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「ウマ娘」が再び証明した、ゴールドシップの魅力 リアルもゲームも変わらない「破天荒ぶり」

   大ヒット中のゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」で、一躍「時の馬」となったのはゴールドシップだろう。

   「猛獣」として数々の逸話を残した競走馬のゴールドシップだが、そのエピソードがウマ娘にも活かされてゲームの中で有数の問題児に。しかしその破天荒ぶりが「ゴルシちゃん」として愛される一因にもなっている。

   競走馬のゴールドシップを見てきた公営競技ライターの佐藤永記さんは、ウマ娘のゴールドシップからも目が離せなくなってしまった。競走馬の気分屋ぶりと同じように、ゲームでもトレーナー(プレイヤーの通称)が振り回される様子を佐藤さんがレポートする。

  • このゴールドシップをモチーフにした「ウマ娘」のゴールドシップとは?(写真:アフロ)
    このゴールドシップをモチーフにした「ウマ娘」のゴールドシップとは?(写真:アフロ)
  • このゴールドシップをモチーフにした「ウマ娘」のゴールドシップとは?(写真:アフロ)
  • 「ウマ娘」のゴールドシップはこのような予測困難な言動でトレーナーを惑わせる

競走馬の「ゴールドシップ」はどんな馬だった?

   ゴールドシップの馬券攻略には手を焼いた。

   ウマ娘のゴールドシップが見せるゲームで見せる謎行動、それは史実のゴールドシップも共通している。通算28戦したなかで1番人気になること実に15回、5番人気以下になったことはなく、誰もが認める「最強馬」だったにもかかわらず、通算成績は【13-3-2-10】(1着が13回、2着が3回、3着が2回。馬券圏外の4着以下が10回という意味)。

   馬券圏外になった10回の数字からだけでも、ゴールドシップは気分屋だったという関係者の話を証明しているといえよう。

   ゴールドシップは後方からまくってくる追込馬だ。実際の競馬での1着割合を見ても、追込は全体の1割に満たない数しか決まらないレアな戦い方であるが、ゴールドシップの追込は直線に入って一気にぶち抜く鋭い追い込みではなく、どちらかといえばロングスパートの「捲り」ともいえる追い込みだった。最後方からレースを始め、レース後半から徐々に加速し、直線に入るころにはけっこう前のほうに進出している形だ。

   ゴールドシップを「とにかく筋肉が柔らかい」と評したのは、種牡馬となった彼が所属するビッグレッドファームの総帥で、21年3月に亡くなった故・岡田繁幸氏だ。弾けるような瞬発力を生むゴリゴリのパワーではなく、長くジワジワ筋肉を使う馬、それがゴールドシップだった。

飛び蹴りは「柔軟性の証」

   高い柔軟性は引退後のゴールドシップが飛び回っている写真や動画で確認することができる。斜め下へのローキック写真などは見事な柔らかさと蹴り癖がなければ実現しない。その高い柔軟性がゆえに、ジワジワ筋肉を使う「気分」になるのが遅れると、加速が頂点に達する前にレースが終わってしまう。これが大敗の主な理由だった。

   そして、肝心のゴールドシップが超のつく気分屋なので、不発大敗がどうしても頻発する。気分さえ乗れば......「お願いです、ちゃんと走ってください」騎手がゴールドシップにお願いするエピソードが存在したのもやむを得ないところだ。

   ゴールドシップが気分屋である理由、これも多くの競馬ファンが解明しようと今でも話題になるテーマだ。血統を見ると母方には日本に根付き3代に渡って春の天皇賞を制したメジロマックイーンの血が入っており、日本の長距離への適性と、何代にも渡って同じコースを攻略した賢さも持っている。

   だが、父親であるステイゴールドは現役時代から気性が荒く、これにより狂気が加わり「ぶっとんだ天才」となった、というのが血統からの見立てだ。

   また付け加えると、ゴールドシップはデビュー前に福島で調整されていたところ東日本大震災を経験し、一旦北海道に戻って調整し直した経験を持っている。引退後に近くで救急車のサイレンが鳴り始めるとヘドバンをしだすゴールドシップの動画があったりするのだが、ゴールドシップからすると若いころに経験した震災時のサイレンを想起し、まわりに「おいお前ら、サイレン鳴ってるときはあぶねーんだぞ!」と注意喚起をしていたのかもしれないという見立てもある。記憶力が高く、アタマの良さを示しているのかもしれない。

   ゴールドシップのそのようなエピソードは数多く、競馬ファンの間に膾炙している。

そしてウマ娘の世界でも理解不能

   記録にも記憶にも残るゴールドシップは、ウマ娘の世界でも、やはり理解不能だ。

   たとえば育成3年目の夏合宿終了時にいきなりゴールドシップからクイズを出され、なにかが7個だと言う。出てくる選択肢は「合宿中に割ったスイカの数」「合宿中に拾ったセミの抜け殻の数」、どっちなのかを答えねばならない。俺は何に答えているのだろう......。

   ちなみにどちらを選んでも得られるステータスはランダムなので意味はない。悩むところではないのだが、いろんな意味で悩むのである。

   さらにはゴールドシップがレースを走る目的は、ウマ娘にとっての理想郷「エデン」を探すことだという。「彼女」がレースで活躍してキーワードを集めるという謎ストーリーはシナリオをクリアしても何なのかよくわからない。そして普段の会話では「将棋王を目指す」と言い出すのにアニメでは碁を打ち、トレーニング中にかかわらず雀牌を洗う洗牌をやりはじめる始末だ。

   G1を勝てばドロップキックをお見舞いされ、ゲーム的に直接出る影響としては宝塚記念を連覇すると、勝ったはずなのにマイナススキル『ゲート難』を頂戴する可能性がある設定。どの面を見てもメチャクチャなのだ。気になる、気になる......なんだ、史実のゴールドシップと「わけわからん」点は一緒じゃないか!そして、気がつけば、私が一番育成を試みているのがゴールドシップになってしまったのだ。

   攻略困難なのはキャラクターだけではない。ゴールドシップに固有で設定されているスキルに『不沈艦、抜錨ォッ!』というものがある。レース中間からロングスパートをかけて速度が少しずつ上がる、というものだが、このスキルの発動条件が「レース中盤時点で全体より後ろ(18人出走していた場合10人目以降)」に位置していなければいけないのだが。強すぎるとレース中に前に出てしまい、後方にならずスキルが発動しない、という問題がある。

   これを発動させるために先程紹介した『ゲート難』スキルをあえて獲り、出遅れをひどくすることで確実にゴールドシップが後方になるようにするという、2015年の宝塚記念でいきなり立ち上がって出遅れ、馬券約120億円が紙屑と化した状況にわざと持ってくるというゲームならではの攻略法まで出始める始末なのだ。

「何を考えているのか」を考えたくなる

   史実においても、ゲームにおいてもファンの想像を超えてくるゴールドシップ。破天荒だが決しておバカではなく、とっても賢いため「何を考えているのか」を考えたくなるキャラクターは馬券を買うときでも、ゲームを攻略するときもまったく一緒だ。ゲームではエデンを目指したゴールドシップ、馬のほうといえは、いつまでも引退式を嫌がり、集まったファンに咆哮を披露し引退、今はビックレットファームで驚異の種付け成功率を誇る優秀な種牡馬として今でも伝説を作り続け、まるでエデンを目指すかのような旅をしている。

   「ウマ娘 プリティーダービー」ではどのウマ娘に育成の手間を割いたかがわかる機能がある。トレーナーノートのページでウマ娘ごとに総獲得ファン数が表示されるのだが、私のトレーナーノートを見ると、ぶっちぎりでゴールドシップがファン数で1番だったのだ。好きなウマ娘はスペシャルウィークなのに、である。馬券で多くの悩みを与えられたゴールドシップ、ゲームでも離れることはできない。何の因縁だろうか......ぜひ皆さんも、ゴールドシップに触れて新たな「悩み」を得てみてほしい。

(公営競技ライター 佐藤 永記)