどを盛り込んだ。

   これだけでも大盤振る舞いだが、バイデン氏は「失業者などへの第1弾の経済救済策に過ぎない」として、2月には両院合同会議で「インフラ投資などの経済再建策を改めて表明する」と述べた。大統領選で「4年で2兆ドルのインフラ投資」を公約しており、その第1弾になる。

   今でも世界一の新型コロナ感染者数がなお増え続ける中、政権発足にあたって間髪を入れず大型経済政策を打ち出したのは、景気回復期待をつなぎ留める必要があると判断しているのだ。

   この狙いは、今のところ奏功しているようだ。ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、大統領選投票直前の2020年10月30日の2万6143ドルを直近の底値に、ほぼ一本調子で上がり続け、就任式当日には終値3万1188ドル(取引時間中は一時3万1235ドル)の史上最高値を付けた。

膨らむ財政赤字

   ただ、懸念もある。トランプ前政権時代、コロナ対策として2020年3月以降、すでに4回の対策を実施し、12月にも9000憶ドル財政出動を決めたばかり。対策の規模は計4兆ドルと、国内総生産(GDP)の20%程度になり、バイデン政権の1.9兆ドルが加わると、累計の対策規模はGDPの3割に達する。経済が落ち込んで税収も減る中での巨額の対策で財政赤字は膨らむ。これまでの対策で政府債務は過去最悪の27兆ドルに達している。

   そこで気になるのが、長期金利の動向だ。コロナ拡大を受けた米中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の大規模金融緩和により、長期金利の指標である10年物国債の利回りは、2020年春先から1%を割り込み、概ね0.6~0.8%の水準で推移していたが、度重なる財政出動による国債増発で秋口からジワジワ上昇、年が明けると10カ月ぶりに1%台に乗せた。バイデノミクスで国債がさらに追加発行されることから、市場では「長期金利は年間を通して1.3%レベルまで緩やかに上昇していくだろう」(大手証券)との見方も出ている。

   もう一つ、バイデノミクスの柱である「格差是正」については、富の再配分を訴えてきた。年明けのジョージア州上院決戦投票で民主党が勝利し、上下両院で多数派を握ったことで、株式市場では富裕層増税への懸念もくすぶっており、株価のマイナス材料との声もある。これについては、イエレン氏が1月19日の上院公聴会で「公平に税を負担することが重要だ」と主張してバイデン氏の増税路線に同調する一方、「目先は財政出動による経済回復に注力し、増税は長期的に検討していく」と述べたことで、目先の心配は後退している。

   コロナ禍で雇用が減り、貧困層が拡大、その困窮が進む一方、金融緩和を背景にした株高で富裕層の資産が一段と膨らみ、格差は一段と拡大しているが、当面はコロナ感染拡大を食い止め、ワクチン接種を急ぎながら、経済対策で景気を浮揚させていくことになる。このため、議会で追加財政出動の早期承認を得ることがカギになる。両院を押さえたとはいえ、上院は50対50で、議長(ハリス副大統領)の裁可で可決できるという僅差だけに、調整にたけているというバイデン氏の手腕がさっそく試されることになる。

円高懸念は後退も...

   バイデノミクスは日本にはどんな影響が考えられるだろう。今のところ、コロナ対策で菅義偉政権が迷走する中でも、米国と同様の超金融緩和もあって、ダウ平均に引っ張られる形で日経平均株価も騰勢を続けている。

   日本独自でコロナの感染拡大を食い止め、どう景気を上向かせていくかはもちろん主体的な問題として重要だが、景気への影響という面でも、米国経済の動向とそれに絡む為替相場が気になるところだ。

   日本の金利はマイナス金利政策で低位安定している一方、米国の金利が上昇基調のため、日米の金利差はコロナ禍当初の0.6%程度から、足元では1%に拡大している。これを受け、為替相場も、1ドル=106円台から、年明けには102円台まで上昇していたのが、ここにきて1ドル=104円前後に反転してきている。

   コロナ禍で米国ではFRBの緩和により金利低下余地がまだある一方、マイナス金利の日本はこれ以上の金利引き下げ余地がなく、日米の金利差が縮むという見立てから、すう勢として円高傾向が続いていたのだが、ここにきて、米国金利が今後も緩やかに上昇していくとの見通しが強まったことから、円高懸念が後退しているもので、「円高恐怖症」の日本の政策当局は、一安心というところだ。

   ただし、今後の経済動向は、日米とも、コロナの感染拡大をいかに抑え、景気を上向かせることができるかにかかっているのは同じ。その時期やペースで財・金融政政策も変わり、それが金利や為替、株価にどう影響するか、なかなか見通せない。