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緊急事態への備えは「極めて重く大切な課題」 ビデオメッセージにみる菅首相の「改憲本気度」

   2021年5月3日は、菅政権が初めて迎える憲法記念日となった。安倍晋三前首相が改憲にきわめて前向きだったのに対して、菅義偉首相は安倍氏に比べると必ずしも積極的な姿勢を打ち出してこなかった。菅氏の改憲への「本気度」は、いかなるものなのか。

   菅氏はこの日、改憲派団体が主催する集会にビデオメッセージを寄せ、緊急事態への備えを憲法に書き込むことについて「極めて重く大切な課題」などと発言。緊急事態条項新設を訴えていた安倍氏の姿勢を踏襲した形だ。この集会には、20年まで安倍氏がメッセージを寄せていた。新旧首相のメッセージを比較すると、両者の微妙な違いも浮かび上る。

  • 菅義偉首相は安倍晋三前首相の方針を踏襲する形で、緊急事態条項新設の必要性を訴えた(写真は「憲法フォーラム」が配信した動画から)
    菅義偉首相は安倍晋三前首相の方針を踏襲する形で、緊急事態条項新設の必要性を訴えた(写真は「憲法フォーラム」が配信した動画から)
  • 菅義偉首相は安倍晋三前首相の方針を踏襲する形で、緊急事態条項新設の必要性を訴えた(写真は「憲法フォーラム」が配信した動画から)

安倍氏「自衛隊の存在を憲法上明確に位置付けることが必要」

   安倍氏は首相在任中の20年5月3日、憲法改正推進派の「民間憲法臨調」と「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が共催する「憲法フォーラム」にビデオメッセージを寄せた。当時、新型コロナウイルスの感染第1波を受け1回目の緊急事態宣言が出されており、安倍氏は憲法への緊急事態条項新設を念頭に、次のように訴えた。

「そもそも現行憲法においては緊急時に対応する規定は参議院の緊急集会しか存在していないのが実情です。今回のような未曽有の危機を経験した今、国民の命や安全を何としても守るため、国家や国民がどのような役割を果たし国難を乗り越えていくべきか、そしてそのことを憲法にどのように位置付けるかについては極めて重く大切な課題であると私自身改めて認識した次第です。
自民党がたたき台として既にお示ししている改憲4項目の中にも緊急事態対応は含まれておりますが、まずは国会の憲法審査会の場でじっくり議論を進めていくべきであると考えます」

   第9条については、自衛隊の新型コロナ対応や中東海域での情報収集活動に賛辞を送り「創設以来何十年も続く『自衛隊は違憲』というおかしな議論に終止符を打つためにも自衛隊の存在を憲法上明確に位置付けることが必要です」としている。

   安倍氏は首相在任中、「憲法フォーラム」に毎年ビデオメッセージを送っており、17年には「2020年を、新しい憲法が施行される年にしたい」と発言している。

   安倍氏は、首相辞任後も改憲に前向きな発言をする機会が増えている。4月20日には自民党の憲法改正推進本部最高顧問に就任し、22日に東京都内で行われたシンポジウムでは「枝野氏は安倍晋三が総理の間は議論しないと言っていた。私はもう総理ではないから議論しろよという思いだ」と述べ、立憲民主党の枝野幸男代表をけん制した。

菅氏「コロナ対応で緊急事態への備えに対する関心が高まっている」

   21年の憲法記念日には、菅氏がこの「憲法フォーラム」にビデオメッセージを送った。菅氏は安倍氏と同様、緊急事態条項の必要性を念頭に置いて次のように述べた。

「例えば今般の新型コロナへの対応を受けて、緊急事態への備えに対する関心が高まっています。大地震等の緊急時において国民の命と安全を守るため国家や国民がどのような役割を果たし、そのことを憲法にどのように位置づけるかは極めて重く大切な課題です。しかし現行憲法において緊急時に対応する規定は参議院の緊急集会しか存在しません」

   このように、緊急事態条項の必要性については、ほぼ安倍氏を踏襲する一方で、自衛隊については次のように述べた。

「また自衛隊は大規模災害や新型コロナ等にも懸命に対応しており国民の皆様の多くから感謝がされ、支持されています。それにもかかわらず、自衛隊を違憲とする声があることもまた事実です。そこで自民党では憲法審査会で活発な議論を行っていただくため、『自衛隊の明記』をはじめ、『緊急事態対応』『合区解消・地方公共団体』および『教育の充実』の4項目について憲法改正のたたき台を取りまとめすでにお示ししています」

   菅氏は自民党改憲案に明記している4つの改憲項目の最初に「自衛隊の明記」を挙げたものの、安倍氏が護衛艦「たかなみ」の視察体験を引き合いに、個人的な感情を込めたのと比べると控え目な言及となった。

   一方、産経新聞は5月3日の1面トップで菅氏のインタビューを掲載。見出しには「自衛隊『9条に位置づける』」と掲げており、緊急事態条項よりも自衛隊を強調して伝えている。

   世論調査は20年よりも改憲に前向きの傾向がみられる。21年の憲法記念日を前に朝日新聞が実施した全国世論調査では「変える必要がある」が前年の43%から45%に微増し、「変える必要はない」が46%から44%に微減し、改憲「必要」と「不要」の差が第二次安倍政権以降最も小さくなって。産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)合同の世論調査では改憲賛成は52.6%で、反対の34.9%を上回っている(4月19日付)。しかしながら、コロナ対策に五輪と課題山積みの菅首相には、安倍氏ほど優先順位を上げて憲法改正に取り組む余裕はなさそうだ。