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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
ワクチン接種、なぜ日本は遅れてる? データで見る「感染者数」との深い関係

   筆者は、本コラムに限らず、編集部から「お題」をもらって書くことにしている。今回の編集部の求めは、「ワクチン接種 日本はなぜ遅れているのか」だ。

   ちょっとワクチンの話を探してみると、日本のワクチン接種率は先進国で最低なので、オリンピックなんてやっていられない、などという記事が出てくる。

   オリンピックを止めろという主張が先になり、そのためにワクチン接種率を持ってきたのだろう。ジャーナリストは、とにかく主張したいばかりで、そのための分析はないことがしばしばだ。

  • ワクチン接種(写真はイメージです)
    ワクチン接種(写真はイメージです)
  • ワクチン接種(写真はイメージです)

ワクチン供給は新型コロナが酷い国ほど多くないと不味い

   まず、データを「Our World in Data」で調べてみよう。このサイトには、新型コロナウイルス関係の各種データがよくまとまっており、全データのダウンロードもできるし、国を選択してチャートを描くこともできる。

   そこで、人口百人あたりのワクチン接種回数について、OECD諸国の国名をいれてチャートで見ると、日本は1.6回しかなく、トップのイスラエルの119.5回に遠く及ばないばかりか、断トツの最下位だ(2021年4月19日時点)。

   そこで、なぜかを考えてみた。同じサイトの全データをダウンロードして、ワクチン接種回数と関係のありそうなものを片っ端からデータ解析した。そうしたら、ワクチン回数が、感染者数と深い関係があることがわかった。

   具体的には、データ入手可能な84ヶ国のこれまでのワクチン接種回数とこれまでの感染者数(ともに人口当たり)をみると、相関係数は0.73もあった。具体的には、感染者一人当たりに4回分のワクチンが平均的には供給されていることになる。要するに、感染者が多い国ほどワクチン接種が多いのだ。

   これは考えてみれば、医療では当たり前で、ワクチン供給は新型コロナが酷い国ほど多くないと不味い。供給制約がある場合であれば当然のことだ。もし感染が酷くないのに、カネにものを言わせて、ワクチンを大量にかき集めたら、世界中から批判されるだろう。

日本は感染に応じた平均的なワクチン接種

   そこで、感染の度合を加味して、より多くワクチン接種が行われているかを見てみよう。実際のワクチン接種状況(百人当たり)と平均的なワクチン供給(百万人当たりの感染者数に0.0004を掛けた数)の差を見て、これがプラスならばワクチン接種が多い国、これがマイナスならばワクチン接種の少ない国とみよう。すると、イスラエルは81、日本はゼロとなった。

   このコロナ感染を補正しない人口百人あたりのワクチン接種回数でみると、データ入手可能な世界84ヶ国で日本は71位、OECD諸国31ヶ国で最下位31位だった。しかし、補正した数字では、世界84ヶ国で日本は45位、OECD諸国31ヶ国で19位である。

   褒められた順位ではないが、先進国では真ん中の少し下、世界ではほぼ真ん中だ。新型コロナ感染に応じた平均的なワクチン接種であり、カネにものを言わせて集め批判を受けることもなく、あくまで日本らしく控えめではないだろうか。

   こうしてみると、オリンピック中止という議論にはとてもならないだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。