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就活の極意は「嘘をついてアピール」 産経記事が波紋、識者は猛反論

「行きたい企業に行くなら、正直に話すだけでは自分を売り込めなくなってしまうこともありえますので嘘をつくことも必要悪として受け入れる必要があります」

   産経新聞が就職活動中の学生に向けた記事をめぐり、SNS上で議論を呼んでいる。

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  • 議論を呼んだ産経記事

嘘も方便?

   産経新聞は2021年3月11日、「【プロが指南 就活の極意】就活での嘘はありかなしか」と題した記事を配信した。

   就活予備校「内定塾」の講師が、志望企業に受かるための術として、虚実織り交ぜた自己アピールを推奨するような内容だ。

「就職活動がうまくいくなら正解ということになりますので、学生には嘘をつくことは問題ないとアドバイスしています」
「嘘をつくことに抵抗を感じている学生が多いのも事実です。それは本来、正しいことであるはずなのですが、就職活動は人柄が良いかどうかだけでは不十分になってしまうことが多いです」
「就職活動では、『自分を売り込むこと』が重要になってきます。素直に正直に伝えて売り込めているなら良いのですが、そうでないなら売り込むために工夫する必要があります。その工夫の結果が嘘になってしまうなら、嘘をついてアピールすべきです」

   講師は全くの嘘は否定するが、「話を盛ったり、嘘をついたりすること」は肯定する。嘘がばれるリスクについては「一貫して矛盾がないように準備をする必要がある」と入念な準備で防げるとする。

識者「正直、古い内容だなと思いました」

   記事は、企業の採用担当者らを中心にSNS上で拡散し、「産経はよくこれを出したし、内定塾もよく出せたな」「入社時はそれでいいかもしれないですが、働き始めると誰も得しない」と懐疑的な見方が少なくない。

   『就活のワナ』などの著作がある大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、J-CASTニュースの取材に「正直、古い内容だなと思いました。就活で嘘をついた方がいい、というのは20年、30年前の古いマニュアルです」と感想を話す。

   石渡氏によれば、現在では嘘をつく学生を否定的にみる企業が大多数だという。マニュアルを信じていた学生が採用側になり、「そのばかばかしさ」に気づいたこともあり、企業・学生の双方が正直になる方が「得」だと考察する。

「企業からすれば、ミスをしたときに正直に言えるかどうかが重要。仮に、その場を取り繕う社員だと、ぼや程度で済んだ話が炎上となり、企業のイメージを大きく引き下げることにもなりかねない。そのため、新卒採用では、嘘をつく就活生は基本的に落とされやすい」
「それから、企業が嘘かどうか、判定できなくても、企業からすれば就活生の嘘を事実として扱う。たとえば、語学試験・資格などは就活生の申告が基本。できないものをできる、として、内定を得た場合、その虚像と現実との乖離(かいり)で就活生は苦しむことになる。これは趣味・特技・性格なども同様です」

   「嘘」対策を講じている企業は少なくない。面接で回答を掘り下げたり、適性検査で「ライ・スケール(嘘つき度)」と呼ばれる質問を混ぜたりするなどしている。

   石渡氏が相談を受けた学生の中にも、嘘をついて自分をよく見せようとする学生は珍しくないという。例えば、アルバイト先のチェーン店でアニメキャラクターを起用して売上が増えた、と喧伝(けんでん)していたが、質問を重ねると店の本部が実施した施策だったことが分かった。

「こういう嘘をつく学生に深掘りすると、嘘がすぐ判明します。しかも、こうした学生でも企業に刺さるエピソードがない、ということはほぼありません。『明らかにあなたが損をするけど、それでも嘘をつく?』ということを説明して、やめさせています」

産経記事の執筆者「言葉足らずな部分もありました」

「嘘を推奨しているわけではなく、実際は嘘をつかずに就活できれば理想的ではあるのですが...」「言葉足らずな部分もありました」

   記事を執筆した就活コンサルタントの斎藤弘透(ひろゆき)氏は、取材にこう話す。

   斎藤氏によれば、自身が学生の時は「嘘」に否定的で、「いかに正直に伝えるかというスタンス」だった。斎藤氏は大和証券、三菱東京UFJ銀行、野村證券の3社から内定を得ているという。

   しかし、就職コンサルタントになり多くの学生と触れ合ううちに、学生時代の魅力的なエピソードがなかったり、就職浪人をしていたりと「正直ベースに伝え方を工夫するだけだと就活がうまくいかない」学生が多いことに気づいた。

   そのため、誇張する必要のある学生には「3、4、5のことをいかに10にやったかのように見せるか」指導するようになったという。

   基本的には、過去の経験の"再解釈"を推奨しているという。例えば「集団で頑張った経験」を重視する業界を志望するも、その経験がないと話す学生には、学生生活を振り返ってもらい、その中から都合の良い題材を提案する。

   学生には、入社後にミスマッチが起こる可能性があるなどリスクは伝えており、「それでも覚悟をもって『いや、自分は嘘をついてでもこの会社に入りたいんだ』という子にのみ、少し盛るといいますか、嘘をつくことを指導しています。性格的に嘘をつけない子に無理に嘘をつかせるのはかえって精神的なストレスになってしまうので、内定塾ではNOです」